Yahoo!ニュース

藤井聡太挑戦者(19)驚きの角打ちをおりまぜ午前ハイペース71手進行 叡王戦五番勝負第3局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月9日9時。愛知県名古屋市・か茂免において第6期叡王戦五番勝負第3局▲藤井聡太二冠(19歳)-△豊島将之叡王(31歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 豊島叡王は一宮市、藤井挑戦者は瀬戸市出身。両者にとってのホーム名古屋での「愛知ダービー」となりました。

 前日のインタビューで、両者は次のように語っていました。

豊島「やっぱり地元対局は、大盤解説会などに、お世話になってる方も来られると思いますし。気持ちが入るというか。よい対局にしたいなと思います。第3局、できるだけよい将棋が指せるように、せいいっぱいがんばりたいと思います」

藤井「こうして地元でタイトル戦の対局ができるというのは、本当にとても幸せなことかなあ、というふうに思っているので、せいいっぱい指して、地元の方にも楽しんでもらえる内容になればな、というふうに思っています」

 ちなみに王位戦七番勝負第1局の対局場は名古屋能楽堂、8月22日におこなわれる叡王戦第4局は名古屋東急ホテル。両対局者のホームでの対局が続きます。

 叡王戦第1局は藤井挑戦者先手で角換わり。ここ一年ほど、先手番では相掛かりや矢倉を指し、角換わりを指さなかった藤井挑戦者が、なぜまたここに来て、王位戦、叡王戦と、対豊島戦で角換わりを指すようになったのか? そのあたりの事情について、渡辺明名人は次のように推測しています。

「具体的な手順はわかんないけど、角換わりは突き詰めると後手よしっていう見解が藤井君にはあったはず。それが最近変わって、先手もやれるって思い直したんじゃないですか。あと豊島-藤井戦って、番勝負二つ並行でずっと続くじゃないですか。だったら角換わりもまぜていかないと、やる戦法がなくなるのかもしれない」(渡辺)

(『AERA』2021年8月9日号)

 叡王戦第1局終了時点の記事ですが、以下に抜粋が公開されているので、そちらもあわせてご覧ください。

 第1局は藤井挑戦者勝ち。対豊島戦も3連勝。このまま一気に追い越すことがあれば、いよいよ藤井時代の幕開けか――。そんな声も聞かれ始めたところで、第2局は豊島叡王の鮮烈な逆転勝ちでした。

豊島「一つ白星が出たので、気分としてはそんなにわるくはないですけど、ただけっこう内容的には2局、ちょっと苦しい将棋になってますし。王位戦も含めてけっこう課題が多いので。少しでもよくなるように、第3局、指せればという感じです」

 両者の対戦成績はこれで豊島8勝、藤井4勝。第2局の内容を見れば、やはり豊島叡王は藤井挑戦者にとって依然、厚く高い壁のようにも思われます。

 第3局は藤井二冠が先手。

藤井「第2局とは手番も違いますし、また違った展開になるのかなと思ってます。明日から叡王戦第3局ということで、ここまで1勝1敗で、改めての三番勝負という形になっています。自分としてはここまでとまた気持ちを入れ替えて、せいいっぱい臨めればというふうに思っていますので、ご観戦よろしくお願いします」

 本局の立会人は久保利明九段。

久保「それでは定刻になりましたので、藤井二冠の先手番ではじめてください」

 両対局者は「お願いします」と一礼して対局開始。藤井二冠は湯呑を手にしてお茶を飲んだあと、初手、飛車先の歩を突きました。

 叡王戦五番勝負は持ち時間4時間。すべての消費時間が切り捨てなくカウントされるチェスクロック方式です。豊島叡王は2手目、それほど間を置くことなく、こちらも飛車の前の歩を一つ進めました。

 序盤の指し手はあっという間に進んでいきます。先手の藤井二冠はまたもや角換わりを採用しました。

 叡王戦第1局では藤井挑戦者が早い段階で踏み込んで乱戦となりました。本局は王位戦第3局と同様に、腰掛銀です。両者ともに事前準備が十分であることは、その指し手の早さからもうかがえます。

 43手目、藤井挑戦者は桂を跳ねて動いていきます。このあたりは現代将棋の最前線です。豊島叡王も反撃し、やがて前例からははずれました。

 本棋戦の主催は不二家。提供されるおやつはもちろん不二家製です。

 豊島叡王が継ぎ歩で攻めてきたのに対して65手目、藤井挑戦者はそれをとがめるべく、伸びた先の歩の上に角を打ちました。これは驚くような一手。ABEMAで解説を担当する広瀬章人八段、田中悠一五段も感嘆の声をあげました。

田中「はあ・・・」

広瀬「参りましたね」(笑)

田中「参りました」(笑)

広瀬「これは想定した中で打ったのか、それとも自力で発見したのか。どっちなんでしょうね。あるいはこの形の筋なのか」

 角を打ったあと、藤井挑戦者は席を立ちます。盤の前に一人残された豊島叡王は、じっと盤上を見つめました。真夏の叡王戦。外の庭園からはずっと、蝉しぐれが聞こえてきます。

 71手目、藤井挑戦者が銀取りに歩を突き出した局面で12時、昼食休憩に入りました。タイトル戦で最も時間設定が短い叡王戦とはいえ、午前中に71手も進むのはやはりハイペースでしょう。形勢はほぼ互角です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事