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主な新興国/米国経済ニュース(8日)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

米H・パッカード、英ソフト会社オートノミーの買収撤回を検討していた

米コンピューター大手ヒューレット・パッカード<HPQ>は、2011年8月に買収で合意した英国のソフト会社オートノミーの買収手続きが同年10月に完了する前に、この買収を断念する方向で検討していた事実が明らかになった。英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)が4日に伝えた。

これはオートノミーの買収責任を問う形でヒューレットの株主が経営陣を相手取って提訴したカリフォルニア州の裁判所の記録で明らかになったもの。ヒューレットはオートノミーを110億ドル(約1.2兆円)で買収することで合意したが、その後、オートノミーの不正決算が発覚し、ヒューレットに大きな損失を与えたことから、株主が3件の集団訴訟を起こすなど問題が表面化していた。

すでに、ヒューレットは3件の株主代表訴訟で和解を成立させているが、訴訟では、株主側はヒューレットのメグ・ホイットマンCEO(最高経営責任者)と他の経営幹部がオートノミーの財務状況や製品に関し、買収後に問題が起こる兆候を十分に調査しなかったと主張。同CEOも2012年にオートノミーが意図的に決算書の数字を膨らませたため、110億ドル超ものお金をだまし取られたとしている。

今後、ヒューレットではオートノミーの創業者で元CEOのマイク・リンチ氏と元CFO(最高財務責任者)のスショバン・フセイン氏、オートノミーの会計を監査した大手会計事務所デロイトを告訴する計画だ。

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米ホームデポ、顧客カード情報漏えいは約2千店舗に及んだ可能性

米ホームセンター大手ホームデポ<HD>は、顧客のクレジットカードやデビットカードの個人IDの盗難被害が同社の全米2200店舗の大半を占める約2000店に及んでいた可能性が出てきた。米経済専門テレビ局フォックス・ビジネス(電子版)などが4日に伝えた。

これはサイバーセキュリティ問題の専門家ブライアン・クレブス氏の調査で明らかになったもの。同氏によると、ホームデポの顧客のカード情報は、あるハッカーが運営するウェブサイトで売られており、顧客情報の漏えいは4月後半か、5月にまで遡るとし、その上で、昨年に同様な顧客情報の漏えい事件を起こした小売り大手ターゲット<TGT>の規模を上回るとしている。

一方、ホームデポのフランク・ブレイクCEO(最高経営責任者)は4日、投資家との懇談会で、漏えい問題に言及したが、漏えいの事実を認めるまでには至らなかった。

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米保険大手メットライフ、SIFI認定でFRBの規制・監督下へ

米保険大手メットライフ<MET>は4日、金融システミック・リスクを監視する金融安定監視協議会(FSOC、各金融監督機関で構成し財務長官が議長を務める)によって、「金融システム全体にとって重要な金融機関」(SIFI)として認定された。これはプルデンシャル・ファイナンシャル<PRU>とAIG<AIG>に続いて保険会社としては3番目となる。米経済専門テレビ局フォックス・ビジネス(電子版)などが4日に伝えた。

このSIFI認定を受けた保険会社は、自己資本金の増強と、銀行と同様に、FRB(米連邦準備制度理事会)による厳しい規制・監督下に置かれることになる。一方、メットライフはこれを不服として、あらゆる法的手段を使って対抗するとしている。

2007-2009年の世界的な金融危機で金融システムを脅かすリスクが大きい大手金融機関の一つでも破たんすれば世界の金融市場が混乱するという教訓から、米国では2010年にドッド・フランク・ウォール街改革・消費者保護法を制定し、資産規模が500億ドル(約5.3兆円)を超える大手銀行を自動的にSIFI認定しFRBの監督下に置いたが、それ以外の大手ノンバンク金融機関はFSOCの金融システム上重要と判断した場合にSIFI認定することになっている。

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ロシア中銀副総裁:今年のGDP伸び率見通しは修正あってもごくわずか

ロシア中央銀行のクセニア・ユダエバ第1副総裁は4日、ソチで開かれた国際銀行フォーラムで、今年のロシアのGDP(国内総生産)伸び率の見通しについて、「現在の0.4%増の予想を変えたとしても大幅修正はない」との認識を示した。モスクワ・タイムズ(電子版)が5日に伝えた。

一方、経済発展省は8月末に、今年の経済成長率の見通しを0.5%増のまま維持することを決めたほか、インフレ見通しについては、年7-7.5%上昇と予想している。これに対し、ユダエバ副総裁は中銀のインフレ見通しについては、経済発展省と同じレンジ予想になるとした。それと同時に、ユダエバ副総裁は政府が来年から税率5%の売上税の導入を検討していることに関し、政府に対し、インフレの急上昇を招かないよう、また、中期の経済見通しに悪影響が及ばないようにすることを求めていることも示した。

ルーブル相場については、同副総裁は、「ルーブルは現在、好ましい水準にあり、金融市場の安定を危うくするような重大な脅威はないので、当面、市場介入の考えがない」としている。

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1-5日のロシアRTS指数、1257.26―停戦合意で急反騰=BRICs市況

前週(1-5日)のロシア株式市場は、週半ばにウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が一方的にロシアと停戦合意したと発表し、その後、ウクライナ政府と親ロシアの反政府武装組織が同国東部での戦闘停止で調印したことなどを受け、投資家の売り持ちのポジションが手仕舞われる中、株価が急騰し、RTS指数(ドル建て)の5日終値が前週比5.6%高の1257.26と、週間ベースで急反騰した。

週明けの1日は、ウクライナ東部の戦闘拡大を抑えるため、EU(欧州連合)が対ロ制裁第4弾を準備すると表明し、欧州の投資家によるロシア国債の購入禁止措置が新たに導入されるとの憶測も加わり、RTS指数は1.06%安と下落した。2日は手掛かり材料難の中、株価は小反発となった。しかし、3日はウクライナのポロシェンコ大統領が一時、ウラジーミル・プーチン大統領との電話会談でウクライナ東部での恒久停戦で合意したと発表し、その後ロシア政府は恒久停戦を否定したものの、市場では両国が和平に向けた話し合いの第1歩を踏み出したとの見方が広がり、RTS指数は5.2%高と、急騰した。

4日はポロシェンコ大統領が5日のベラルーシの首都ミンスクで開かれるウクライナの政府軍と親ロシアの反政府武装組織との停戦協議が合意に達すれば、モスクワ時間の5日午後3時に、政府軍に戦闘中止を命令すると約束したことや、ECB(欧州中央銀行)の政策金利を0.05%への利下げ決定を好感して、RTS指数は0.18%高と続伸。週末の5日もポロシェンコ大統領が停戦命令を出したことから、西側の対ロ追加制裁の実施が遅れるとの見方で、RTS指数は1.27%高となった。

今週(8-12日)のロシア市場は、引き続きウクライナ情勢と、EUの対ロシア制裁第4弾が打ち出されるのかどうかが市場の焦点となる。

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前週のインド株は4週続伸―堅調な経済指標で=BRICs市況

前週(1-5日)のインド株式市場で、代表的株価指数SENSEX指数の5日終値は、前日比0.2%高の2万7026.7と、過去最高値を更新し、週間では8月29日終値比389ポイント(1.5%)高となった。週間ベースでは4週連続の上昇。

週明けの1日は、29日に発表された4-6月期GDP(国内総生産)伸び率が年率換算5.7%増と、市場予想を上回り2年半ぶりの高い伸びとなったことや、モディ首相が外資参入促進などの経済改革を進めるという発言が好感され、SENSEXは0.86%高と、過去最高値を更新した。2日は中銀が発表した4-6月期の経常赤字の対GDP比が1.7%と、前年同期の4.8%から大幅に低下しマクロ経済の改善が示されたことで株価は続伸。3日もウクライナ政府がウクライナ東部の停戦合意を発表したことや海外市場の堅調を受けて、SENSEXは0.45%高と、9営業日連続の上昇を記録した。しかし、4、5日は高値警戒感から利食い売りが広がり、外国人投資家も株価指数先物を売る動きが活発化し、2日続落となった。

今週(8-12日)のインド市場の見通しについては、アナリストは、ECB(欧州中央銀行)が4日の理事会で利下げと1兆ユーロ(約140兆円)規模の資産買い入れの実施の可能性を示したことや、FRB(米連邦準備制度理事会)も当面、金融緩和のスタンスを維持すると見られることから、外国人投資家からの現物株への投資が期待でき、国内経済の堅調さにも助けられて、インドの株式市場は堅調が続くと見られている。

主な経済指標は、10日の8月貿易収支と12日の7月鉱工業生産指数と8月CPI(消費者物価指数)などの発表などが予定されている。

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前週のブラジル株は4週ぶり反落―現大統領の支持率上昇で=BRICs市況

前週(1-5日)のブラジル株式市場は、5日のボベスパ指数が8月29日終値から1%安の6万0681.98と、4週ぶりに反落した。月初来も1%安となったが、年初来では17.81%高と、依然、高水準となっている。

ボベスパ指数は週明けの1日は、世論調査で新大統領候補のマリナ・シルバ氏が10月の大統領選挙の決選投票で勝利するとの見方が強まる中、現職のジルマ・ルセフ大統や他の大統領候補となっているアエシオ・ネベス上院議員による第2回テレビ討論を夕方に控えて、ボベスパ指数は0.2%安と、小安く引けた。2日は調査会社3社が週内にも大統領選の世論調査を実施することが分かり、ルセフ大統領の支持率低下期待から金融株を中心に買われボベスパ指数は1.2%高と反発。3日は利食い売りでブラジル国営石油大手ペトロブラスを中心に売られて、ボベスパ指数は反落した。

4日はブラジル世論調査会社IBOPEが前日に発表した世論調査で、ルセフ大統領の支持率が予想に反して上昇し、シルバ候補が決選投票で負ける可能性が示されたため、国営のブラジル銀行が5.8%安、ペトロブラスも4.8%安と、国営企業の銘柄が売り込まれ、ボベスパ指数は1.7%安と、大幅に値を下げた。週末の5日も2社の大統領の世論調査の発表を10日に控える中、0.19%安と続落した。

今週(8-12日)の株式市場は、引き続き、大統領選挙を控えた世論調査などに左右される見通し。また、主な経済指標や行事は、8月貿易収支(10日)や中銀金融政策決定会合議事録公表(11日)、7月小売り売上高(11日)、7月IBC‐Br景気指数(12日)などの発表が予定されている。

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ウクライナ政府と親ロシア派武装組織、12項目の停戦協定で合意

ウクライナ東部での戦闘停止を目指すウクライナ政府と親ロシア派の反政府武装グループの和平協議が先週末、ベラルーシの首都ミンスクで開かれ、停戦を含めた12項目の合意文書に調印した。モスクワ・タイムズ(電子版)などが伝えた。

会議はロシア政府と西側のOSCE(欧州安全保障協力機構)の代表も同席して行われ、戦闘停止は現地時間の5日午後6時(日本時間同日午後11時)から発効した。停戦監視はOSCEが行う。

両者が合意した12項目の和平条件の内容は明らかにされなかったが、難民救済など人道的援助のための輸送路の確保も含まれているもよう。また、ボイス・オブ・アメリカ(5日付電子版)によると、ポロシェンコ大統領は、反政府武装組織の捕虜となっている東部住民の即時解放を求めており、このほかドネツク州とルハーンシク州での言語の選択の自由や地方分権の確立、さらには同大統領が6月に示した和平提案に盛り込まれている、戦争犯罪者を除く武装グループの投降者への恩赦について取り組む考えを示している。

一方、これより先、プーチン大統領は3日に、ウクライナ政府に対し、7項目の和平合意のための条件を提示している。これは、(1)ウクライナ東部に展開する政府軍と親ロシア派武装グループはドネツク州とルハーンシク州での戦闘拡大を停止する(2)ウクライナ政府軍は同国南部から撤兵し、上空や人口密集地域への高射砲攻撃を停止する(3)無条件で双方の捕虜を交換する(4)政府軍と親ロシア派武装グループが5日にベラルーシの首都ミンスクで和平会談を開き停戦に合意する(5)国際的な機関による停戦監視(6)住民への空爆禁止(7)戦闘で破壊されたインフラの修復。

しかし、アナリストの多くはプーチン大統領の7条件のうち、ウクライナ東部の主要都市からの政府軍の撤退と反政府組織による支配の継続を認めることは、敗者であることを認めることになるだけに応じないと見ており、両者が停戦協定を長期にわたって守るかは疑問視する見方もある。

過去にも6月に政府軍と親ロシア派の反政府組織との間で停戦が成立したが、わずか10日間しか持たず戦闘が再開している。今回はウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の後ろ盾を持った停戦協定となっているだけに、ウクライナ政府関係者は長期に継続することが期待しているが、NATO(北大西洋条約機構)や対ロ制裁第4弾の発動を目指しているEU(欧州連合)の加盟国は一様に、今回の停戦協定はウクライナ東部での混乱を継続するというロシア側の真の狙いを隠す“煙幕”にすぎないとして、警戒感を緩めていない。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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