昭和とは全然違うよ!ビジネスモデルや記入ページから見た令和の手帳の現在とは?
先日、「24Diary」の開発者の方とClubhouseでお話しする機会がありました。
「24Diary」は、クラウドファンディングの達成によって最初の1000冊限定販売の形でスタートした手帳です。
そのうたい文句は
「1クール3ヶ月で人生がドラマティックに変わる」
1クールという表現が、確かに“テレビドラマ”チックではありますよね。
記入面の特徴としては、予定記入欄全ページとも日付なしとか、0時から始まる24時間の時間軸や、各種ウィッシュリスト、またページのそこここにちりばめられた問いかけの文言と言ったところでしょうか。さらに言えば、予定記入欄全体にあしらわれた飾り罫の女子力の高さたるや、ファンデーションのノリもよくなりそうなぐらい(!)です。
ともあれ、こういう外見からは実はよくわからない部分がこの手帳にはありました。
そしてそれは、現時点における手帳という文具の1ジャンルが少しずつ変異していることを象徴しているとも思えたのです。
こんにちは。デジアナリスト・手帳評論家の舘神龍彦(たてがみたつひこ)です。
今回は、この24Diaryの記入欄やビジネスモデルを通じて、昭和と令和の手帳の違いを考察しようと思います。
ビジネスモデルは本体+セミナー+コミュニティ
まず、この手帳のビジネスモデルについて。日付なしで3ヶ月分というのはいつからでも使い始められます。
私は、これまで自分のイベント「手帳オフ」で、綴じ手帳をまるごと一冊作ってしまう人たちに何人もあってきました。そして彼らのほとんどは日付をきっちり入れていました。これは同時にリスクでもあります。なぜなら、手帳は日付が入っているが故に、その年が過ぎてしまえば、いわば賞味期限切れになるからです。もちろんこれは大手メーカー製であっても避けられないことです。
その点、24Diaryは、こういうリスクとは無縁です。非常に懸命な判断だと言えます。
ビジネスモデルにも特徴があります。
この手帳は基本的にセミナーを受講することがオススメになっているようです。
しかもそれは当世風のオンラインセミナーなのです。
この手帳の公式オンラインショップには、セミナーの申し込みページに開催の日付候補がならんでいます。
使い方のセミナーがある手帳は、古くはフランクリン・プランナーなどがありました。ただ、最初からオンラインのセミナーというのが、現代の手帳というかんじをうけます。
24時間ぞっこんプロジェクト
もうひとつのユニークな点は、ユーザーコミュニティが最初から用意されていることでしょうか。
日本においては、手帳はその発行する共同体(国家から会社まで)と無縁ではありません。詳しくは拙著『手帳と日本人』(NHK出版新書)に書きましたが、その共同体の価値観を体現し、それを持つことがその共同体に所属し、その共同体の価値観を共有しているあかしである。手帳とはかつてはそういう存在だったわけです。
そして、24Diaryでは、オンラインセミナーとは別に、「ぞっこんプロジェクト」という有料オンラインサロンがあるそうです。その内容は、手帳の利用を習慣にするための各種レクチャーだそうです。具体的にはデイリーシート、ウィークリーシート、目標設定などのやり方を細かく説明してくれるもののようです。これは事実上のコミュニティといえるでしょう。
昭和の手帳のような大きな共同体ではありませんが、ネットやSNS上におけるバラバラな個人に、帰属感を持たせてくれる仕組みが用意されているわけです。
また、24Diaryはそもそも単なる予定管理ツールでもありません。
どちらかといえば、平成時代の自己啓発的な夢実現系の手帳に近いものです。
平成時代のものとの違いは、それを個人が発案し、スモールビジネスとして展開しているところでしょうか。
個人またはそれに近い規模の会社などが、手帳を作る例については、これまでも考察してきました。
令和の現在においては、この24Diaryをはじめとして、筆者が「ほこら系手帳」(※1)と命名する各種手帳が、全国にいくつもあるようです。
これが、令和の手帳の現在です。そしてそれはインターネットもSNSもなかった昭和の時代には、ほとんどあり得なかったものなのです。
昭和の手帳とは、会社から支給される紙でできた予定管理用のツールでした。
24Diaryのような令和の手帳は、スモールビジネスとしてオンラインで販売され、活用セミナーや専用コミュニティを持つ、予定管理にとどまらない夢実現なども目的に含まれるツールです。
もっとも、24Diaryのような手帳が令和の手帳の全体とも言えません。
大手メーカー製の手帳がある一方で、いわゆる神社系手帳はやや退潮傾向にあり、デコる目的でひたすらカラフルに記録する手帳もあります。その中での24Diaryであり、そのほかの各種ほこら系手帳なのです。
そもそもこんなに多様な実態があることが、昭和と令和の違いでもあります。
世間がデジタル化一辺倒になるという観測をよそに、アナログな手帳は、実態と制作者と流通形態を変えつつあるということでもあります。
『手帳と日本人』(NHK出版新書)
※1 ほこら系手帳とは、筆者の造語。小さな会社やコミュニティがその成員に対して作って配布・販売するようなもの全般を指す。また一個人や小さな会社が制作する手帳も便宜的にここに分類することもある。