Yahoo!ニュース

コロナ影響で延期&中止相次ぐ…。いま振り返りたいラグビーの価値。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
延期前最後の第6節。神戸製鋼と東芝の激突にファンは興奮(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 日本ラグビー協会(日本協会)は3月2日、全国高校ラグビー選抜大会(選抜大会)と2019年度の高校日本代表のウェールズ遠征の中止を決めた。

 24~31日に埼玉・熊谷ラグビー場で開催予定だった選抜大会の中止を伝えるリリースには、こんな談話が載った。

「2月27日に、政府より新型コロナウイルスの感染拡大を防止することを目的として、3月2日から全国すべての小中高校や特別支援学校の休校が要請されたことから、日本ラグビーフットボール協会は、この時期での高校生以下の大会の実施を避けるべきと考え、中止とすることが適当と判断いたしました」

 各種報道によれば、安倍晋三首相が発した上記の休校要請は、文部科学省や政府の専門家会議でも議論にならなかったという突発的な事案だ。現代社会は共働き家庭など多様な家族形態で成り立っているとあり、国会でも議論の対象となっている。後追いの形となる政府からの状況説明がどれだけ国民のニーズにかなうか、注視されている。

 日本協会は2月26日にも、同29日以降の国内トップリーグ第7、8節の延期を発表している。この時は専門家会議が同24日に発した「この1〜2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際である」という談話、サッカーのJリーグが延期を発表したことなどを受けて決めた。

 一般論で比較的免疫力が低いとされるトップアスリートへの感染リスクを鑑みれば、少なくとも国内試合の中止や延期は妥当な判断とも取れる。ただし、その決断の根拠の設定については、さらなる熟考が必要かもしれなかった。

 今度の決定を受け、トップリーグや同リーグ加盟クラブの公式ツイッターは普段おこなわない企画を実施した。週末は「#エアジャパンラグビートップリーグ2020」というハッシュタグのもと、それぞれが保有する写真をアップ。ファンとの接点を作った。

 スーパーラグビーに日本から挑むサンウルブズでも、国内で練習中の木村貴大らが2月29日にニュージーランド・ネイピアであったハリケーンズ戦時にインスタグラム内でライブ解説を決行。サンウルブズも国内の流れとは別文脈で、3月に実施する予定だったホームゲームを海外でおこなうことになっていた。

 

 このように、確たる行動哲学を貫くポテンシャルもラグビー界にはある。そもそもラグビーはぶつかり合いをし続ける競技で、逆境を自らの頭と心で乗り越えようとする精神性と距離が近い。言い方を変えれば、ラグビーの真骨頂は「右へならえ」の精神と別のところにある。

 それだけに、プレイヤーズファーストの観点で決めたであろう延期や中止という決断の背景について、安定性に疑問の残る「要請」を持ち出すのは選手へのリスペクトと無縁にも映る。本稿が「決断の根拠の設定については、さらなる熟考が必要」と示したのは、そのためだ。

 以下、余談である。

 昨秋はワールドカップ日本大会の影響で、競技の認知度が爆発的に高まった。おかげでラグビーが一般社会にもたらす多彩な価値も、広く認知されたのではないか。

 たとえば、職務能力に定評のある指導者が持つ対応力と哲学の深さ。

 優勝した南アフリカ代表のラシー・エラスムスヘッドコーチ(当時)は、日本代表との準々決勝を前に日本人メディアから「もしあなたが対戦相手なら、南アフリカ代表の堅いディフェンスをどう攻略するか」と聞かれた。即答だった。

「防御は、私が(南アフリカ代表で)コーチングを始めてからかなりフォーカスした部分であります。この防御を基盤に、キックング、アタッキングのプランを立てました。アタックにも十分に満足できますが、防御にフォーカスしてきたことが我々の強み。当日もそれを活かしたいと思っています」

 大会期間中というタイミングを踏まえて質問の意図と異なる趣旨で述べたが、チームの特徴をマネージメント側の視点で明かしてくれてはいた。当然ながら、台本は用意されていなかった。

 ここまで書いたうえで思い返すのは、準優勝したイングランド代表のエディー・ジョーンズ監督が日本代表を率いていた頃に残した談話のひとつだ。

「私が若い日本人選手ならファーストプレーでジョージ・スミス(この時日本でプレーしていたオーストラリア代表経験者)をスマッシュします」

 代表入りを目指す若手を叱咤する趣旨で、このように断言していたのだ。精神論を持ち出す際も、具体性を伴わせていた。

 顔の下半分を隠す人すら街から消えつつある日本社会。ラグビーの物語が人々に何を気付かせるのかについても、より広く共有されたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事