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食べる仕事から見た【外食】に何が起きているのか【5月】アルコール広告への抗議に見る分断と今月の27店

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

『京急蒲タコハイ駅』にNPO法人が「公共性を完全に無視」と抗議 サントリーは「真摯に受け止め対応」と装飾撤去を認めて駅広告を縮小

https://www.news-postseven.com/archives/20240527_1966529.html?DETAIL

一般客と区分されるエリアのイベントでも認められないのか

不思議な話です。嫌悪した人も多かったようで、少なくともこのニュースがNEWSポストセブンで出回ったとき、悪名高きヤフコメの民たちも嫌悪するような声のほうが目についた気がします。

「駅は不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。乗客には、20歳未満、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます。また、早朝からの通勤・通学や勤務の移動時に酒類広告はなじみません」(NPO法人ASKホームページより)

思い切りのいい物言いです。その他の部分も含めて、随所にツッコミが入っていますが「なじみません」と断じるところに清々しさすら覚えます。

もしかすると、NPO法人側もこんなにあっさり通ってしまうとは思わなかったのかもしれません。HPから調べてみると、同様のクレーム案件は2年前の2022年8月「若者を対象にした「サケビバ!日本産酒類の発展・振興を考えるビジネスコンテ スト」の中止を求める緊急要望書を提出しました。」というリリースにもありました。

https://www.ask.or.jp/updates/10570

このときは8団体が賛同しています。しかし今回は「主婦連合会」のみが賛同し、残りの7団体は名を連ねませんでした。賛同者が少ないとことさらに語調が強くなり、かえって孤立してしまうというケースは会議や打ち合わせでもままあることです。

問い合わせやクレームを入れること自体が悪いことだとは思いません。でも2024年現在、カスタマーハラスメントという言葉があるように、もはや広告を打つ側が弱者であり、「傷ついた」とクレームを入れる立場のほうが横暴な印象を与えてしまうケースだってあるでしょう。

自分の正義をただ声高に主張して、相手に主張を無理やり飲ませて溜飲を下げても、誰にも何の利もありません。大切なのは、誰もアルコールや薬物に依存せずに済むような世界の実現で、そこに至る道は一定のガイドラインを守った経済活動を行う企業に、がなり立てるように大声でクレームを入れることではないはずです。

そうした息苦しさの先には分断があり、その分断こそが人を孤独にさせてしまう。可能性の話をするなら、そうした空気がアルコールや薬物をはじめ、何かに依存せざるを得ないような社会を醸成してしまう可能性だってあるはずです。

そもそも京急蒲田駅の当該エリアは「ホーム」と言えばホームではあるものの、通常の乗り換えルートなどからは外れていて、普段はほぼ使われていないエリアです。「ホームが酒場に!」とあわてるような場所でもありません。

先日当該記事に追記がありました。

「5月27日17時ごろ、サントリー広報部から連絡があり、「6月の実施に関しては関係者間で検討を続けております」としていたホーム上での飲食イベント「京急蒲タコハイ駅酒場」については「予定通り、6月8日(土)、9日(日)に実施いたします」とのことだった」

この間、NPO法人とサントリーの間に対話はあったのでしょうか。分断を避けるため、互いの共感点を探しながらの建設的な対話が行われたことを期待……までは行きませんが、願っています。

正しいことは、いつも自分の知らないところにあるような気がします。だから自分の知らない、未知なる価値に手を伸ばし、忘れそうな何かを思い出す。そうやって、対立や反発を招きそうな自分の心をなだめ、誰かとの関係をやわらげていけたらいい。たまたまですが、GWをはさんで始まった今月の外食(と旅)はそんな機会が多かった気がします。

〆のスパイスカレー
〆のスパイスカレー

(以下に27店についての記述と67枚の画像)

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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