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最終盤でマジック炸裂 羽生善治九段(49)が佐藤康光九段(50)を逆転で降して竜王戦1組ベスト4進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月6日。東京・将棋会館において竜王戦1組ランキング戦2回戦▲羽生善治九段(49歳)-△佐藤康光九段(50歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は22時15分に終局。結果は93手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段はこれで1組ベスト4に進出。決勝トーナメント(本戦出場)に大きく前進しました。

元竜王同士の熱戦

 両者の対局はこれで163局目。中原-米長戦(187局)、羽生-谷川戦(168局)、大山-升田戦(167局)に次いで、歴代単独4位の記録となりました。

 竜王戦においても1993年、94年、95年と3期連続で七番勝負で対戦するなど、数々の名勝負を繰り広げてきました。

 最近では、A級順位戦最終局の激闘が記憶に新しいところです。

 竜王戦1組1回戦。羽生九段は橋本崇載八段に勝ちました。

 佐藤康光九段は木村一基王位と対戦。最終盤は二転三転で、最後は勝ちになった木村王位が佐藤玉の詰みを読みきれず、再逆転して佐藤九段の勝ちとなりました。

 本局は振り駒の結果、先手は羽生九段。序盤は一般的な角換わりの出だし・・・と思いきや、佐藤九段が変化して、定跡形からははずれた戦いとなりました。

 羽生九段は飛車先の歩を交換して、佐藤陣の弱点と見られる桂頭を攻めます。対して佐藤九段は金を三段目に上がり、力強く迎え撃ちます。「力感(りきかん)あふるる」とは、将棋を語る上での古いフレーズです。佐藤九段の指し回しを見ていると、そうした表現を使いたくなります。

 佐藤九段が桂を跳ねて反撃に転じ、銀桂交換の実利を得たのに対して、羽生九段は佐藤陣に生じたスキに角を打ち込み、自陣に引き成って手厚い馬を作ります。

 終盤の寄せ合いに入ったところでは、佐藤九段がわずかに抜け出したようです。羽生玉の歩頭に桂を打ち込む手筋で、一足早く羽生玉に迫ります。対して羽生九段も寄せ合いに出て、一手を争う終盤戦となりました。

 佐藤九段は残り15分の中から5分を割いて、香で取られる空間に、桂を王手で打ちました。これが継続の寄せの好手。この桂を取れば詰んでしまうので、羽生九段は上部にかわします。そして羽生玉は受けなしに追い込まれました。

 羽生九段は飛車を成り込んで龍を作り、佐藤玉に王手をかけました。金か銀か。合駒に何を打つか、悩ましいところです。佐藤九段は銀を選びました。ここでまず形勢が逆転したようです。

 対して羽生九段も残り時間が切迫し、最善の迫り方だったかどうかはわかりません。逃げる佐藤玉に、再度龍で王手をかけます。

 ここで再び合駒が悩ましい。佐藤九段は持ち駒を使わずに銀を引きました。対して羽生九段は自陣の馬で佐藤陣の端の香を取ります。これが「羽生マジック」と呼ぶにふさわしいであろう、逆転の妙手でした。これで羽生玉は詰めろをしのいでいます。

 佐藤九段はその馬を飛車で取ると、羽生玉への詰めろが続いていないため、羽生九段の一手勝ちとなります。

 佐藤九段は詰めろを続ける手を指しました。するといま取った香の威力で、佐藤玉は作ったようにうまく詰んでいます。

 いつもながらに鮮やかな逆転劇で、羽生九段が勝利を収めました。

 終局後、佐藤九段の口からは「本譜で勝ちだと思って長考して・・・。抜けてましたね」「勝ちだと思ってたら、気がついたら負けになっていた」などと反省の言葉が出ていました。

 93手と手数は短いものの、羽生九段、佐藤九段の持ち味が十二分に出た一局だったように思われます。

 羽生九段はこれで1組ベスト4に進出。決勝トーナメント(本戦)進出まであと1勝と迫りました。2018年末に竜王位を失って以来、無冠が続いている羽生九段。来年度は再びの戴冠、そしてタイトル通算100期はなるでしょうか。

 羽生九段、佐藤九段の対戦成績は、これで羽生108勝、佐藤55勝となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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