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大地震のトルコを襲う「寒冷渦」 凍てつく寒さに雨雪風

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
火を囲んで暖を取るトルコの被災者(写真:ロイター/アフロ)

こんな分析があります。

日本は世界でもっとも地震が起きやすい国。トルコは、地震で壊滅的被害が出やすい国。

地震大国のトルコで6日(月)未明、最大マグニチュード7.8の大地震が発生しました。震源地は、南東部のガズィアンテップ周辺でした。ガズィアンテップは多くのトルコ料理の発祥の地ということで、“食の首都”としても知られているそうです。

地震波は遠く離れたグリーンランド、さらにアメリカでも観測されており、今回の地震の大きさがうかがえます。

被害と救助作業

崩壊した10階建てのビルからは、2歳の女児と母親が救出されました。しかし残念ながら死者数は右肩上がりに増えており、隣国シリアと合わせると、5,000人を超えたと報道されています。

いまだ多くの人たちが瓦礫の下敷きになっており、死者数は1万人に達するという憶測も出ています。

(↓ 地震直前に見られた、鳥の異常行動)

悪天の原因

救助作業をさらに過酷にしているのが、悪天です。

トルコでは12月、1月と、平年を上回る暖かさが続いていました。ところが地震の発生とほぼ時を同じくして、今季一番の寒気がやってきたのです。

下図は6日(月)の天気図です。トルコに低気圧があります。この低気圧は「寒冷渦」と呼ばれ、上空に寒気を伴う動きの遅い嵐です。

イギリス気象庁出典の6日の地上実況天気図に筆者加筆
イギリス気象庁出典の6日の地上実況天気図に筆者加筆

地震の起きた6日(月)未明、ガズィアンテップの気温はほぼ0度まで下がりました。日中も2~3度で推移したうえ、風と共に、強い冷たい雨も降っていました。

7日(火)朝は1度まで下がりました。同日夜にはさらに冷え込んで、-6度の予想が出ています。これはこの時期の平均を7度近く下回る低温です。

こうした容赦ない寒さが、少なくても来週まで続く予想となっています。

寒冷期災害のリスク

よく「72時間の壁」などと言われますが、災害発生後およそ3日を過ぎると、生存率が一気に下がることが知られています。

今回の場合、氷点下の寒さと風、雨雪が加わるので、事情は一層深刻です。体温が下がり低体温症になると、筋肉が硬直したり、血圧が低下したりして、致死率が高まります。

避難所に逃れた被災者も、次のようなリスクが伴うといいます。

・トイレに行く回数を減らそうと水を控えることで、エコノミークラス症候群

・インフルエンザや肺炎などの感染症

・寒さや換気不足から、ぜん息の悪化

・車中泊や発電機の使用で、一酸化炭素中毒

一刻も早い被災者支援が求められています。

***参考資料***

日本赤十字北海道看護大学 災害対策教育センター 根本昌弘先生

『寒冷期の津波災害を想定した課題』(PDF)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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