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女子中学生と教師の淡い恋が離島で揺れる…。『KATE』モデルの武イリヤが演じた思春期の真っすぐな想い

斉藤貴志芸能ライター/編集者
トラスター提供 ヘア&メイク/佐々木一憲

かつて潜伏キリシタンが逃げてきた長崎の離島で、夏休みを過ごす国語教師と女子中学生の淡い恋を描く映画『リッちゃん、健ちゃんの夏。』。『KATE』のビジュアルモデルなどを務める武イリヤが、撮影当時は大学1年生で、中学2年生の主人公を演じた。モデルとしては華やかな佇まいが目を引くが、劇中では思春期の無垢な真っすぐさを体現している。

『銀河鉄道999』のメーテルが好きでした

――武さんは一時、ツイッターのネタが『ヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)』だらけでしたね(笑)。

 私が一番好きなキャラクターは、ヴィラン(敵)の荼毘です。彼の過去を知ったうえで、というのもありますけど、青い炎で人を燃やしながら、自分も火傷してしまう。それでも個性(超常能力)を出し続けるのがたまらないという、ただのオタクですね(笑)。でも、ダークヒーロー感が強くて、見た目もツギハギだらけでちょっとグロいけどカッコイイし、ファッション的にもオシャレ。そういうところが好きです。

――悪役に惹かれがちなんですか?

 子どもの頃から、アンパンマンよりばいきんまんに勝ってほしいと思っていたタイプです(笑)。ずっとヴィラン系が好きでした。

――『ヒロアカ』に関して、「こんなにアニメにハマったのは銀河鉄道999ぶり」とのツイートもありました。『999』は30年以上前のアニメですが……。

 小学生の頃、デアゴスティーニの3話分入っているDVDを親が買ってきて、観たらめちゃくちゃハマったんです。全話集めて、マンガも全巻買いました。メーテルが大好きでした。

――それで髪を伸ばしたとか?

 そういうわけではないですけど(笑)、メーテルのコスプレもして、熱狂的でした。今もずっとハマってます。

トラスター提供
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中学時代は自分から壁を作って孤立したり

――『リッちゃん、健ちゃんの夏。』では中学生を演じていますが、武さん自身の中学時代はどんな子でした?

 思春期の真っ盛りでしたね。クラスでも一時期、自分から孤立しました。クラス替えで好きな友だちと一緒になれなくて「最悪!」と思って。「絶対1人でいてやろう」と強い意志を持って、壁を作っていたんです。みんなで合唱コンクールの練習をしていたときも、私だけ窓の外を見て、たそがれていて(笑)。「参加しなよ」と言われても「いや、いい」みたいな。1学期はずっとそんな感じで、どちらかというと陰キャ寄りでした。

――部活には入ってました?

 部活には入らず、外でひたすら乗馬をやっていました。あと、マイケル・ジャクソンにもハマりましたね。同級生と語れるような趣味はなくて(笑)。

――でも、たぶんきれいで目立っていたんでしょうね。

 まったく目立ってなかったです。高校生になって、こういう仕事を始めてから、ちょっと話題にされたくらいで、中学では全然モテもしなくて。

――また、また(笑)。

 自分から告白した人には全部断られました。私が好きになるのは変わった人でしたけどね(笑)。昼休みにずっとマンガを描いている男の子に「俺は彼女は作らないから」と言われて、ダメだったりしました。

――今回の映画みたいに、先生を好きになったことはありますか?

 塾にアルバイトの大学生の先生がたくさんいて、カッコよく見えたりはしました。しかも勉強を教えてくれるので、好きにはなっていませんけど、ちょっと憧れはありました。

トラスター提供 ヘア&メイク/佐々木一憲
トラスター提供 ヘア&メイク/佐々木一憲

演技で人の感情を動かせたらすごいなと思って

――芸能の仕事は高校生から始めたんですね。

 小学生の頃から、事務所には入ってました。スカウトされて、親に「入ってみれば」と言われて、レッスンには通っていて。でも、親に言われただけで、やる気はなくて、事務所にいても意味ないと思ってました。高校生になってから、「やれるものならやろう」と気持ちが変わってきたんです。

――何かで火がついて?

 学校から帰ってきて、『1リットルの涙』の再放送を観たんです。毎回死ぬほど泣いて、「こんなに人の感情を動かせるのはすごいな」と思いました。「自分も観る人を泣かせたりできるかな?」と考え始めて、事務所を移って女優を目指しました。

――夢ができて日常生活も変わったり?

 相変わらず乗馬に行っていたくらいです(笑)。やりたいとは思っても、芸能界はそんなに簡単ではないだろうし、結局は普通に大学に行って就職する気がしてました。でも、気づいたら意外といろいろやらせていただけて。最近はモデルの仕事が多いですけど、続けてこられています。

トラスター提供
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泳げないのに海に何度も飛び込んで死ぬんじゃないかと

あいち女性国際映画祭ほか3つの映画祭でグランプリを受賞した『リッちゃん、健ちゃんの夏。』。長崎の佐世保に住む中2のリッちゃん(武)は、両親の離婚で2学期から東京へ転校する。夏休みの間、恋する国語教師の健ちゃん(笈川健太)を追って、昔、迫害された潜伏キリシタンが逃げた離島の黒島にやってきた。

――『リッちゃん、健ちゃんの夏。』の撮影は2年前だったそうですが、撮っていたときのことは覚えていますか?

 鮮明には覚えていませんけど、印象に残っていることはあります。

――海の中に飛び込んだこととか?

 あれはすごく辛かったですね。私、水がダメなんです。泳げなくて息継ぎもできなくて、学校の25mのプールでも沈んでいくタイプでした。あのシーンでは5~6回飛び込みましたけど、死ぬんじゃないかと思いました。最初のとき、息ができなくてガバガバッとなっちゃって、初めてガチで生命の危機を感じたんです。「ああ、このまま死ぬんだな……」という。

――スタッフさんが助けてくれたんですか?

 海女さんが待機してくれていました。でも、ガバッとなりながら「暴れたらダメだ」と思って、そのままでいたら、自然と浮いて「生きられたな」と。

――それにしても、ああいう撮影は衣装が濡れたりするから、一発で済ませたのかと思ってました。

 私もビックリしました。「まだ撮るの!?」という(笑)。飛び込んで、服と髪を乾かして、また飛び込む繰り返し。天気の問題もあったんです。最初に飛び込んだときは曇っていて、「晴れたらまた撮りたい」となって。めちゃくちゃハードでした。

――海の中でキスもしてましたが、ロマンチックな雰囲気でもなく?

 ひたすら溺れないようにしていました(笑)。

『リッちゃん、健ちゃんの夏。』より (c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.
『リッちゃん、健ちゃんの夏。』より (c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.

中学生の気持ちになるために日記を読み返して

――リッちゃん役はオーディションで決まったんですか?

 映画祭のイメージキャラクターのオーディションとして受けました。そのときはまだ、この映画の台本はできてなかったんです。リッちゃんや健ちゃんと関係ない台詞で演じました。決まってから、監督が私と笈川さんのイメージで脚本を書いたので、オーディションの時点では、どんなお話になるのかもわからなくて。なぜか男役もやりましたから(笑)。「ふざけんじゃねえよ!」とか言って。

――じゃあ、中学生の役と聞いたときは?

 「大丈夫?」と思いました(笑)。見た目は化粧を薄くして、髪とかを変えれば何とかなるかもしれませんけど、気持ちを中学生にするのが大変でした。私は中学の頃、何で悩んでいたのか? 当時の日記を見つけて、ひたすら読みました。それでいろいろインスピレーションが生まれて、演技に役立ちました。

――その日記に青春の悩みが書いてあって?

 先生に出していた日記なので、恋愛の話はなかったんですけど、「このクラスはイヤです。今すぐ替えてほしい」とか、生意気なことを書いていたり(笑)。思ったことを全部言っちゃうのは、中学生ならではですよね。

――思い込みの強さは、リッちゃんにもありましたね。

 私の日記には「テストが終わりました。できなかったので死にたいです」と書いてありました。そしたら、先生に「死にたいとか簡単に言うものではありません」と書かれて返ってきて。今読むと、すごく恥ずかしいです。「そんなことで悩んでいたのか」と思ったり(笑)。

トラスター提供
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好きになれば行動にすぐ移すのはわかります

――劇中でも「うちはこの島で死んでもよか」という台詞がありました。

 中学生の頃って、すぐめちゃくちゃ好きになって、冷めるのも早いと思うんです。恋愛のことを何もわからないから、「好き」というだけでものごとを進めていくのが、懐かしく感じました。私はどんな恋愛をしたか記憶を辿っても、「死んでもいい」と思ったことはありません。でも、好きだと思ったら、すぐ行動に移すのはわかりますね。

――健ちゃんに「永遠に愛することを誓います」とストレートに言ったりも。

 永遠の愛にも憧れましたね。中学からつき合って結婚するという、ありがちな妄想をしていました。そんな恋愛は全然なかったですけど(笑)。

――見た目や振る舞いで、中学生に見えるために意識したこともありました?

 無邪気さとか、「何でだろう?」と思ったら「何で?」と聞く真っすぐさは、意識しました。でも、自分とリッちゃんは突っ走るところは似ていて、それほど考えなくても、らしさはわりと出せた気がします。

――そんなに難しい役ではなかったと。

 私が普段、淡々としゃべるタイプなので、中学生が無邪気にワーッとなる感じを出すのは、気合いが入りました。

――リッちゃんは健ちゃんのどこに惹かれたんですかね?

 中学生からは先生は大人に見えて、心に余裕があるのを感じると思うんです。しかも、健ちゃんは必要以上のことはしゃべらない。何かを秘めている感じがするから、好奇心も疼く。中学生の心を揺さぶる要素が詰まっていたんでしょうね。

『リッちゃん、健ちゃんの夏。』より (c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.
『リッちゃん、健ちゃんの夏。』より (c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.

今より顔が丸いのも幼く見えて良かったかな

――主演で映画を1本撮ったことは、大きな財産になりました?

 演技経験がほぼなかった身で、ゼロから学べました。主演だから役の背景を考えることは大変でしたけど、その重みも知ることができました。

――完成した映画を観て、感動しました?

 最後に観たのは去年ですけど、撮影当時は今より4キロくらい太っていて、「うわっ。顔が丸い!」と1年越しで思いました(笑)。でも、それで幼さがより出たから、良かったのかなと。

――さっき出たように、最近は『KATE』などモデルの仕事が多いですが、自分の中で女優業との比重はどんな感じですか?

 モデルは1年前から始めて、最近、面白さに気づくことができました。女優とまったく別もののジャンルですが、両方で顔を覚えてもらえたら嬉しいです。

――日ごろから、スタイルキープにも気を配っていて?

 意識しています。私、すごく食べるんですよ。でも、1日5食とかで、その分、腹八分目にしていたら、健康的に痩せることができました。無理はせず、キープしていこうと思います。

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英語の成績だけ良くて大学まで進めました

――大学にも通っているんですよね。

 4年生です。夏はレポートに追われて忙しかったです。

――中学生の頃から成績優秀だったんですか?

 アホでした(笑)。中学時代は平均より全然下。英語だけズバ抜けてできて、その他は言えないくらいひどいときもありました。

――それで大学まで進んだのは、『ドラゴン桜』的なことをしたんですか?

 高校に入って、英語の成績だけは良かったから、特進クラスに入れたんです。周りの人たちが頭いいから、私も必死こいて勉強したら、その人たちよりできるようになりました。

――英語の成績が良かったのはハーフだから?

 父親がアメリカ人ですけど、家で英語に触れる機会はまったくありませんでした。だから、話せないんです。

――生まれはハワイだそうですが。

 生まれただけで、その後は1回も行ってません(笑)。

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見た目をスイッチできるのが自分の個性かも

――インスタでは歌のテストのことにも触れていました。

 声楽みたいなのが専攻であって、歌はとても好きなので、普通のレポートとかより生き生きとできます。

――カラオケで歌うのとは違うわけですか?

 より専門的な方向ですけど、カラオケも好きです。だいたい1人で行って、最近はアニソンやボカロ曲を歌います。あと、昭和の曲も。さだまさしさんとか、かぐや姫とか。

――昭和のフォークソングをどこで知ったんですか?

 テレビで流れていて、「この曲は何?」と思ったら調べます。親の影響もありますね。泣けるな、染みるな……という歌が好きです。

――かぐや姫の『神田川』の、一緒に風呂屋に行って出てくるのを待つような世界は、令和にはないですよね。

 今の時代では経験できませんけど、その頃のことを妄想して、「エモいな」と思いながら聴くのが好きです。

――では最後に、武さんの持っている、『ヒロアカ』でいう“個性”は何でしょう?

 メイクや髪型で年齢を操作できます。あと、メイクを濃くすれば外人っぽくなるし、薄くしたらハーフでない日本人っぽさも出せる。見た目をスイッチできるのは、私の個性かもしれません。

――これから磨きたいこともありますか?

 年を重ねるにつれて学生役ができなくなると辛いので、若々しさは保ちたいです。大人の魅力もほしいところですけど、中学生の純粋な気持ちも忘れずに成長できたら。見た目も中身もいいとこ取りで、変えられるようになりたいですね。

Profile

武イリヤ(たけ・いりや)

2001年3月23日生まれ、千葉県出身。

映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、『サムライせんせい』、ドラマ『刑事7人』、『リバース』などに出演。カネボウ『KATE』、リクルート『スタディサプリ』、アルビオン『IGNISio』などのCMに出演。

『リッちゃん、健ちゃんの夏。』

監督・脚本/大森歩 配給/アルミード

10月1日よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

公式HP

(c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.
(c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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