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日ハムからポスティングでメジャーへ挑む西川にフィットする球団はアスレチックスとロイヤルズ

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
2019年春のメジャーとのオープン戦で盗塁する日本ハムの西川遥輝(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 日本ハムファイターズが西川遥輝と有原航平の2選手がポスティングシステム(入札制度)を利用したメジャーリーグ移籍を認める方針であることが明らかになり、2選手は待望のメジャー挑戦に踏み出す。

 アメリカでは読売ジャイアンツの菅野智之や、千葉ロッテマリーンズの澤村拓一に関する報道は出始めているが、ファイターズの2選手に関しての具体的な話はほとんど出ていない。

 昨オフも筒香嘉智(現タンパベイ・レイズ)と秋山翔吾(現シンシナティ・レッズ)と2人の日本人打者が海を渡ったが、メジャー1年目の今季は日本時代に比べて大きく成績を落としてしまった。

 メジャーでも成功している日本人投手に比べて、打者は苦しむケースが多く、日本人野手には厳しい評価が与えられている。

 西川の今季年俸は2億円だが、メジャーで西川に2億の年俸を払うチームは出てこないだろう。

西川と似たタイプの田中はマイナー契約

 過去にNPBからMLBへ挑戦した日本人野手で、西川と最もタイプが似ているのはファイターズの先輩でもある田中賢介。田中は2012年のオフに海外フリーエージェント(FA)権を行使したが、メジャー契約を提示するチームはなく、サンフランシスコ・ジャイアンツと最低保証4万ドル(約416万円)でマイナーリーグ契約を結んだ。シーズン中にメジャー昇格を果たしたので年俸は75万ドル(約7800万円)まで上がったが、前年にはファイターズから2億7000万円をもらっていたので70%以上の減俸となった。

 メジャーに挑戦した前のシーズンの田中と西川の成績を比較してみたのが下の表。

田中賢介と西川遥輝のメジャー移籍前年の成績(表作成:三尾圭)
田中賢介と西川遥輝のメジャー移籍前年の成績(表作成:三尾圭)

 打率は同じくらいだが、出塁率と盗塁数は西川の方がかなり良いし、年齢も3歳若い。それでも西川がメジャー契約を結べる可能性は半々程度。メジャーのキャンプに招待選手として参加できるマイナー契約で、活躍次第でメジャー契約に切り替えられる「スプリット契約」になる可能性が高い。

 気になるのは、日刊スポーツの取材に対して「メジャーの評価が低くて、どこもマイナー契約だったら、やっぱり日本でやるってなるかもしれない」と答えていること。

 中途半端な気持ちで成功できるほどにアメリカ球界は甘くなく、マイナーからでも這い上がってやるという強い気持ちが必要。このコメントは昨オフのものなので、今は考え方が変わっていることを望む。

 とくに今オフは新型コロナウイルスの影響で、各球団ともに補強に消極的で、メジャーで多少の経験がある選手でもマイナー契約を結ぶケースも少なくはない。アメリカに行けば、年俸は日本の半分以下になりそうなので、「マイナー契約ならば行かない」との生半可な気持ちならばメジャー挑戦は断念した方がいい。

 しかし、もしもマイナー契約からでもメジャーに挑戦したいとの強い気持ちで臨むならば、西川にはメジャー昇格のチャンスはありそうだ。

出塁率と走力が武器の西川

 日本では自己最高が2018年の10本塁打の西川にパワーは期待できない。彼の持ち味は「出塁率」と「走力」の2つ。

 西川の出塁率が高いのは選球眼が良いから。選球眼を測るIsoD(出塁率から打率を引いた数字)は、今季は.124を記録。NPB屈指の選球眼を誇り、2年連続で最高出塁率を記録したチームメイトの近藤健介の今季のIsoDが.125。西川は近藤に匹敵する選球眼の持ち主。三振の数は84、四球は92と四球が三振を上回った。四球数を打席数で割った四球割合は17.6%で、こちらも近藤に次いでNPB2位だった。

西川の選球眼は秋山よりも良い

9月は月間出塁率.456、5盗塁を記録してレッズのプレイオフ出場に貢献した秋山翔吾(写真:三尾圭)
9月は月間出塁率.456、5盗塁を記録してレッズのプレイオフ出場に貢献した秋山翔吾(写真:三尾圭)

 安打を打つ技術では秋山に劣るが、NPBでの通算出塁率は秋山が.376で、西川は.382と秋山を上回っている。通算IsoDも秋山は.075で、西川は.096、通算四球割合も秋山は9.9%で、西川は12.7%。西川の選球眼は秋山よりも良い。

 2019年の2人の成績を見比べてみても、打率は秋山に分があるが、出塁率、IsoD、四球割合の3部門では西川が上。

 今季終盤に秋山は出塁率の高さと選球眼の良さでレッズのプレイオフ出場に貢献しているだけに、西川にも希望が感じられる。

秋山翔吾と西川遥輝の成績比較(表作成:三尾圭)
秋山翔吾と西川遥輝の成績比較(表作成:三尾圭)

 「マネーボール理論」で最も重要視されるスタッツは出塁率。そして、勝利に最も直結する能力は選球眼であり、選球眼は天賦の才能だと考えられている。

 選球眼があり、出塁率が高い選手であれば、他の面がマイナス評価であっても獲得する。しかも、その選手が安価であればあるほど良いので、西川は「マネーボール理論」に適った選手である。

アスレチックスで第4の外野手に?

 「マネーボール理論」の元祖、オークランド・アスレチックスは左翼手のロビー・グロスマンがFAとなっており、チームを去る可能性が高い。今季は4人目の外野手だったマーク・キャナが、来季はグロスマンの穴を埋める。控え外野手候補のダスティン・ファウラーは俊足が売りの選手だが、2年間メジャーでプレーしていない。ファウラーより西川の方が選球眼が良いので、第4の外野手の争いには勝てそうだ。もう一人、控えの外野手争いのライバルとなりそうなのがパワーヒッターのセス・ブラウンだが、ブラウンはセンターを守れないので、外野の3ポジションと内野も任せられる西川の方が使い勝手が良い。

 西川と同じように現役時代は俊足で鳴らした高木豊氏は自身のYouTubeチャンネルで、「西川は絶対に(メジャー挑戦を)やめといた方がいい。(外野を)守れないもん。肩が弱すぎる。失敗すると思う。」と厳しいコメントを投げかけている。

「欠陥品」をうまく再生するアスレチックス

 「身体能力はものすごく高いし、足は使える」と西川の武器は認めながらも、「あの肩では守れないし、守らしてくれないと思う」と西川の肩の弱さを問題視する。

 利き腕の神経が断裂して捕手として守れずに「欠陥品」との烙印を押されたスコット・ハッテバーグをアスレチックスは2002年に獲得した。守れないだけでなく、足も遅いハッテバーグの長所は選球眼のみ。そんな欠陥品のハッテバーグをアスレチックスは一塁手にコンバートして起用。ハッテバーグは「マネーボール理論」を象徴する選手として、オークランドで4年間活躍した。

 西川は「令和のハッテバーグ」になれる可能性を秘めている。肩の弱さはカットマンの位置で対応するなどして、アスレチックスは西川の使い方を見出すかもしれない。

抜群の選球眼で「マネーボール理論」の象徴的存在となったスコット・ハッテバーグ。西川は「令和のハッテバーグ」になれるか?(写真:三尾圭)
抜群の選球眼で「マネーボール理論」の象徴的存在となったスコット・ハッテバーグ。西川は「令和のハッテバーグ」になれるか?(写真:三尾圭)

昨年3月の直接対決で活躍して好印象

 西川がアスレチックスに入った場合のマイナス点は、マイナーの外野手の層が厚いことと、盗塁に消極的なチームであること。アスレチックスは盗塁数こそ少ないが、盗塁成功率はリーグ・ナンバー1。ギャンブル性の高い盗塁はしないが、盗めると確信できる場面では走ってくる。盗塁王に3度輝いている西川も「アウトになるなら、走らないほうが良い」との考えの持ち主。通算での盗塁成功率が86.4%と非常に高く、走塁面でもアスレチックスにフィットしそうだ。

 アスレチックスの今オフの補強ポイントは二遊間とブルペンなので、外野手にはお金を費やしたくはない。格安で獲得した西川が活躍すれば、シーズン中の補強トレードで、マイナーの外野手を駒としても使える。

 昨年3月に東京ドームで行われたアスレチックスとの試合では2安打、1盗塁を記録して、アスレチックスのボブ・メルビン監督に「あの中堅手は最高だった」と褒められ、強い印象を与えることに成功した。

外野の層が薄く、出塁率を向上させたいロイヤルズ

 カンザスシティ・ロイヤルズも西川にフィットしそうなチームだ。

 盗塁に消極的なアスレチックスとは対照的に、ロイヤルズは積極的に足を使った攻撃を仕掛ける。チーム総盗塁数は2年続けてリーグ2位だった。

 ゴールドグラブを8度受賞した守備の名手、アレックス・ゴードンが今季限りで引退。センターもレギュラー不在なので、ロイヤルズの外野は2つもポジションが空いており、外野手の層はとても薄い。

 今季のチーム総出塁率は.309でリーグで下から3番目で、出塁率の改善も今オフの課題となっている。チームの四球割合もメジャー全体で25位の7.8%と低く、選球眼の良い西川は補強ポイントに当てはまる。今季、先頭打者を務めることの多かったアダルベルト・モンデシーの出塁率は3割に満たなかったので、1番打者としても西川を使える。スモールマーケット・チームで補強予算もあまりないので、安価な西川の獲得を考慮するかもしれない。

 2014年にワールドシリーズに出場したときには、青木宣親が出塁率の高さと足で貢献。日本人外野手の価値と使い方を分かっているチームでもある。

ロイヤルズ一筋で14年間プレーして、オールスターに3度、ゴールドグラブに8度選ばれたアレックス・ゴードン(写真:三尾圭)
ロイヤルズ一筋で14年間プレーして、オールスターに3度、ゴールドグラブに8度選ばれたアレックス・ゴードン(写真:三尾圭)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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