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斎藤工さん、映画『もったいないキッチン』で吹替版ナレーションとアフレコ、アンバサダーとして制作に参加

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
俳優の斎藤工さん(事務所ご提供)

2020年8月8日に公開された、食品ロスをテーマにしたドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』に、俳優の斎藤工さんが吹替版のナレーションとアフレコ、映画のアンバサダーの一人三役として参加し、この映画のプロデューサーでユナイテッドピープル代表取締役の関根健次さんとインスタグラムで対談した。筆者もこの映画に出演している。お二人の対談内容の一部をご紹介したい。

(c)Macky Kawana
(c)Macky Kawana

「すべてを受注生産にすればいい」

斎藤さんは、実現性としては難しい、と断りつつ、すべてを受注生産にすればいい(ロスが減る)と話した。

関根健次(以下、関根):2017年に上映した映画『0円キッチン』と同じく、今回プロデュースした映画『もったいないキッチン』で昆虫食を入れた理由は、2050年を越えると、世界の人口は100億人になる。ますます食料廃棄も増えるし、食料を必要な人が莫大(ばくだい)に、爆発的に増えていく。そして国連が昆虫食を推奨しているというストーリーがあって(筆者注:国連は「貴重なタンパク源」として昆虫食を推奨)、そんな側面も伝えるために昆虫食を選びました。

映画『もったいないキッチン』プロデューサーの関根健次さん(関根健次さんより)
映画『もったいないキッチン』プロデューサーの関根健次さん(関根健次さんより)

斎藤工(以下、斎藤):日本も、かつて人口が膨れ上がったときがあると聞いて、恐らくその頃は、みんながみんな、食に出会える環境じゃなかったかもしれないと思うんです。田畑や、自分のいる環境でいろんな工夫をして、食べ物を確保していたんじゃないかな。その食糧難みたいなことを、周期的に、僕ら人間は乗り越えてきたんじゃないかと思うんです。その創意工夫の1つが、戦中もよくしていたという昆虫食。食に対する人間の英知みたいな、進化というよりは円のように、過去からヒントを得ながら、少しずついろんなことを解決していくことは、この作品に教えてもらったことです。

一つ、これは難しいんですけれども、全てを受注生産にすればいいと思うんです。実際に全部を受注生産にということは、たぶん多くの職業を否定することにもなると思うし、現実的ではないと思うんですけれども。発想としては、洋服でもなんでも、「これだけ取りそろえていますよ」という豊かさの提示が、いみじくもコロナ禍により、自分の必要なものと生産するものの誤差が露呈していて。

斎藤さんは「難しい」と語ったが、パン屋の完全受注生産は、全国で少しずつ始まっている。筆者が毎年購入しているポン酢は完全受注生産。数量限定の飲食店も登場し、注目を集めている。100%は難しいだろうが、可能性はある。

(c)Macky Kawana
(c)Macky Kawana

「賞味期限のような数字で提示されたものを主体的に判断する必要性」

対談では、今までの固定観念がいい意味でこわされた、ということや、数字を鵜呑みにしないでもっと主体的に判断すべきではということが語られた。

斎藤:(映画を観て)ナスのへたとか、今まで「ここは食べられない」としていたものの範囲がものすごく変わったというか。例えばねぎ坊主の調理を福島でされている方のエピソード。「ここは食べられない」と、なぜ当たり前に思っているんだろう?ということが、僕の食卓だけじゃなくて、日常にあふれていることに気付きました。これは、潜在的に思っていたことなんですよね。そこに、「やっぱりそうですよね」ということを、『もったいないキッチン』の、いち鑑賞者として見ていたときに、もうこれでもかというぐらい、自分の日常とすごくつながっていくんです。日本が舞台ということもあると思うんですけれども。映画というフィルターを通じて、いろんな人に見てもらいたいんです。

自分の価値観がどうなって、それをどう実践しているかという、そこが一番大事な気がして。何となく「ああ、分かりました」という、薄いインプットになっていやしないかということと、僕は『もったいないキッチン』を観て吹替版のナレーションとアフレコ、映画のアンバサダーをさせてもらって、今、この映画に対するボルテージが熱いタイミングだから、たまたまそうしているだけなんじゃないか、という自問自答もあって。半年後、1年後、同じナスのへたをどこで廃棄するか、どれだけ残っているかということも大事なことだなと思って。すごくパーソナルなところでの響き方を自分で試しています。関根さんはどうですか?

関根:僕はこの『0円キッチン』に続く『もったいないキッチン』で、食品ロスに向き合ってきて、コロナもあって、料理をするようになりました。

工さんがおっしゃっていただいた、映画の中で、ナスのへたを食べるシーンが出てくるんですけれども、もう食べるのが当たり前になりました。ナスのへたを食べ始めたら、オクラのへたも食べられるんじゃないかとか、別なものにも今、波及していて、いろんな食材、食べ物の見方が劇的に変化しました。パーソナル(個人的)にです。もしかすると、映画の力、メッセージを届けることで、(観た人の)見方が変わっていくんじゃないか。違う視点、これももしかしたら食べられるんじゃないかとか、これとこれを組み合わせたらおいしくなるんじゃないかとか。映画の中で監督のダーヴィドが賞味期限切れのものを食べるシーンがあるんですけれども、あれ、賞味期限って何だったっけとか、そういうことの問い掛けを、僕自身も突き付けられたし、非常に変わりました。

工さん自身も映画で変わった部分って、ナスのへたを食べたりして…。

斎藤:そうです。とはいえ、食べてはいけないものとか、あまりにも傷んだものを推奨する映画と勘違いしてほしくないというのはあるんです。個人でそこを決めていく。何となく、賞味期限とか、いろんな数字で「こうだ」と提示されたものを、どう受け入れて生きていくかということを、もっと主体性を持って判断していくというタイミング。これは食だけじゃなくて全てにおいてなんですけれども、何となくのルールみたいなものを、全てのジャンルにおいて見直すタイミングなんですよね。だからこそ『もったいないキッチン』という食にまつわる作品が入り口となって。衣食住の中でも、食は全てにつながっていっている要素なので。これは人間の根幹的な新しい様式に対する物語で、一時的な食を思う作品ではないので。この作品、映画自体も公開から2番館的な劇場に展開していって、全国に展開していってDVDとか放送配信になって、一応、一通り役割を果たすみたいな。映画というもの自体も賞味期限がないと思うんです。

2014年に作った、芸人のあばれる君が主演の『バランサー』という短編映画があるんです。この作品が、今年の2020年になって、つまり作ってから6年後、2020年オレゴン短編映画祭で最優秀国際映画賞を受賞しまして。その映画も2014年に作ったからといって、その年がピークではなくて、そのとき全力で作ったものというのは、作った人間としては、そこから退化していくものではない、じゃないですか。

関根:そうですね。

斎藤:なので、すごく喜ばしいことだったし、関係者はみんな、このタイミングでびっくりしていたんですけれども。だけど作り手の理屈としては、そんなに不思議なことではないというか。なぜなら、そのときのベストをちゃんとここに詰め込めたと思っているものなので。

人間が何かの都合で決めた数字、当てにしているものの、それがないといろんなものが不都合だったりするのも分かるんですけれども。同時に、それを信じすぎてきたことで生み出した負の遺産も大いにあるな、という。集団の「大河の一滴」であるという意識から、もっと、主体性を持って、本人がイニシアチブを持つ時代になってきていると思うので。

(c)UNITED PEOPLE
(c)UNITED PEOPLE

「一人の力は社会を動かす」

関根:僕もすごく参考にしたいと思いますし、色あせないような作品を作っていますし、それから長く長く描きたい、いきたいというふうに思います。

その「大河の一滴」、大きな問題に対して、何ができるんだ。コロナや大災害は、自分自身の暮らし、生き方、働き方、社会の在り方、国の在り方、世界の在り方、いろんなことを考える、非常にいいタイミングだと思うんです。僕自身は、一人一人の力ってすごく大きいと実感していまして、ある意味それに気付いて、できるぜ、変えられるぜ、変えていこうぜ、というのを、映画で表現しているつもりなんです。

数年前に、僕がすごくびっくりした事例が起きたんです。サウジアラビアでは、女性が車を運転することが禁止されていたんです。アラブ世界の中でもサウジアラビアは最後まで禁止されていた。ところが、女性たちが「私たちは運転できる」と言って、ある一人の女性からだったと思うんですけれども、自分で運転してその姿をYouTubeとかにあげて、拡散を始めたんです。そうしたら「私も運転する」と、どんどん、女性の運転がにょきにょき出てきて、とめられなくなったんです。

斎藤:動画できっかけを作ったんですね。

関根:そう。女性たちが、当事者たちが。それで何が起きたかというと、その女性たちがいろいろ国際世論もあるし、マスコミが動いて、彼女たちが運転できないのはおかしくないかと、世論が動いたんです。で、運転できるようになりました。その中で、ある一人の女性が「全ての雨は一滴から始まる」と言ったんです。「みんなも一滴になろう」と言っていて。だからこの大河の一滴の『もったいないキッチン』も、工さんも本当に共感してくれているし、すごくうれしいです。企画の段階で工さんと話しているとき、本当は出てほしかったんです。本編にも出てほしくて、子どもたちと触れ合うようなシーンで僕は出てほしいと思っていましたし、未来をつくっていくのは子どもたちかなというふうに思っていて。工さんにはダーヴィド、主人公の声という、ナレーション、アフレコを担当していただきましたけれども、来年はどんどん小学校、中学校、高校とか、たくさんの学校に届けていきたいんで、またそのときも……。

斎藤:僕はこの『もったいないキッチン』の完成版を見たときに、僕が入って邪魔しなくてよかったと思ったんです。それぐらいこの『もったいないキッチン』に役割を持って出てくれる方たちの意味合いというものが、すごく研ぎ澄まされていったし、日本以外の国の方たちにも見てもらうことを考えたときに、すごくベストなキャスティングとなった。僕もcinema birdという移動映画館を、2013年頃に、今回、同じアンバサダーでもある伊勢谷友介さんにご相談しながら始めたというのもあるんですけれども。震災で劇場がなくなってしまった地域に映画体験をしたことがない子が増えているということに対して何かできないかと思いまして。被災地を中心にですけれども、毎年いろんな場所で劇場体験、作品を見てもらうことと、芸人さんのお笑いライブとミュージシャンによるライブ。あと、できるときはそこに食が加わるんです。大分県の豊後大野市の明尊寺というお寺で開催させてもらったとき、豊後大野市の名産をお寺の入り口で食べてもらうということと、映画体験をセットにしました。

対談を聴いて

お二人の議論が本質的な部分に迫っていて、何度もアクセスして繰り返し聴かせていただいた。

今回の記事のポイントは3つ。

「できるなら受注生産にすればロスは減る」

「提示された数字を鵜呑みにせず自分の頭で考える」

「一人の力でも社会は変えられる」

あなたなら映画を観てどう思うだろう。ぜひ、公開中の映画『もったいないキッチン』を観て、感じてほしい。

(c)UNITED PEOPLE
(c)UNITED PEOPLE

映画『もったいないキッチン』

2020年8月8日より公開中(映画館は下記)

監督・脚本:ダーヴィド・グロス

出演: ダーヴィド・グロス、塚本 ニキ、井出 留美 他

プロデューサー:関根 健次

制作:ユナイテッドピープル

配給:ユナイテッドピープル

配給協力・宣伝:クレストインターナショナル

2020年/日本/日本語・英語・ドイツ語/16:9/97分

公式サイト 映画『もったいないキッチン』

【公開中】

東 京・シネスイッチ銀座

東 京・アップリンク吉祥寺

神奈川・横浜シネマリン

京 都・アップリンク京都(8/27(木)まで)

【公開予定】

北海道・シアターキノ

北海道・シネマ・トーラス

岩 手・盛岡ルミエール 9/4(金)~9/17(木)

宮 城・チネ・ラヴィータ 9/11(金)~9/24(木)

福 島・まちポレいわき 10/2(金)~10/15(木)

石 川・シネモンド

長 野・長野松竹相生座・ロキシー 10/24(土)~11/6(金)

長 野・東座

神奈川・シネマアミーゴ 9/6(日)~10/3(土)

神奈川・シネコヤ

埼 玉・川越スカラ座

千 葉・キネマ旬報シアター 9/19(土)~10/2(金)

静 岡・静岡シネ・ギャラリー 10/2(金)~10/15(木)

静 岡・シネマイーラ

愛 知・名古屋シネマテーク 8/29(土)~

岐 阜・CINEX[シネックス]  10/24(土)~11/6(金)

大 阪・シネ・リーブル梅田 9/18(金)~

兵 庫・元町映画館

岡 山・シネマ・クレール

山 口・山口情報芸術センター[YCAM]

福 岡・KBCシネマ 8/29(土)~

佐 賀・シアター・シエマ

熊 本・Denkikan 9/18(金)~

大 分・シネマ5 9/19(土)~

大 分・別府ブルーバード劇場 9/26(金)~10/8(木)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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