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「サービス業の労働生産性はアメリカの半分」というレポートの注目ポイント

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(写真:アフロ)

昨日NHKが日本のサービス業 労働生産性「米の半分ほどの水準」というニュースを報じました。

これは4月6日に日本生産性本部が発表した、「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」の内容を紹介したものです。

日本生産性本部が昨年12月に発表した「労働生産性の国際比較 2017年版」については、筆者も以下の記事で取り上げました。

「日本の生産性は先進7カ国で最下位!」に惑わされないために知っておきたいこと

上の記事では

・ランキング結果だけを見て一喜一憂しても意味がない(「労働生産性」の算出方法や各国のビジネス環境の違いなどの理解が必要)

・「効率よく働けば生産性ランキング上位国になれる」と考えるのは間違い

といったことを説明した上で、

・日本の企業が目指すべき方向は「従業員の労働時間を減らしつつ十分な利益を生む」ということで、その際に参考になるのは国単位ではなく、それを産業別に分解した比較データだ

と指摘しました。

記事中で取り上げた「労働生産性の国際比較 2017年版」でも、製造業に関する国際比較データは掲載されていましたが、今回新たに発表されたのは、製造業とサービス業の更に細かい分類に分けた業種別の労働生産性を、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスのそれぞれと比較した結果です。

NHKのニュースではサービス業の労働生産性がアメリカの半分ほどの水準であることについて「24時間営業のような長時間労働が行われていることや、高品質なサービスが安い価格で提供されていることなどが理由だということです」と報じていましたが、他にはどのようなことがわかったのか、このレポートから見えてくることを紹介します。

日本の強みであった自動車産業の労働生産性は、欧米に追い上げられている

今回のレポートで日本と比較されている4カ国は、昨年発表された国際比較において日本よりは上位ですが、世界の中で見ると突出して労働生産性が高いわけではありません。

対象5カ国の「労働生産性の国際比較 2017年版」における時間当たり労働生産性とその順位

  6位 アメリカ 69.6ドル

  8位 ドイツ  68.0ドル

  9位 フランス 66.9ドル

 16位 イギリス 52.7ドル

 20位 日本   46.0ドル

以前の記事で触れたように1位のアイルランドや2位のルクセンブルクは特殊な要因で労働生産性が引き上げられている部分があるので、日本との比較にあまり意味がありません。日本が参考にしやすい先進国ということで、これらの国が選ばれたのでしょう。

レポートでは、これらの国の産業別労働生産性に対する日本の水準を、1997年、2010年、2015年のそれぞれの時点で示しています。そこからよく分かるのが、かつては日本の強みであった産業が、他国に追い上げられているということです。

かつて、日本が非常に優位にあった分野のひとつが「輸送用機械」です。分かりやすく言うと、自動車、鉄道、船、航空機などの分野で、トヨタはその代表的な企業と言って良いでしょう。

この「輸送用機械」の分野の労働生産性は、1997年時点ではアメリカには劣るものの8割の水準、ドイツの1.7倍、イギリスの3.1倍の水準を誇っていました。しかし、2015年になると、アメリカの6割、ドイツの1.3倍、イギリスの1.9倍と、その有意性は縮小しています(対フランスでは、1997年も2015年も1.6倍程度で大きく変わらず)。

輸送用機械産業における日本の労働生産性水準の推移(日本生産性本部「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」のデータを元に筆者が作成)
輸送用機械産業における日本の労働生産性水準の推移(日本生産性本部「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」のデータを元に筆者が作成)

なおレポートでは、輸送用機械産業に関して「企業レベルのデータでみると、生産性の高い企業と低い企業が混在している」ことも紹介し、生産性向上の糸口を掴むためには「よりブレイクダウンした分析を、例えば、企業・事業所レベルのデータを用いることで進めることも有効であろう」と指摘しています。

サービス業全体の労働生産性は低水準ながら、有望な分野も

NHKのニュースでも取り沙汰されたサービス業の労働生産性の低さ。問題になるのは、経済におけるシェアが比較的高いためです。日経新聞は4月7日に雇用は増えたが… 生産性・賃金低いサービス業に集中という記事で、アベノミクスが始まってから日本の雇用は100万人以上増えたものの、その内訳をみると製造業が人手を減らす一方、生産性が低いサービス業に労働力が集まっている、と伝えています。多くの人が雇用される産業だからこそ労働生産性を上げるか、より生産性の高い分野へと労働者の移動を促すような仕組みを作るか、といった対策が求められているのです。

ただ、今回のレポートではサービス産業の中でも比較的優位な分野があるということが指摘されています。それは「専門・科学技術、業務支援サービス業」で、政府の分類によると研究開発サービス、広告業、物品賃貸サービス業、その他の対事業所サービス業、獣医業といったものが含まれています。レポートでは、「こうした産業は、サービス業の中でも特に情報処理技術など最新の技術の取り入れが相対的に進んでいる産業と考えられる」とあります。こういった分野により注力する、あるいはこの分野の生産性が高いのはなぜかを分析して参考にする、といったことが他の産業も含めた労働生産性を改善していくヒントになるでしょう。

専門・科学技術、業務支援サービス業における日本の労働生産性水準の推移(日本生産性本部「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」のデータを元に筆者が作成)
専門・科学技術、業務支援サービス業における日本の労働生産性水準の推移(日本生産性本部「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」のデータを元に筆者が作成)

以上、「産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較」のレポートより、注目すべき点を紹介しました。

よく言われる「日本の労働生産性が低い」というのは確かです。しかしそこで思考停止せず、その中身を詳しく見てみることで、各企業、個人がこれからどういう道を進んでいくべきかのヒントを得る――、そんな視点でこういったデータを活用したいものです。

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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