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不同意性交の容疑で逮捕のサッカー代表・佐野海舟選手 今後の捜査の焦点は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 サッカー日本代表・佐野海舟選手(23)が14日夜に逮捕された。20代の知人男性2人と共謀し、その日の未明に東京・湯島のホテルで30代の女性に対して性的暴行を加えたとされる不同意性交の容疑だ。

不同意性交罪とは?

 報道によると、佐野選手ら男性3人は事件の前日に知り合いの女性を介してその友人である被害女性と知り合い、男性3人、女性2人の5人で六本木で飲食をした。その後、飲み直そうということで5人でパーティルームがあるホテルに行き、宴会途中で友人の女性が帰ったあと、14日午前2時頃から午前4時過ぎ頃までの間に事件に至ったとみられるという。

 被害女性が事件の直後に110番通報した結果、佐野選手ら3人はホテルや近くの路上にいたところを駆けつけた警察官に発見され、任意同行の上でその日の夜に逮捕された。

 不同意性交罪は、昨年7月施行の改正刑法により、強制性交罪と準強制性交罪を融合する形で創設された犯罪だ。性交に及んだ際、次の【1】か【2】のいずれかに当たれば成立する。

【1】(a)~(h)のいずれかを原因として、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にさせたり、相手がそのような状態にあることに乗じたりすること
 (a) 暴行・脅迫
 (b) 心身の障害
 (c) アルコールや薬物の影響
 (d) 睡眠その他の意識不明瞭
 (e) 不意打ちなど同意しない意思を形成、表明、全うするいとまの不存在
 (f) フリーズ状態など予想と異なる事態との直面に起因する恐怖・驚愕
 (g) 虐待に起因する無力感や恐怖心といった心理的反応
 (h) 祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒など、経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力により、不利益が生じることを憂慮
【2】わいせつな行為ではないと勘違いさせたり、人違いをさせたり、相手がそうした誤信をしていることに乗じたりすること

 刑罰は5年以上の有期懲役であり、起訴されて有罪になれば、示談が成立して被害者から許しを得られたといった特別な事情でもない限り、初犯でも実刑になり得る重罪だ。特に男性3に対して女性1のケースだと、その確率が格段に高まる。そのため、起訴前に示談をまとめるといった捜査段階での早期の弁護活動が重要となる。

今後の捜査の焦点は?

 この事件では、被害女性の通報後、佐野選手ら3人を逮捕するまでに半日以上の時間が経過している。不同意性交罪が成立するには「性交」の事実が絶対条件だから、警察はその間、女性の衣服や身体からDNA型を採取し、女性の血液などからアルコールや薬物などを検査し、現場を検証し、防犯カメラの映像を確認するといった証拠の保全を行う一方、佐野選手ら3人や女性からも事情を聴取し、少なくとも性交の事実を裏付けた上で逮捕状を取得したものと思われる。

 ただ、現時点で事件の詳細は不明であり、警察も佐野選手らの認否を明らかにしていない。とはいえ、たとえ性的行為があったとしても、この種の事件では「同意の上だった」「少なくとも自分はそう思い込んでいた」といった弁解が付きものである。

 そこで、女性が性的行為をしない、したくないという意思をもつことができたのか、それを外部に表すことができたのか、その意思のとおりの事態になっているのかを踏まえ、佐野選手らにおいて女性の真意を認識できていたのか否かを客観的に判断する必要がある。

 今回の事件の場合、まずは次のような事実の解明が捜査の焦点となるだろう。

・アルコールの影響が問題となるケースなのであれば、普段の飲酒量や当日の飲酒時間、飲んだ種類、分量、その際の言動。
・ホテルに行くことになった経緯やそこでいつまで何をするつもりだったのか。
・どのようなホテルのいかなる部屋だったのか。
・誰が予約し、誰が宿泊する予定のホテルだったのか。
・友人の女性が被害女性を残して帰ったのはなぜなのか。
・その際の被害女性の状況や言動、想定していた帰宅時間とその手段。
・現場には佐野選手ら男3人がいたのか。
・3人のうち誰が被害女性に対して性的行為に及んだのか、1人ではなく2人ないし3人が実行したのか。
・性的行為があったとすれば、いかなる手段を使ったのか、すなわち先ほど挙げた【1】(a)~(h)や【2】のいずれに当たる事案だったのか。

 佐野選手は鹿島アントラーズからドイツ・マインツへの移籍が発表されたばかりだ。性犯罪だからと前のめりになることなく、まずは捜査の推移を冷静に見極める必要があるものの、その行方によっては、選手生命を左右する結果となるかもしれない。(了)

【参考】

拙稿「きょうから変わる性犯罪規定 あとで『同意はなかった』と言われたらどうなる?

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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