「ままならない状況にいる若い世代を肯定したい」。青春映画の名手が、いづみちゃんに込めた想い
思春期真っただ中にいる少年少女たちの日常風景を美しいモノクロームの映像で映し出した2011年の傑作青春映画「ももいろそらを」。
国内外で高い評価を受けた同作が、劇場公開時から切望の声が多数寄せられた「カラー版」となって現在公開中だ。
先に、当時15歳で現在26歳となったいづみ役の池田愛のインタビュー(第一回・第二回・第三回)に届けたが、続いて小林啓一監督に訊く。(全二回)
これを映画化できなかったら、映画監督はあきらめようかなと
いまや青春映画の名手として知られる小林啓一監督だが、「ももいろそらを」はデビュー作。ある種の覚悟をもって挑んだ作品だった。
「僕は、『映画監督になりたい』という意志を昔からもっていたわけではないんですよ。
テレビ番組のディレクターとしてキャリアをまずスタートさせたんですけど、そこで仕事をしていると先輩とかにいわれるわけです。『映像の最高峰は映画だ』みたいなことを。
と言われると、こちらも20代で若いですから、ちょっと感化されて『映画を撮らないと』という気になってくる(苦笑)。そうでないとディレクターとして認められない気がして。
それで僕も映画を撮らないとと思い始めて、映像の表現という点でつながると思って、積極的にミュージック・ビデオやCMなどを手掛けるようになった。
こうした経験を積むことで映像の表現を自分なりに学んでいって、じゃあ次は脚本を作らないといけないとなって、シナリオ教室に通い始めたんですよ。
そこでシナリオのノウハウを学んで、ようやく書き上げたのが『ももいろそらを』でした。
覚悟とまではいいませんけど、これを映画化できなかったら、まあ映画監督はあきらめようかなと思っていたところはありましたね」
三つ子の魂百までといいますけど、まさにそうだなと
物語は、女子高生のいづみが30万円と学生証の入った財布を拾ったのが事の始まり。
新聞マニアの彼女は、財布の持ち主の光輝が不祥事を起こした天下り官僚と気づいたこともあって、10万円を金策に困っている知り合いの印刷屋に貸してしまう。
ところがそのことに光輝が気づいたことから、いづみは彼の言うことをきかなければならなくなるはめに。
ここに友人の女の子2人も加わって、ほろ苦くも甘酸っぱくもある青春ストーリーが展開していく。
そこからは、スマホではなくガラケーであったりといわば、この10年の社会や時代の変化が確かに垣間見えるところもある。
ただ、一方でこの10年という歳月を感じさせない。実は、思春期真っただ中にいる若者たちの心模様や気持ちはいつの時代もさほどかわりがないのではないだろうか?
そんな青春期にある普遍性が本作にが宿っている。なので、おそらく10年経ってもまったく色褪せてないと感じる人の方が多いような気がする。
「僕がこの映画の脚本を書いたのは30代の後半でしたけど、当時、気持ちに関しては10代のままのような感覚があったんですよね。
大人になりきれない大人と言われそうですけど(苦笑)。根本で10代のころとあまり考えていることが変わっていなかった。
その10代のころからかわらない自分の思いやモノの見方をそのままの脚本に落とし込めたところがある。
この歳になってでもですけど、その人の本質の部分ってそうとうなことがないとガラッと変わらない気がするんですよね。
三つ子の魂百までといいますけど、まさにそうだなと。
キラキラの青春時代を送る人もいれば、もう思い出したくないぐらいの暗黒の青春時代を過ごす人もいる。
けど、この時期における同級生の存在とか、流れていた時間とか、自分の身に置き換えて考えることとか、みんなさほどかわりがないと思うんです。
そのあたりのことが『ももいろそらを』は封じ込められたのかなと思います」
主人公を男子ではなく女の子にした理由
では、小林監督自身に当時10代のままのような感覚があったとのことだが、主人公はなぜ男子ではなく女の子にしたのだろう?
「それには、2つ理由があって。ひとつは今はどうかわからないんですけど、当時、僕の感覚では女子高生がいちばん元気があるように映っていたんですよね。
それで昔から青春映画が好きで。青春映画をやるならば、元気のある女子高生でいこうと思いました。
もうひとつはお恥ずかしい話ですけど、ロー・バジェットの映画でしたから、もう若い子で撮るしかなかったんですよね。
予算やスケジュールを考えると選択肢はそこしかなかったところがありました」
僕自身が青春をこじらせているのかも(笑)
主人公のいづみは決してクラスで目立つようなタイプの女の子ではない。
どちらかというと、クラスメイトからなかなか理解されない、周りに合わせられないタイプかもしれない。
振り返ると、小林啓一監督作品は、「ももいろそらを」のいづみに限らず、ちょっとクラスでもその他大勢の部類からも少しだけ外れてしまうような若者にスポットを当てている気がする。
「僕自身が青春をこじらせているからなんでしょうかねぇ(苦笑)。
なかなかうまくいかなくてもどかしさを感じている若者に目が向くんですよね。
僕は高校のときにラグビー部だったんですけど、ひとりだけ公式戦に出れなかったんですよ。
しかも、あとで聞いたら、先生が起用するのを忘れていたらしい。
当時は、公式戦に一度も出れないのがすごいショックだった。
今考えると、帰宅部でよかったと思うんですけど、学校全体に部活に入っていないといけないような風潮があって、部活動をしない選択ができなかったんですよね。
それで、公式戦に出れなかった悔しさに対抗するわけじゃないんですけど、自分には別の道がある、勉強や部活がすべてじゃないと自分に言い聞かせて奮い立たせていた。
そんな経験もしているから、ままならない状況にいる子を肯定してあげたい気持ちがある。『それがすべてではない、別の道がきっとある』と。
その人の個性ってほんとうにそれぞれで。どこかで、その個性に磨きがかかって光り輝く瞬間があると思うんですよね。
ただ、その個性ってその人だけのものだったりするから、なかなか周囲が理解できなかったり、肯定されづらかったりする。
すると、その子は自己肯定感が低くなってしまう。『自分は間違っている』と。
だから、そういった秘めたる個性を肯定してあげたい。その気持ちは常々あって、作品に反映させているところはあります」
(※第二回に続く)
「ももいろそらを [カラー版]」
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:池田愛 小篠恵奈 藤原令子 高山翼 / 桃月庵白酒
京都・出町座にて公開中。
宮城チネ・ラヴィータにて7/16(金)より公開。宮崎キネマ館にて近日上映予定。
最新の公開情報は、公式サイトにて→https://pinksky-color.com/
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