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戦没者の遺骨を掘り続ける具志堅さんとの出会い。沖縄出身ながら沖縄を遠ざけてきた後ろめたさを胸に

水上賢治映画ライター
「骨を掘る男」より

 沖縄出身の奥間勝也監督が、沖縄戦の戦没者の遺骨を40年以上にわたり収集し続ける具志堅隆松さんと共有した時間を通して、「沖縄」と「自身」に向き合ったドキュメンタリー映画「骨を掘る男」。

 本作を前にすると、少し考え込んでしまうかもしれない。

 なぜなら、教科書や映像作品などを通して、沖縄戦について知った気になっていなかったか、同じ日本でありながら日本という国とわたしたちは沖縄とほんとうにまともに向き合ってきたのだろうか。

 いや、そういう国や歴史や戦争という大きな枠組みだけのことではない。

 ひとりの人間の命を軽んじてはいまいか、ひとりの人間の死に対してこれほど無関心で鈍感できてしまっていていいのか。

 個人レベルでも、多くの問いと向き合わざるえなくなるからだ。

 それほど具志堅さんの「行動的慰霊」とする遺骨収集は、多くの問いを投げかける。

 また、具志堅さんと向き合った奥間監督は自身がどこか遠ざけてきた「沖縄」と真正面から向き合い、ステレオタイプ化した沖縄ではない、沖縄戦の、沖縄のまったく別の顔をとらえる。

 それはいままでみたことのない沖縄戦と沖縄ではあるが、そこにはまぎれもない沖縄戦の現実が、沖縄の人々の心が現れている。

 本作を通して、沖縄の何を見つめ、何を語り、何を伝えようとしたのか。

 奥間監督に訊く。全七回/第一回

「骨を掘る男」の奥間勝也監督  筆者撮影
「骨を掘る男」の奥間勝也監督  筆者撮影

具志堅さんの存在を知ったのはまだ大学生のころ

 始めに聞かなければならないのは、やはり具志堅さんとの出会いだろう。どのようにして出会ったのだろうか?

「具志堅さんの存在を知ったのは、2008年ぐらいだったと記憶しています。

 当時、僕はまだ大学生でした。そのころ、新聞などの報道で具志堅さんの名前を目にしました。

 どういうことかというと、いま那覇新都心となっているエリアでのことなんですけど、ここは戦後まもなくアメリカ軍に強制接収されて、米軍の住宅街になっていました。

 その後、1987年に全面返還されて、再開発されることになりました。

 そのとき、このエリアは沖縄戦の激戦地で、多くの戦没者の遺骨が出てきたんです。

 で、再開発をする前に遺骨収集をしなければならないと具志堅さんが訴えて、けっこう新聞などに取り上げられていたんです。

 そのときに具志堅さんのことを始めて知りました」

沖縄出身の監督ながら沖縄のど真ん中のテーマに臨んでいない後ろめたさ

 ただ、このときは実際に会いにいくことはなかったという。

 具志堅さんに改めて会ってみたいと思ったのは10年近くが経とうかというころだったという。

「学生のころから映画を作り始めて、2011年に沖縄を舞台にした中編『ギフト』を、2015年には北インド・ラダック地方で撮影した『ラダック それぞれの物語』を完成させました。

 どちらも山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、『ラダック それぞれの物語』では同映画祭のアジア千波万波部門で奨励賞を受賞することもできました。

 それはそれでものすごく光栄でうれしいことではあったのですが……。

 一方で、沖縄出身の自分が沖縄を視野に入れて意識していながら、たとえば沖縄戦のことや基地のことといった沖縄のど真ん中のテーマに取り組めないできている。

 そのことに対して、うしろめたさというか。沖縄出身の映画作家として沖縄の重要な問題について語らないままでいいのかという気持ちが日増しに強くなっていきました。ひとりの表現者として、自身のルーツである沖縄をこのまま素通りし続けていたら、ほかのこともできないのではないか、おろそかにしてしまうのではないかと思い始めたんです。

 そこで、沖縄のことときちんとかかわって、向き合ってみようと心が決まったところがあったんですね。

 そう心が決まったとき、具志堅さんのことを自然と思いだしました。

 戦没者の遺骨収集に目を向ければ、確実に沖縄戦という沖縄を語る上で欠かせないテーマにつながる。戦没者の遺骨収集を何十年と続けられている具志堅さんにも興味がある。

 それで、具志堅さんに会いに行ってみようと思いました」

「骨を掘る男」より
「骨を掘る男」より

初めて会ったときは、手ごたえなし?

 初めて会ったときのことをこう振り返る。

「具志堅さんが戦没者のDNA鑑定の申請についての説明会みたいなことを遺族に向けて開くという情報を入手して、当日伺ったんです。

 そこで、自分としては『もう作品にしたいです』みたいなけっこうな意気込みでいろいろお話しをさせていただいたんですけど……。

 その場で、具志堅さんは『まあ、いいよ』みたいな感じで承諾してくださったんですけど、僕が求めていた返事ではなかった。

 なかなか言葉では説明できないんですけど、社交辞令みたいな軽い返事だったんですよ。

 だから、なんか手ごたえがないまま帰って、ちょっと時間を置いて次に会いに行ったら、案の定、完全に忘れられていたんです(苦笑)。

 そこで、『あっ、これはまずい、自分の本気がまったく伝わっていない』と思って。

 自分の作品や地元新聞に載った記事などを渡してみてもらって、そこからもうスパンを短くして、しつこいと思われるぐらい短いスパンで会いに行ったんです。

 僕はいまは東京を拠点にしているので、けっこう沖縄に行くのは大変だったんですけど、もうそこは頑張ってとにかく具志堅さんのところに顔を出しました。

 それが2018年の秋ぐらい。そのうちに『こいつ本気なんだな』ということがたぶん伝わって、足しげく通いはじめて半年ぐらいに初めてカメラを回すことになりました」

(※第二回に続く)

「骨を掘る男」ポスタービジュアル
「骨を掘る男」ポスタービジュアル

「骨を掘る男」

監督:奥間勝也

出演:具志堅隆松ほか

公式サイト https://closetothebone.jp/

ポレポレ東中野ほか全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C) Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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