日本からの新型コロナ後遺症の報告 約2割が発症約1〜4ヶ月後に脱毛の症状も
新型コロナウイルス感染症には遷延する症状、いわゆる後遺症を訴える患者さんが一定の割合でいらっしゃいます。
海外から後遺症の報告が続き、徐々に実態が明らかになってきていましたが、日本からもこの後遺症に関する報告が出ましたのでご紹介いたします。
新型コロナの後遺症「LONG COVID」
海外ではこの新型コロナの後遺症についての研究が進められています。
イギリスの国立衛生研究所(NIHR)では遷延する新型コロナによる症状(いわゆる新型コロナ後遺症)を「LONG COVID」と呼び、病態の解明に取り組んでいます。
このLONG COVIDは、単一の病態ではなく、実際には4つの病態が複合的に絡み合った病態ではないか、ということが分かってきました。
4つの病態とは、
(1) 肺、心臓への恒久的障害
(2) 集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)
(3) ウイルス後疲労症候群(post-viral fatigue syndrome)
(4) 持続するCOVID-19の症状
を指し、これらがオーバーラップしていると考えられています。
このうち「(2)集中治療後症候群」は集中治療室(ICU)在室中あるいはICU 退室後、さらには退院後に生じる身体障害・認知機能障害・精神の障害を指すものであり、多くは重症例でみられる後遺症ですが、それ以外の病態の重症度は様々であり、軽症例でもみられることがあるようです。
例えば、「(1)肺や心臓への恒久的障害」は、軽症例や入院を要しなかった症例でも報告されています。
また「(3)ウイルス後疲労症候群」、「(4)持続するCOVID-19の症状」に関して海外から報告されています。例えば、新型コロナを発症してから約110日後に電話インタビューで回答した120人の回復者のうち、約3割の人で記憶障害、睡眠障害、集中力低下などの症状がみられたというフランスからの報告がありますが、これらの症状は「(3)ウイルス後疲労症候群」の症状と考えられます。
イタリアからの報告では、新型コロナから回復した後(発症から平均2ヶ月後)も87.4%の患者が何らかの症状を訴えており、倦怠感や呼吸苦、関節痛、胸痛、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢などの、新型コロナの急性期にみられた症状が持続していたとのことです。これは「(4)持続するCOVID-19の症状」に当たるものです。
日本からのLONG COVIDに関する初めての報告
先日、日本から初めてとなる新型コロナ後遺症に関する臨床研究が報告されました。
国立国際医療研究センター(感染症で有名な病院ですね)からの報告であり、著者にはMiyazato, Moriokaらの中心メンバーとともにSatoshi Kutsunaというどこかで聞いたことのある人も名を連ねています。
国立国際医療研究センターに入院していた新型コロナ患者に退院後に電話インタビューを行い、それぞれの症状についての症状の持続について詳細に聴取したものです。
最終的に回答が得られたのは63人(9割が日本人)であり、このうち酸素投与を受けた中等症患者が27%、人工呼吸管理を受けた重症患者が8%でした。つまり大半は軽症患者です。
「(4)持続するCOVID-19の症状」に関しては、発症から60日経った後にも、嗅覚障害(19.4%)、呼吸苦(17.5%)、だるさ(15.9%)、咳(7.9%)、味覚障害(4.8%)があり、さらに発症から120日経った後にも呼吸苦(11.1%)、嗅覚障害(9.7%)、だるさ(9.5%)、咳(6.3%)、味覚異常(1.7%)が続いていました。
また、急性期にはなく後から嗅覚障害が出現した人もおり、発症から92日経ってから嗅覚障害が出現した人もいました。
また、「(3)ウイルス後疲労症候群」に関連した症状として脱毛についても聴取が行われており、全体の24%で脱毛がみられました。脱毛の持続期間は平均76日で、発症時には全くみられないものの、発症後30日くらいから出現し、発症後120日くらいまでみられることがあるようです。
今回の報告と、これまでの海外の報告とを比較してみると、「(4)持続するCOVID-19の症状」に関しては、イタリアの報告よりもそれぞれの症状の続く頻度は低いようです。
一方で脱毛についてはフランスからの報告の頻度とほぼ一致していました。
今後は、どういった人にこれらの後遺症の症状が現れやすいのか、についての解明が必要と思われます。
LONG COVIDのインパクトを正しく捉える
徐々に新型コロナ後遺症の実態が明らかになってきました。
新型コロナ感染者は世界で4000万人を超えており、まだまだ増え続けています。
ほとんどの人は回復していますが、一方で回復者の中にはこうした後遺症に悩まされる人が一定の割合でいるという事実が、社会に与えるインパクトは非常に大きいものと考えられます。
「後遺症は怖い」とやみくもに恐れる必要はないと思いますが、後遺症の実態を考えれば「若いから感染しても大丈夫」とは決して言えないでしょう。
後遺症の症状に対する有効な治療法はない以上、新型コロナに罹らないことが最大の予防になります。
新型コロナの流行が始まってもうすぐ1年になろうとしています。
そろそろ感染対策に対する意識も緩んでしまう時期ですが、Withコロナの時代はまだまだ続きそうです。
「手洗い」「咳エチケット」「屋内でのマスク着用」「3密を避ける」といった感染対策を今一度徹底しましょう。