全国に眠っているお米を寄付して 文京区のこども宅食が全国展開へ 食はコミュニケーションツールの役割も
2017年7月、東京都文京区で始まった、子どもの食の支援プロジェクト「こども宅食」。。生活が厳しい家庭に、定期的に食品を届ける事業である。ふるさと納税による寄付や、企業からの寄付食品などを活用し、現在は550世帯以上の親子に食品を提供している。
文京区「こども宅食」は、いわゆるコンソーシアムである。東京都文京区を始めとした6団体が、平等な形でつながって、事業に携わっている。筆者はこのプロジェクトの、食の分野に関するアドバイザーを務めている。
このたび、この「こども宅食」が全国展開される運びとなった。一般社団法人こども宅食応援団(佐賀県佐賀市)を設立し、資金調達にはふるさと納税制度を活用し、返礼品は用意せず、全てを事業推進に活用するという。2018年11月28日には厚生労働省記者クラブで、事業についての記者会見が開催された。
なぜ佐賀県?
ところで、なぜ「佐賀県」なのだろう?
佐賀県は、県外の組織、CSO(Civil Society Organizations)を誘致しているのだそうだ。これにより、人材の流入や雇用を生み出している。また、人との交流を通じて、事業拡大や、新たな事業を生み出してもいる。いわば「NPO 先進地区」だそうだ。
文京区こども宅食の利用者の86%が「気持ちが前向きに変化した」と回答
官民協働の新しい社会変革の手法は「コレクティブ・インパクト」(略してCI)と呼ばれる。このコレクティブ・インパクトを用いたモデル事業である文京区の「こども宅食」では、支援を受ける家庭とのコミュニケーションのツールとして、スマートフォンなどのアプリケーションであるLINE(ライン)を活用した。
紙での申し込みより面倒ではなく、今の子育て世代には馴染んでいることも相まって、応募は予想を上回る数となった。
こども宅食の利用者のうち、86%が、支援を受ける前と比較し、気持ちが前向きに変化した(気持ちが豊 かになった、社会との繋がりを感じられるようになった)と回答している。
食が「コミュニケーションツール」となり、親子の危機を救う
食の支援では、食の提供が栄養素として物理的に役立つだけでなく、食品が「コミュニケーションツール」となり、その世帯が抱えている問題や危機を見出し、深刻な状態に陥るのを未然に防ぐ役割も果たす。
この「食がコミュニケーションツールとなる」という経験は、筆者の場合、東日本大震災の支援で得た。ただ単に仮設住宅を訪問しても、扉を開いてはもらえない。だが、支援食品を持っていくと、それがきっかけとなり、その家庭と繋がるすべ(手段)が出来る。
文京区のこども宅食でも、宅配で訪問することで、その家庭とコミュニケーションをとることができ、DV(ドメスティック・バイオレンス:家庭内暴力)や、その他のリスクなど、問題を見出し、深刻化するのを防ぐことが可能となった。
全国に眠っているお米を食品ロスにしないで、ぜひ寄付を
2018年4月24日に開催された、文京区こども宅食の記者会見では、文京区の成澤廣修(なりさわ・ひろのぶ)区長が次のように呼びかけた。
実際には、お米だけでなく、多くの農産物も、生産調整の名のもとに廃棄され、規格外などの理由で流通しないものが多くある。
生活が苦しい家庭では、加工食品はもちろん、お米や農産物などもありがたい。ぜひ、これを機会に、眠っているお米などがあれば、食品ロス(フードロス)にしないで、必要なところへ活用されることを願っている。
「食」は、命をつなぐものであると共に、支援を必要とする人とのコミュニケーションツールにもなるのだ。
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