老舗の祖は女流歌人。秋色庵大坂屋さんの「酒の酔」は絹のようなこし餡を包んだふんわり薫り高い酒饅頭
うっとりするような芳香…といえば、どんな香りが思い浮かぶでしょうか。お気に入りの香水、好きだった人のヘアワックスの匂い、タオルの柔軟剤、飲食店の前を横切る時のにおいなど、その時の気分や思い出と深く繋がりがあるものが脳裏を横切るのではないでしょうか。
私にもうっとりするような芳香を言われて思い浮かぶものがいくつかあるのですが、その中のひとつが「蒸かしたてのお饅頭」のにおい。蒸し器をぱかった開き、もくもくと立ち昇る真っ白な蒸気と共に鼻腔、いえいえ、顔面ごと覆ってくれるようなあのふっくらとしたなんともいえない豊かな温もり。肌寒い今の季節はことさら恋しくなります。
東京都港区にお店を構える、創業約320年以上ともいわれる老舗「秋色庵大坂屋(しゅうしきあんおおさかや)」さん。火災や戦災など数々の困難を乗り越え、今に至るまで「文学的」かつ美味しい歴史を紡いでいるお店です。
文学的、と申したのは本日ご紹介させていただく和菓子に由来するもの。今回は秋色庵大坂屋さんの酒饅頭「酒の酔」をご紹介。
あたたかな薄紅色の肌には、桜と井戸の井の焼き印が。こちらはお店の祖といわれる方が「秋色女(しゅうしきめ)」というペンネームにて活躍し、今も尚講習等の題材として取り上げられる作品
<井戸端の 桜あぶなし 酒の酔>
をそのままお饅頭に落とし込んだもの。ほろ酔いの赤ら顔、井戸端に佇む桜…不思議ですね、色と焼き印だけでもうその光景が目に浮かんでくるようです。
酒饅頭というだけあり、新潟県は青木酒造さんの「鶴齢」の清酒そのものと酒粕を生地にあわせたもの。旨味豊かな生地で絹のようなさらりとした甘味のこしあんをたっぷりと包み蒸かしあげたお饅頭は、艶やかな香りと甘酒のようなほっこりとしたまろやかさが印象的。最後にキリリと引き締まるようなキレも感じるのは、わずかですが日本酒を嗜む身としての条件反射でしょうか。
こちらは蒸しあげる際にアルコール分が蒸発しているので、お子様も安心してお召し上がりいただけるとのこと。この芳香は、子供にとってどんなイメージなのでしょうね。
お酒を飲んだ後は甘いものが恋しくなるのですが、〆に酒饅頭…これも、あり?なのではないでしょうか。
<秋色庵大坂屋>
公式サイト(外部リンク)
東京都港区三田3-1-9
03-3451-7465
9時~18時
定休日 毎月第一月曜(7月&8月は毎週)・日曜・祝日