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「日本の桜と中国の桜、どっちがきれい?」 しばし沈黙した後、中国人から返ってきた答えは……

中島恵ジャーナリスト
川辺に咲く満開の桜(写真:アフロ)

 東京では2年連続で3月14日に桜が開花し、22日には早くも満開を迎えました。これから日本列島各地で見ごろを迎えます。今年はコロナ禍で、残念ながら、お花見パーティーや宴会などはできそうにありませんが、やはり、満開の桜を目にすると、日本人として晴れやかな気持ちになります。

 さて、今年のお花見が例年と異なることのひとつは、街に外国人観光客がほとんどいないことでしょう。全外国人観光客(コロナ前の2019年は約3188万人)の3分の1(約959万人)近くを占める中国人観光客も同様です。

 彼らにとっても、日本の春といえば、やはりお花見。通常なら、東京の上野公園や新宿御苑、大阪の大阪城公園や万博記念公園などに大勢の中国人が訪れ、思い思いに桜の写真を撮り、SNSに投稿していましたが、今年はそうした人々の姿はありません。

中国で有名な桜の名所は、あの武漢

 日本に来られない今年、彼らはどうしているのかと思って中国のSNSをのぞいてみると、中国国内でお花見を楽しんでいました。

 話題の筆頭は武漢です。武漢といえば、新型コロナの感染が拡大したことで世界的に有名になりましたが、コロナが発生する以前、武漢を象徴するものの一つが、実は桜でした。武漢大学のキャンパスには、戦争中に日本人が植えたとされる桜をもとに、約1000本の桜並木があり、そこが全国的にも知られる桜の名所となっているのです。

今年は誰も見られない「武漢の桜」

 昨年はコロナで大学のキャンパスも閉鎖となりましたが、今年は人数制限をして入場が可能になったことが現地で報道されていました。ほかに、東京と気候が近い上海や杭州、青島、南京などでも桜が開花し始め、先週末あたりから、公園や庭園、道路沿いの桜の写真を撮っている人が大勢います。

 私はSNSを通じて、日本でお花見を経験したことがある中国人に「日本の桜と中国の桜、どっちがきれいだと思う?」と問いかけてみたところ、数人から返信がありました。

 そもそも、そんな質問をすること自体、ナンセンスであり、どちらの桜も同じように美しく、比べるべきものでないことはわかっているのですが、日中双方でお花見を経験したことのある中国人の意見は、何か私たち日本人の参考になるところがあるのでは、と思ったのです。

中国のお花見は人、人、人で大混雑

 上海在住で、十数年前まで関西地方に住んでいた男性は、私の質問に対して、しばらく沈黙したあと、こう語りました。

「う~ん……、日本の桜は繊細で、はかない感じですね。幹がどっしりとしていて、樹齢が長い古木が多いけど、川沿いなどでは枝がしなっているので、ちょうど目の高さで花を楽しめる。上海には古木は少なく、若い木が上にまっすぐ伸びている感じ。上海の街中には、日本みたいな小さな川がないので、川沿いの桜や川面に散る桜の花びらは楽しめません(笑)。

 でも、最近は上海でも若者を中心に、お花見をしている人や、写真を撮っている人がすごく多くてびっくりしますよ。今の中国人の“お花見ブーム”は、絶対に日本の影響を受けていると思う。どっちがきれいかなんて、考えてみたこともないけど……自分はやっぱり日本の桜を見たいな」

 北京在住で、留学や仕事で東京に住んだことがある女性は「東京の桜が恋しいです。今年も東京に遊びに行って、お花見をしたかった。とても残念です」といいました。その理由を女性はこう語ります。

「中国にも珍しい品種の桜もあるので、桜の種類や色合いなどはあまり変わらないと思いますし、案外、中国にも桜の木は多いのですが、全体的な雰囲気とか、お花見文化はちょっと違いますよね。

 北京のお花見スポットとして有名な玉淵潭公園や、武漢、無錫、南京などの桜の名所は、とにかく人が多い(笑)。人、人、人って感じで、もうイモ洗い状態です。桜はきれいだけれど、人があまりにも多すぎるので疲れます。東京も上野公園などは人が多いといわれますが、中国の人の多さとは、正直比べ物になりません。

 最近は北京でも、シートを敷いてお花見をしたり、お弁当を食べている人も、けっこう見かけるようになったのですが、東京のようなのんびりとした雰囲気とか風情はないんです。まだお花見の習慣に、それほど慣れていないからかもしれないですが……。

 日本と中国、どちらのほうがきれいだということはできませんが、私は若いときに日本に住んでいたから、やっぱり、桜を見ると、自然と自分が日本で見に行った風景を思い出し、懐かしい気持ちになります」

世界三大お花見スポットの1つは中国!?

 ここまで詳しく分析できる中国人はあまり多くないと思いますが、彼ら以外、「日本でお花見をしたことはあるが、日本に住んだことはない」という中国人からは「どちらの桜もきれいだけれど、日本に行ってお花見をするほうが、友だちに自慢できる」や「やはり、日本で見るほうがきれいな気がする。富士山と一緒に河津桜の写真を撮ることは、日本でしかできないことですから」などの声がありました。

 取材した人たちは日本と関わりの深い人だったことから「日本でお花見をしたい」という意見が多かったですが、日本について何も知らない中国人に聞けば、まったく違う答えが返ってくる可能性もあります。おそらく、日本の桜を見たことがなければ「もちろん、中国のほうがきれい!」と答えたかもしれません。

 桜の美しさは、日本でも、中国でも、どこでも変わらないと思いますが、前述の女性がいっていたように、桜を含めた“お花見文化”という点では、やはり日本のほうに伝統があるように思います。

 ちなみに、中国語でお花見は「賞桜花(または賞花)」などというのですが、中国のサイトでお花見について調べてみると、「世界三大お花見スポット」について書かれたものが多数ありました。

中国の桜の名所のひとつ、無錫(むしゃく)の太湖(中国のサイト「台州薄荷戸外」より筆者引用)
中国の桜の名所のひとつ、無錫(むしゃく)の太湖(中国のサイト「台州薄荷戸外」より筆者引用)

 それは青森県の弘前公園、アメリカ・ワシントンのポトマック河畔、中国・無錫(むしゃく)の太湖(または武漢の東湖と書いているものもある)の3か所となっています。私自身はこの3つについて、聞いたことがありませんでしたが、サイトを見る限り、中国ではこの情報がかなり広まっているようでした。

 そういえば、ここ数年、日本通の中国人の多くが、わざわざ青森県まで行き、弘前公園のライトアップされた夜桜の写真を撮ってSNSに投稿しているところを、何度も見かけたことがあります。もしかしたら、東京の新宿御苑や、目黒川沿いで桜の写真を撮るよりも、もっとレアで、もっと自慢できるお花見スポット(!?)だと中国では認識されているのかもしれません。

参考記事:

『なぜ中国の若者はコスプレ衣装を着て、お花見の写真を撮りたがるのか?セーラー服、漢服、ロリータ風……』

『中国で「日本風のお花見」と桜の名所が増えている理由』

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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