かつて20リットルだったトイレの洗浄水を5リットルに減らせた3つの秘密
日本の水洗式トイレの元祖は奈良時代に
水洗式トイレの歴史は古いのです。
現在発見されている世界最古のトイレは、メソポタミア文明の遺跡「テル・アスマル」の水洗式トイレ(紀元前2200年頃)で、排泄物はレンガ製の配水管をとおして川へ流していました。
日本で水洗式のトイレが登場したのは奈良時代の藤原京(704年完成)。ここの水洗式トイレは、水の流れる細い溝をまたいでするタイプでした。
このように昔から、自然の水の流れを利用した水洗式トイレはあったのだが、広く普及したわけではなかった。
昭和時代後半まで、日本のトイレは、排泄物を便器下にためておくタイプが主流でした。
江戸から明治・大正時代にかけては、大便は瓶(かめ)などにし、その後はくみとられて肥料として畑にまかれていました。昭和になるとバキュームカーというくみ取り専用の車が登場し、1軒ずつ家を回って、大便・尿をくみとりました。
現在では水洗トイレが一般的になり、排泄物は水で流されますが、じつはこの洗浄水の量はどんどん少なくなっています。
1975年以前は1回に約20リットルの水を使っていました。いまや5リットル以下で流せるものもあります。なぜ、そのようなことが可能になったのでしょう。
トイレの流し水を減らせた3つの秘密
1つは便器の形状の工夫です。底が平らな和式便器から、傾斜のある洋式便器に変わり、少ない水で流せるようになりました。
もう1つは水流を強める工夫です。
タンク式の水洗トイレの場合、水を便器上部の奥2カ所から出し、便器内側の曲面に沿って流します。同時に、排水管側に汚物を引っ張り込むためのサイホン効果が起きます。排水経路に屈曲管によるサイホン構造部をつくり、サイホン効果によって洗浄水を引き抜くようにしながら排水します。こうすることで、水は便器表面を洗浄してから汚物を押し流すので、少ない水量で洗浄と排水ができます。
初期の節水型トイレは、下の絵のように、洗浄水を溜めておくタンクを高い位置に設置していました。高い位置から水を流して流速を高め、少ない水量で洗浄しました。
しかし、洗浄水が6リットルを切ると、性能を確保するのが難しくなったため、別の仕組みと組み合わされました。
たとえば下の絵のように水道水の圧力を利用します。通常の水道水には0.5MPa(メガパスカル)程度の圧力がかけられています。約50メートルの高さまで水を持ち上げられる圧力です。このおかげで4階建て程度の建物なら揚水ポンプなしで水道が使えます。この圧力をバネに溜めておき、排水時にはバネが戻る力によって水流を加速させます。
こうした工夫のおかげで、洗浄水量は減りました。
じつは世界中の便器が節水型に変わると、水を節減できるだけなく、CO2排出量を減らすことができます。例えば洗浄水量13リットルの便器から節水便器6リットルに交換した場合、節水量から換算されるCO2削減量は、便器1台あたり年間約26.7kgに相当します。水道事業では浄水にかかるエネルギーとしてたくさんのCO2を排出しているため、節水トイレの普及は低炭素社会実現にも貢献しています。