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遺体を堆肥にして、大地に還る 米国発コンポスト葬は日本で定着するか

鵜飼秀徳ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事
米国で始まった堆肥葬。リコンポーズ社HPより

 近年、「自然に還る」イメージのある「海洋散骨」や「樹木葬」が増えている。だが、米国ではさらに先をいく究極の自然葬「コンポスト葬(堆肥葬)」のサービスが始まり、話題を呼んでいるという。本稿は「絶滅する墓 日本の知られざる弔い」(NHK出版新書)を元に再構成した。

リコンポーズ社。同社HPより
リコンポーズ社。同社HPより

 コンポスト葬を開発したのは、米国ワシントン州シアトルのベンチャー企業、RECOMPOSE(リコンポーズ)社だ。コンポスト葬とは、遺体を堆肥にかえる葬送のこと。いや、葬送ともいえない代物だろう。全世界的に、人間社会が醸成してきた葬送文化に一石を投じる「新しい死後のあり方」といえるものになるかもしれない。

 同社の公式サイトによれば、創業者はカトリーナ・スペード氏という女性。建築を学んでいた大学院時代に、死後のあり方について強く関心を寄せるようになったという。そして、従来の環境負荷の大きい埋葬(土葬や火葬など)に疑問を抱き、2017(平成29)年にリコンポーズ社を設立した。2020(令和2)年11月から、コンポスト葬のサービスを本格的に開始した。

 米国では1年間でおよそ270万人が死亡し、そのほとんどが火葬されたり、直接土葬されたりしている。火葬は二酸化炭素を大量に排出して、地球温暖化を加速させる元凶となる。キリスト教式の土葬も、棺や副葬品などは完全に土に還らないので、「エコな埋葬」とまではいえない。米国における火葬率はおよそ56%。20年後には78%になると試算されている。

 世界の人口は現在78億人。将来的には100億人以上になるともいわれており、火葬の増加、墓地不足など、死後処理を巡って様々な問題が浮上してくることは間違いない。

約3ヶ月かけて堆肥にする

 こうした、地球環境には決して優しくない埋葬の現状をスペード氏は憂いた。上院議員に働きかけ、2019(令和元)年、ワシントン州議会において人間の堆肥化を可能にする法案可決に導く。2023(令和5)年3月までにコロラド州・カリフォルニア州・バーモント州・オレゴン州・ニューヨーク州の6州が合法化に至り、さらにマサチューセッツ州など複数の州が合法化に向けての審議を継続中だ。リコンポーズ社の積極的なロビイ活動によって米国では、遺体の堆肥化の法整備が急速に進んでいる。

 コンポスト葬の具体的な仕組みはこうだ。

 葬儀を終えた遺体は、マメ科植物でできたオーガニックウッドチップが敷き詰められた容器に入れられる。さらに堆肥化を促進させるために、二酸化炭素や窒素、酸素、水分などを制御できるカプセルの中に入れられ、そこでバクテリアなどの微生物を増殖させて腐らせる。

 遺体は、およそ30日をかけて分子レベルで分解され、土へと還っていく。遺体がカプセルに入って、土が完成するまでには約8〜12週間かかる。

このようなカプセルに入って堆肥になる。リコンポーズ社のHPより
このようなカプセルに入って堆肥になる。リコンポーズ社のHPより

 骨は完全には土にはならない。しかし、堆肥化する過程でカプセルを回転させるなどして通気をよくし、微生物を活発化させ、骨の分解を可能にする。減量した骨はミネラルたっぷりの土壌を生成する要素となり、植物の生育に寄与するという。

 インプラントや心臓ペースメーカーなどの人工物はスタッフによって取り除かれる。金属の詰め物などはリサイクルされる。

 人体に残っている抗生物質、化学療法で使用した医薬物質などは、微生物によって安全なレベルまで分解される。

 また、病原菌が心配要素ではあるが、堆肥化のプロセスでは55度を超える熱が発生し、時間をかけて分解するので多くの病原菌は死滅し、感染の心配はないと同社は説明する。エボラ出血熱やクロイツフェルト・ヤコブ病、結核など深刻な感染症の病原菌の残留や増殖も、問題ないという。

 なお、がん治療などで放射線シード移植を受けた患者の場合は、堆肥化する前に臓器を取り除いておく。

 リコンポーズ社のシアトルの施設には、50基以上のカプセルが用意されている。そのエリアはグリーンハウスと呼ばれ、臭気を防ぐための高性能な空気清浄機などが備わっているという。

 最終的には、遺体1体あたり85リットルほどの土壌ができる。この栄養豊富な土壌は、遺族に渡される。バラ園などの園芸用堆肥に使われたり、自庭に撒いたりすることができる。また、土の返還を望まない遺族が希望すれば、ベルズマウンテン保護林に撒かれて森林のための肥料になり、新たな命を育む源泉に生まれ変わることができる。

 同社によれば、火葬や土葬と比較して、コンポスト葬を選択した場合は1トン以上の二酸化炭素を節約できると試算している。

 気になる価格だが、同社のコンポスト葬は5500ドル(約79万円)。米国では、一般的には火葬費用が6万円程度、葬儀から遺体安置施設の利用料、納棺料、墓地代などを含めるとトータルで死後の費用は平均550万円ほどかかる。その点、コンポスト葬では火葬費や墓地、墓石代などが不要で、割安感はありそうだ。

 サービス開始からわずか3ヶ月後の2021年2月には、世界各国からの予約が550人に達したという。今後はさらに増えていきそうである。なぜなら、欧米では徹底したエコロジストは一定数いるとみられるからだ。近年のSDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどによって、葬送のあり方を再考する議論が深まりつつあった。

 そこへ、新型コロナウイルスの爆発的蔓延が追い討ちをかけた。現在、米国での死者の合計はおよそ61万人。遺体安置施設はあふれかえり、葬儀や埋葬もままならない状況が続いた。

 通常の弔いができなくなる中、哲学的に死をとらえる人が増えた。その中で、「死後の自然回帰」を強く支持する人が現れてきているのだろう。

リコンポーズ社のHPより
リコンポーズ社のHPより

日本でもコンポスト葬は流行るか?

 では、日本でコンポスト葬が流行る可能性はあるのだろうか。私は時期尚早ではあるものの、仮に法整備が整えば、将来的にコンポスト葬が入ってくる余地はあると考える。

 まず、法律の問題である。今のところ、コンポスト葬は日本では非合法に当たりそうだ。山野などに個人が勝手に遺体(遺骨、堆肥化した遺体を含む)を撒けば、刑法190条で定めている死体遺棄罪(3年以下の懲役)に觝触する。

 一方で散骨は、日本各地で実施されている。「樹木葬」「自然葬」などの名称で呼ばれる地上型の散骨の場合、都道府県知事の許認可を得た霊園内に造られた特定の場所でのみ、散骨が許されている。

 たとえば富士山麓などの風光明媚な土壌に眠りたい、自宅の庭に埋まりたい、あるいは田畠の肥料になりたい、と願っても実現することはできない。

 日本における多くの樹木葬の場合、霊園内の敷地の隅に樹木や草木を植え、カロートと呼ばれる容器に遺骨を入れるスタイルが一般的だ。だがこれはあくまでも、「自然に還れるイメージ」を抱ける葬送にすぎない。その点、コンポスト葬は完全に自然回帰型の葬送法なので、斬新である。

 海洋散骨の場合は、確かに「自然に還れる」埋葬法ではある。近年では1996(平成8)年に亡くなった漫才師の横山やすしが、無類の競艇ファンだったことから死後、遺骨が広島県の宮島競艇場の海に撒かれた。

 1998(平成10)年には自殺したロックバンド、X JAPANのギタリストhideの遺骨の一部がロサンゼルス近海に流されている。2011(平成23)年に亡くなった落語家の立川談志は、生前より散骨を希望していたことから、ハワイの海に撒かれた。

 日本では芸能人が先行する形で海洋散骨が始まり、ここ10年ほどで一般化した。現在、年間死者数の1%程度が海洋散骨を選択しているといわれている。しかし、海洋散骨とコンポスト葬は、遺族感情としてはかなり異なる。海洋散骨を望むような人が、コンポスト葬を選択肢に入れるかどうか。

 むしろコンポスト葬は土葬に近い。しかし、土葬への忌避意識は、日本人はとても強い。日本では火葬率が99.9%と世界一の水準にあり、相対的に土葬へのタブー意識が強まってきているのだ。コンポスト葬は、土葬に近い“生々しい”葬送なのがネックだ。

 国民の宗教感情の問題もある。海洋散骨が人気といっても、まだまだ多くの日本人は遺骨や墓を大事にし、一周忌、三回忌といった追善法要を実施しているのが実情だ。

 また、世間体もある。特にイエやムラ意識が強い地方在住の場合、コンポスト葬を選択した時の地域社会の目はかなり厳しそうだ。

 だが、葬送儀礼が縮小傾向にあるのは紛れもない事実。日本でも樹木葬や海洋散骨を選択する人々が増えてきている実情を踏まえれば、コンポスト葬受け入れの「素地」は、着々と進んでいるようにも思える。

 2020(令和2)年より始まった新型コロナウイルスによる「死」への意識の高まりが、こうした葬送の多様化の後押しをしているとみられ、今後日本の葬送のあり方にも影響を与えそうである。

 本稿は「絶滅する墓 日本の知られざる弔い」(NHK出版新書)を元に再構成した。

ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事

1974年、京都市生まれ。成城大学卒業。報知新聞、日経BPを経て、2018年に独立。正覚寺(京都市)第33世住職。ジャーナリスト兼僧侶の立場で「宗教と社会」をテーマに取材、執筆、講演などを続ける。近年は企業と協働し「寺院再生を通じた地方創生」にも携わっている。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」』(NHK出版新書)など多数。最新刊に『仏教の未来年表』(PHP新書)。一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事、大正大学招聘教授、東京農業大学・佛教大学非常勤講師など。

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