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ヒット未知数の洋画は「4ヶ月ルール」でサプライズ大逆転を狙え!

斉藤博昭映画ジャーナリスト
まさかのメガヒットとなった『ジャングル・ブック』。日本では4ヶ月後の公開(写真:REX FEATURES/アフロ)

先週末、全米のボックスオフィスで圧倒的な数字で1位を獲得したのが、『ジャングル・ブック』。日本では8月11日に公開される。全米公開から、約4ヶ月後だ。

今週末、日本で公開される『レヴェナント:蘇えりし者』も、全米では昨年の12月25日公開。日本公開まで、やはり約4ヶ月のタイムラグがあった。

この「4ヶ月」、じつは日本での予想以上のヒットを狙うための重要な期間と言ってよさそうだ。基本的に、ある程度のヒットが確実視/期待できるアクション大作、シリーズもの(フランチャイズ)の新作は、全米公開とほぼ同時期、遅れても1ヶ月後くらいには日本で公開されることが多い。

基本のヒットは日米同時期公開

今年でいえば

バットマンvs スーパーマン ジャスティスの誕生

全米・日本とも3月25日

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のように

日本4月29日、全米5月6日と、日本が早いパターンもある。

ややインターバルが長いものでは、昨年、日本で興収ナンバーワンとなった『ジュラシック・ワールド

全米6月12日日本8月5日

2ヶ月弱という公開のインターバルは、大ヒット確約大作としては、やや異例だった。

このようなフランチャイズ作品は、「日本でも一刻も早く観たい」という期待に応える必要もあるだろう。4ヶ月後に公開されれば、海外ではDVDやブルーレイが発売される時期と重なってしまう。

綿密戦略で大きな賭けに勝つ!

逆に、日本でのヒットが未知数の場合は、

実際に仕上がった作品全米公開時の評価やヒット状況日本での作品へのきめ細やかな浸透、という流れに従って宣伝戦略がとられ、ヒットへの期待が懸けられる。全米と日本の公開が「4ヶ月」というのは、長い気もするが、近年の成功例を振り返ると納得できる。

アナと雪の女王

全米2013年11月27日日本2014年3月14日

オデッセイ

全米2015年10月2日日本2016年2月5日

もちろん「4ヶ月」は偶然の一致ともいえるが、興収254億円という驚異的な数字で2014年のナンバーワンとなった『アナ雪』は、早くからの音楽の認知、ディズニー初の姉妹ヒロインなど、多くの要素が絡み合って好結果を生んだ。また『オデッセイ』は、「火星に一人で取り残される」というわかりやすい設定に、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』での予告編効果なども功を奏した。この2作とも、全米公開後にアカデミー賞をはじめ、映画賞に絡んだことも追い風になっている。

4ヶ月」の期間が、日本での大ヒットに見事に結びついたのだ。

画像

『レヴェナント』も、「4ヶ月」の間に、レオナルド・ディカプリオがアカデミー賞主演男優賞を受賞したことで、もともと大ヒットが難しかった作品内容(3時間近い上映時間、復讐劇、アート志向の映像など)に、大きな希望が灯ったことになる。ディカプリオ受賞の「記憶」がまだ残っている、初動時の数字に期待がかかるが…。

無責任ヒーロー、日本で旋風なるか!?

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今後、同じく「4ヶ月」のインターバルがあるのが『デッドプール』だ。

全米2月12日日本6月1日

アメコミヒーローという、日本では大ヒットが難しいジャンルで、当初は日本公開も危ぶまれたこの作品。全米公開では、無責任で正義感はゼロ。おしゃべりでお茶目、チャラいヒーロー像が大受けし、2月公開作品やR指定作品の記録を次々と塗り替える、まさかの特大ヒットにつながった。日本の映画ファンの期待も一気に高めてしまったのである。

かわいいクマのヌイグルミが、お下劣ネタを連発する『テッド』も連想させるので(『テッド』の場合は、全米2016年6月29日 日本2013年1月18日と、7ヶ月ものインターバルがあった)、もしかしたら日本でも予想外のヒットにつながるかもしれない。もし『デッドプール』が日米同時公開だったら、日本でのヒットは難しかったはずだ。

冒頭でふれた『ジャングル・ブック』も、原作の知名度は高いにしても、大スターの出演はなく(声の出演は豪華)、ヒットは未知数だった。ところが全米では批評家からも大絶賛を受け、サプライズの興行を展開している。日本でも、夏休み映画の主役候補に一気に躍り出たと言えるだろう。これからの「4ヶ月」で、ディズニーらしいヒット戦略が展開されるはずで、『デッドプール』とともに、日本での爆発力を見守りたい。

『レヴェナント:蘇えりし者』

(c) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

『デッドプール』

(c) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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