テレビマンがYouTuberやってみた〜トクサンTVの仕掛け人、平山勝雄氏インタビュー
YouTube運営会社を設立した元テレビ局社員
平山勝雄氏は大阪の準キー局・読売テレビの社員として知り合った。同局のプロデューサーたちとの私の勉強会に何度か顔を出してくれたのだ。草野球チームのYouTubeチャンネルをやっている話は当時から聞いていたが、去年会社を辞めたと聞き驚いた。退社後はYouTubeに専念すると聞いてまた驚いた。20代の若手ならまだわかるが、平山氏は「ダウンタウンDX」のチーフディレクターで同番組の中心人物の一人だった。テレビ局の優秀な作り手が会社を辞めて、ネットを含む様々な映像制作で活躍している例は知っている。だが、YouTubeチャンネルを自ら運営するために辞めた話は初めて聞いた。YouTubeはいま、著名タレントがチャンネルを持ち新たなコンテンツビジネスの場として再び注目されつつある。平山氏の考えを聞いてみたくなり、久しぶりにコンタクトした。Zoomでじっくり話を聞いたので紹介しよう。
草野球チームの仲間に「YouTubeやってみよう」
平山氏は野球が大好きで、読売テレビで番組を作りながら草野球チームでプレイを続けていた。大学では野球部に在籍し、今も140キロのストレートを投げるほどの実力だ。チームでアニキと呼ばれる彼が草野球仲間のトクサン(徳田正憲氏)とライパチ(大塚卓氏)に「YouTubeやってみよう」と呼びかけて始めたのがトクサンTVだ。
「僕が自分でチャンネルを立ち上げました。”アニキがまた強引なことやりだした”と言われましたけど。ちょうど野球チャンネルが出てきはじめた頃です」
自分はテレビ局員だし出るつもりはなく、トクサンとライパチの二人に中心になってもらうチャンネルだ。野球を盛り上げたい一心だったと言う。
「最初は撮影も編集も僕がやってましたがそのうち二人にやり方を教えてひとつひとつ彼らが作ったものを見てました。夜中までダメ出ししたり(笑)」
二人はどんどん上達していった。それとともに再生数も登録者数もぐんぐん伸びたそうだ。そしていつの間にか野球分野のYouTubeチャンネルのトップになった。
人気チャンネルになり企業からのオファーも
去年の4月に読売テレビを辞めてYouTubeに専念することにした。その頃にはチャンネル登録者が50万人に達していたと言う。
「スポーツ関連の企業にはメディア対応の専門部署があります。その方たちから様々な依頼が来るようになったのです。二十社以上の企業から、新製品を取り上げて欲しいといった依頼があり対応しています。あるいはイベントに呼んでいただき、その様子をチャンネルで配信して欲しいなどの依頼もあります」
これはYouTubeチャンネルの中でも専門性が高いチャンネルだからこそだ。言ってみればトクサンTVは「メディア」になったのだ。
「企業の方々が”このチャンネルと距離を縮めておきたい”と思ってくださってるようです」
YouTubeはチャンネル運営者に再生数に応じた広告収入が入る。だがそれだけではビジネスとしては心許ないだろう。YouTuberにとってそれとは別に企業とのタイアップが重要な収入源となる。
トクサンTVの場合、分野が明確に絞られている分、逆に企業の依頼が来やすいのだろう。筆者が思うに、雑誌のビジネスモデルに近いのだと思う。人びとの興味や趣味に応じて多種多様な雑誌が存続してきたのは、その趣味を持つ読者が集まる場として企業にとって有益だからだ。同じような構造がYouTubeで成立しはじめている。トクサンTVはその潮流にうまく乗った。
一年ほど前からは漫画チャンネルも開設しロケットスタートできたようだ。ヒューマンバグ大学というチャンネルはすでに登録者数が100万を超えている。
「その頃、漫画チャンネルが出てきていて、自分はテレビ番組で再現ドラマを作っていたので、そのやり方でいけるのではと勝負してみました。1ヶ月も経たずに爆発し、YouTubeで漫画のチャンネルという分野が確立したと思います」
これまでなかった、出はじめの分野のパイオニアになる、という手法で成功している。
テレビの作り手だからこそ面白い映像が作れる
筆者がもう一点聞きたかったことがある。YouTubeをはじめネット映像はテレビ番組とは大きく違う。だからテレビの人材がYouTubeの映像を作っても成功しない、とよく言われる。トクサンTVでは平山氏の番組作りの経験は生きなかったのだろうか?
「テレビ番組の作り方そのままではないですが、経験は大きく生かせています。熟練の高級フレンチのシェフがパパッと手早く料理したらきっとおいしいですよね。テレビみたいに凝って作らなくても、このネタだったらこことここを編集したら面白い!それはテレビの経験があるからわかる。YouTubeではテレビほど時間や手間をかけませんが、核になる面白さがわかっていれば最短距離で作れます」
この「最短距離」で平均点をクリアすることが大事だし、そこにはテレビでの経験が生きるのだろう。
「テレビではストーリーを丁寧に作って、こうたどっていって最後の方で最高潮に持っていく。YouTubeでは長々待ってくれないので最初からドーン!とやって終わりにしたりします」
そう説明する平山氏の話にはテレビの作り手としての誇りも感じる一方で、自分を育ててくれた古巣・テレビへの想いも滲み出る。
「テレビ局がYouTubeチャンネルを開設しはじめて、ようやくネットでの映像作りにもピントが合ってきた気がします。ただ、テレビは出遅れたかもしれません。でも最強の映像クリエイター集団として、ここから巻き返して欲しい」
感じている人は多いと思うが、YouTubeは新たな局面を迎えている。やんちゃな若者たちがいたずらのような映像で短期的に再生数を稼ぐ場だったのが、本格的なコンテンツビジネスの場となりつつあり、メディアと呼べるチャンネルが出てきている。そんな中で、テレビの作り手の活躍は今後も出てくるだろう。その動きからは目が離せない。