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小学校でのクラスター発生 それでも過剰な対策はすべきではない理由

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

3月からほとんどの小学校・中学校・高校が新型コロナ対策として臨時休校となっていましたが、緊急事態宣言の解除を受け、各地域で学校再開が始まっています。

そんなさなか、小学校でのクラスター発生の報道がありました。

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また、これまでにも小学校でのクラスター発生は報告されていました。

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我々はこの小学校でのクラスター発生事例を受けてどのように対応すればよいのでしょうか?

果たして小学校での感染対策はより強化されるべきなのでしょうか?

すでに学校では感染対策が導入されている

先日、私は長女の中学校の入学式に参加しましたが、すでに「新しい生活様式における入学式」が導入されていました。

生徒や保護者の椅子は適度な距離が取られ、出席者の数も制限されていました。

体育館の窓は全開に開けられ換気が行われており(雨がガンガン入ってきてましたけど)、もちろん全員がマスク着用です。

式典のプログラムに「国歌斉唱」がありましたが、副校長先生より「声に出さず心のなかで歌ってください」と参加者へのアナウンスがあり、心のなかで国歌を歌い、ちょっとサッカー日本代表になった気分がしました。

このように、すでに学校は文部科学省から出された「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」という長いタイトルのマニュアルに基づいた感染対策を行っています。

うちの子どもたちも健康観察カードが配布されて毎日検温してから登校しています。

手を洗う6つのタイミング(文部科学省 「学校の新しい生活様式」より)
手を洗う6つのタイミング(文部科学省 「学校の新しい生活様式」より)

しかし、仮にこれに100%準拠したとしてもリスクはゼロにはならないでしょうし、緊急事態宣言が解除された今ではゼロリスクを学校に求めること自体が無茶というものです。

ましてや対象は子どもです。マニュアルを完璧に遵守することは難しいでしょう。

個人的には今回のクラスター発生によって世論が「もっと学校での感染対策を徹底しろ」という流れになることを危惧しています。

学校での感染対策を過剰に行うべきではない理由を以下に述べます。

小児の感染例は国内でも、世界的にも少ない

日本では20歳未満の感染者は他の年齢層と比較して極端に少なく、国内全体のわずか4%です。

日本国内での新型コロナ感染者の年齢別分布(https://www.statista.com/より)
日本国内での新型コロナ感染者の年齢別分布(https://www.statista.com/より)

確かに日本は少子高齢化が進んでいますので、そもそも子どもが少ないわけですが、それを差し引いても少ない感染者数です。

日本だけでなく、海外でも小児例は成人例よりも報告が少なく、例えば中国でも人口分布と比較しても明らかに小児の発生が少ないことが分かっています。

中国の人口分布と新型コロナ患者の年齢分布(筆者作成)
中国の人口分布と新型コロナ患者の年齢分布(筆者作成)

ではなぜ小児ではこのように感染者が少ないのでしょうか。

小児では新型コロナへの感受性が低く、有症状者も重症例も少ない

小児の新型コロナウイルス感染症では、

・感染しても症状が出る割合が低い

・感染する割合が成人と比べて低い

・重症化する頻度が低い

ことが分かってきました。

新型コロナウイルス感染症では、感染したとしても症状が出ない"無症候性感染者"がいることが分かっています。

どういう人が感染したら症状が出て、どういう人なら感染しても無症状なのか、という条件についてはまだよく分かっていませんが、小児ではこの無症候性感染者の割合が多くなるようです。

世界各国の感染者の状況の調査によって、70代以上の感染者のうち69%が有症状者になる(31%が無症状)のに対し、10代の感染者では約21%の人が有症状者になる(79%が無症状)であると報告されています(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0962-9)。

年齢ごとの感染性の違い(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0962-9より)
年齢ごとの感染性の違い(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0962-9より)

この図は年齢ごとの感受性(感染者との接触による感染確率)の違いを見たものです。

年齢が低いほど感受性が低く、年齢が高くなるに従って感染しやすくなります。60歳くらいからはプラトーに達します。

なぜ年齢によって感受性の違いが生まれるのかについては、まだ結論は出ていませんが、新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に結合するACE2受容体をコードする遺伝子であるACE2遺伝子の発現量が小児では少ないことが可能性の一つとして挙げられています。

年齢ごとの鼻腔上皮のACE2遺伝子の発現量の比較(doi:10.1001/jama.2020.8707より)
年齢ごとの鼻腔上皮のACE2遺伝子の発現量の比較(doi:10.1001/jama.2020.8707より)

さらに小児では新型コロナに感染しても重症化することは稀です。

日本での新型コロナ患者の年齢別の致死率(4月17日時点)
日本での新型コロナ患者の年齢別の致死率(4月17日時点)

海外では新型コロナに関連した川崎病の様な病態(Multisystem inflammatory syndrome in children (MIS-C))が報告されており、警戒すべきではありますが、国内ではまだこのMIS-Cの報告はありません。

学校での感染対策はゼロリスクを目指すべきではない

このように、小児では基本的にはそもそも感染者が少なく、有症状者や重症化も少ないため、ゼロリスクを求めるような学校での過剰な感染対策は避けるべきです。

例えば学校閉鎖のような極端な対策も、保護者への負担が生じる一方で、流行全体に与える影響はごくわずかであることが分かってきています(https://doi.org/10.1016/S2352-4642(20)30095-Xhttps://doi.org/10.1016/S2468-2667(20)30082-7)。

今後もこのような学校でのクラスターは発生する可能性はありますが、国内全体を見渡せば流行のごく一部に過ぎません。流行を広げているのは小児ではなく我々成人です。流行の規模からすると、より注力すべきは今だと夜の街や病院でのクラスター対策でしょう。

日本小児科学会は緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日に「新型コロナウイルス感染症に対する保育所・幼稚園・学校再開後の留意点について」という声明を発表しています。

・学校での感染症対策を徹底したとしても新型コロナウイルス感染のリスクをゼロにすることは不可能です。地域の小児科や感染管理に関する医師と綿密な連携体制を構築し、刻々と変化する状況に対して適切な判断を行う必要があります。

・子どもの教育、福祉、健康の源である保育所・幼稚園・学校生活は、子どもにとって最も基本的かつ大切な活動です。休所・休園・休校の問題点としては、子どもの教育の遅れ、生活習慣の乱れ、運動不足、それによる体重増加、栄養の偏り、食環境の変化、家庭内での虐待の増加、保育所・幼稚園・学校での福祉活動の低下、保護者の就労困難・失業、祖父母などの高齢者との接触機会の増加などがあげられます。

出典:新型コロナウイルス感染症に対する保育所・幼稚園・学校再開後の留意点について(日本小児科学会)

休校が子どもや保護者、社会に及ぼす影響は非常に大きいものであり、できるだけこうした処置を取らないようにコロナを意識した新しい学校での生活様式を送りながら、もしクラスターが発生してしまった場合は早期に検知し専門家の介入によって拡大を防ぐ、という対応が現実的ではないかと思います。

そして、学校でのクラスター発生のもとを辿れば成人での流行に行き着きます。

我々大人が流行を広げないことが子どもたちを守ることにも繋がるのです。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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