なぜウクライナ「侵攻」なのだろう。「侵略」でも「戦争」でもないのはどうして?:戦争勃発から一ヶ月
ウクライナ戦争が始まってから、1ヶ月が過ぎた。
執筆者群の片隅の一員として、あふれる情報に溺れながら、どの情報が正しいのか、どのテーマを書くべきか、悩みながら1ヶ月が過ぎたのだが・・・。
ずーっと不思議というか疑問に思っていることがある。
日本では、2月24日から始まったこの戦いの名称として「ロシアによるウクライナの侵攻」あるいは「軍事侵攻」という表現が一般的になっている。
なぜ「侵攻」なのだろう。これは「戦争」じゃないのだろうか。
フランスのメディアは、ロシアが二つの自称独立国を承認したり、この地域内で争ったりしていた間は、ロシアや軍の行為に対して「ロシアの invasion」という言葉を使っていた。「invasion」は、日本語では「侵略」とも「侵攻」とも訳すことになっている。戦争という言葉は使っていなかった。
しかし、この範囲を飛び越えた2月24日からは、仏メディアは一斉に「戦争」という言葉を使っている。これはアメリカでも英国でも、ほぼ同じである(下記資料を参照)。
もちろん、今でも「invasion」(侵略・侵攻)という表現はするが、むしろ各都市や地域への軍事攻撃を指すことが多い。この戦争全体の名称を指すものとして使われることは、無いわけではないが、ぐっと減った。
なぜ、日本では相変わらず、全メディアが一致するかのように「侵攻」という言葉を使っているのだろう。
グルジア(現ジョージア)のように、比較的短期で、部分的に終わると思っていたから? でも首都キエフ(キーウ)が攻められているのに? もう1ヶ月以上も過ぎているのに? しかも長引きそうである。
ただ、「ロシアによるウクライナ侵攻」が、それほど悪い表現なのかというと、そうとも言えない側面もないわけではない。
誰が加害者なのか、はっきりわかる表現だからである。「戦争」だけだと、この部分は伝わりにくい(といっても、おそらくもう全員が知っているが)。
でも、それならなぜ「ロシアによるウクライナ侵略」ではないのだろうか。今起こっていること、これがただの「侵攻」なのだろうか。
日本語では 侵略>侵攻>侵入 のイメージがあると思う。英語やフランス語の invasion という言葉がもつ意味や与える印象は、「侵攻」というより「侵略」だと私は思っている。
ただ、戦争中に、ある都市や地域へ軍が動いたという話なら、「侵攻」と訳してもいいのではないかと思う。
「侵攻」という言葉を使い続けている理由が、私にはよくわからない。とにかく言葉を和らげたいのだろうか、この国の「お家芸」「伝統芸」または「お作法」にのっとって。
「全滅」は「玉砕」だったし、「占領軍」は「進駐軍」だった。
それとも、他に何か理由があるのだろうか。「侵攻」から「侵略」「戦争」に変えるタイミングを逃しただけ、など・・・。
そういう和らげた言葉を使うのなら、日本がウクライナと同じ目にあっても、他国に「戦争」でも「侵略」なく、「侵攻」と言われても良いということになる。
もし「誰が加害者なのか、はっきりさせる表現のほうが良い。『戦争』という言葉だと伝わりにくい」という意向ならば、メディアは「侵略」という言葉を使ったほうが良いと思う。ぜひご一考をお願いしたい。
ちなみに筆者は、「ウクライナ戦争」という言葉を使っている。
これは戦争だからである。
【参考資料】
◎ニューヨーク・タイムズ。Russia-Ukraine War(露ウ戦争)とある。
◎ワシントン・ポスト。WAR IN UKRAINE(ウクライナでの戦争)と大きくある。写真の中、左下にMapping the invasionとある。ここをクリックすると、日本でもよく見るウクライナの戦争状況を示す地図が出てくる。各都市や地域への軍の進み方を見せる地図である。
◎米CNN。ここはRussia invades Ukraine(ロシアのウクライナ侵略)とある。
(真ん中の空きは私が使っている広告ブロックのためと思われる)。
◎英BBC公共放送。見えにくいがNEWSの下、左端のHomeの右隣にWar in Ukraine(ウクライナでの戦争)とある。
◎英ザ・タイムズ。Russia-Ukraine war(露ウ戦争)とある。
大きな見出しにも、右側の「Russia-Ukraine war: latest maps, pictures and video(露ウ戦争:最新の地図、写真とビデオ)」にも使われている。
◎英フィナンシャル・タイムズ。War in Ukraine(ウクライナでの戦争)と表現。
◎英ガーディアン。赤地の左端にUkraine crisis live(ウクライナ危機ライブ)というページ名。見出しでRussia-Ukraine war latest: Bien....(露ウ戦争最新ニュース:バイデン・・・)とある。
◎フランス公共放送 France Info。DIRECT: Guerre en Ukraine(ライブ:ウクライナでの戦争。Guerre/ゲールとは戦争の意)とある。
◎フランス『ル・モンド』。こちらもGuerre en Ukraine(ウクライナでの戦争)を使っている。
【3月27日午後の追記】
日本政府は「侵攻」ではなく、「侵略」を使っています。確かに岸田首相も林外相も、「侵略」と表現しており「侵攻」は使っていません。
それで、一部に「左派メディアが云々」という意見が出るのでしょう。でも、NHKも、政権寄りと言われるメディアも「侵攻」を使っています。
理由は一つではなく、複数あるのだと思います。それでもなぜかほぼ一致して、日本のメディアが「侵攻」を使っているのは、どうしてでしょう・・・。
確かに、メディアは他のライバル(?)メディアをチェックしており、横並びになる傾向は、どの国にも多かれ少なかれあると思います。
ということは、理由は様々にあったとしても、日本のメディア関係者、ジャーナリスト・記者の総意として「侵攻で」ということになった、あの状況を知っているのに疑問を挟まなかった、たとえ政府が「侵略」と表現していてもそうだったーーと解釈できるのでしょうか。
NHKは、首相の発言の引用の時は、ちゃんと「侵略」と言っています。それでも「ロシアによるウクライナへの(軍事)侵攻」を戦争の名称として繰り返しています。何か内部で打ち合わせなどをして、そう呼ぶことを決めたのでしょうか。もしそうなら理由が知りたいです。他のテレビやラジオ、ネット放送局等はどうなのでしょう。