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甲子園か日の丸か? 侍ジャパンU18代表を批判する前に考えるべきこと

大島和人スポーツライター
吉田輝星(金足農業)はU18アジア選手権でも韓国戦、タイペイ戦に登板(写真:岡沢克郎/アフロ)

韓国、台湾に敗れて批判を受けるU18

第12回BFA U18アジア野球選手権大会が、9月10日に終了した。侍ジャパンU18日本代表は1次ラウンドで韓国、スーパーステージでチャイニーズタイペイ(台湾)に敗れ、3位で大会を終えている。

チーム編成、永田裕治監督の選手起用に関して厳しい指摘も多かった。自分の目に入った内容をざっと列挙しよう。

・非甲子園組の発掘不足

・相手チームの分析不足

・木製バットに適応する打者の見極め失敗

・左打者、ショートに偏った構成

・吉田輝星投手への依存

それぞれの指摘は個人的に同意できる。ただし日本が優勝すればチーム、監督はここまで批判されなかっただろう。韓国、タイペイは単純にレベルの高い人材を擁していたし、勝ち負けには偶然の要素もある。結果に熱くなる心理は分かるが、1試合2試合の結果で評価が全否定に振れる様子は少し奇妙だった。

侍ジャパンが法人化され、プロジェクトとして本格化したことにより、今はあらゆる年代の日本代表がより本気度の高い体制で国際大会に挑んでいる。そんな中で日本が「どう戦うべきか」を整理する必要がある。

「どう戦うか」より先に議論するべきこと

そもそも「どう戦うか」を議論する以前に、高校野球界には「国際大会をなぜ戦うか」という共通理解が無い。プロ、大人ならばシンプルに勝利の追求でいい。しかし育成年代は目先の勝利だけを考えると、大きな欠落が生まれてしまう。

他競技ならばU18などの代表チームには、フル代表への通過点という位置づけがある。潜在能力が高い子に経験を積ませて能力をストレッチする場であり、振る舞いなどから人間性を確認される場でもある。

ただし侍ジャパンU18は「勝ったら喜ばれる」「負けたら叩かれる」というレベルに止まっている。個々の感じた課題、取り組みはあるだろうが、そもそも「内容の評価」「次へのつながり」が無い。評価が無ければ課題を改善する取り組みにつながらない。そもそも偶数年のアジア大会、奇数年の世界大会とメンバーはほぼ完全に入れ替わるし、「U15」「U18」「WBC」の一貫性も乏しい。

国内大会と国際大会の優先順位は?

もう一つのポイントは優先順位だ。サッカーやバスケットボールならば国際大会優先という基準がはっきりしている。実際に男子バスケは今年8月に高校総体とFIBA U18 アジア選手権の日程が被り、代表選手は高校総体を辞退した。

バスケ界もかつては国内と世界の優先順位が曖昧だった。2014年夏には選手をぎりぎりまで高校総体に出場させ、FIBA U-17世界選手権大会の開幕直前に現地入りさせる措置が取られた。しかし川淵三郎氏を中心にした改革もあり、今は世界優先という基準が明確になっている。

野球界が国際大会優先を徹底するなら木製バットの導入、もしくは反発係数の小さい金属バットの導入と言った施策を採るべきなのかもしれない。一方でNPBが世界大会に合わせて統一球を導入したドタバタを思い出すと、安直なアクションはいい結果を生まないことも分かる。目先の結果へ過剰に反応して「すぐできること」を慌ただしく実行すると、リソースを浪費しかねない。

そもそも日本球界には全国高等学校野球選手権という絶対的なイベントがある。日本も過去にはU18年代のアジア大会、世界大会に地方大会で敗れたチームの選手を出していた。2010年代に入りWSBC(世界野球ソフトボール連盟)、BFA(アジア野球連盟)が日本に配慮して大会日程を9月にずらし、日本もベストメンバーを出すようになった。

つまり今は日程的に二兎を追えるのだが、結果としてコンディションやモチベーションの維持・調整が難しくなった。また日程的に甲子園で消耗している投手を更に消耗させ、選手の未来をスポイルするリスクも高まっている。

アジアと世界の大会を優先するなら選手権の前倒し、縮小などで調整と強化の日程をしっかり確保するべきだ。しかし日本高校野球連盟、ファンがそれを望むとは思えない。それならば選手に過大な期待をかけ、二兎を追わせている現状を緩めるべきだ。率直に言えばU18は「思い出作り」「プレーを楽しむ」場くらいの割り切りでいい。つまり公開競技として緩く行われる国民体育大会と同じ扱いだ。

選手をどんな基準で選ぶか?

選考にも3つの選択がある。

1:甲子園で活躍した選手

2:国際大会で勝つための選手

3:代表やプロで活躍する可能性のある選手

もちろんどの基準で選んでも代表に入る選手はいる。また選手の可能性に関する評価は難しい。そもそも日本は国際大会を経験した指導者が少ないのだから、そこで勝つ方法論を持っている人もいない。なので「国際大会で勝つための選手を選ぶ」という発想は机上の空論かもしれない。

現状では「甲子園で活躍した選手」が優先されていて、それは一つの見識だ。ただしMLBのスカウトから意見を聞き「次のステップで台頭しそうな選手に経験を積ませる」という考えで取り組んでいるU18アメリカ代表の取り組みは興味深い。いずれにせよ大切なのはチーム作りの方向性をあらかじめ設定し、順序立てて実行していくことだ。

今回の侍ジャパンU18はショートに偏った選出が行われていたが、ショートは潜在能力の高い選手が集まる花形ポジションだ。普段と違うポジションを経験することで得られる学びもある。基準や狙いがはっきりして先につながる道があるなら、結果はあまり問わなくていい。

必要な広く長い目線

そもそも「日本の野球を強くする」「選手を立派な大人にする」取り組みは、高校野球の2年4ヵ月で結論を出すべきものではない。2週間の代表活動で結実するものでもない。

侍ジャパンU18は基本的に高野連の活動だが、選手たちは間もなく高校を卒業する。チームが良い活動をした場合の受益者はプロであり大学野球であり、日本野球全体だ。したがって「侍ジャパンU18の活動をどうするべきか」「選手権と国際大会のどちらを優先するべきか」という議論は、高校野球にとどまらない広い視点が必要になる。

最終的には日本野球全体、一つの組織体で全体最適を追求する構造になれば素晴らしい。育成や強化のような長い取り組みも、より機能しやすくなるだろう。一方で朝日新聞グループ、読売新聞グループという「宿命のライバル」がこの競技へ密接に関わっている以上、融合が難しい現実も分かる。さらに言えばNPBも育成強化に対して一つの意思を持っているわけではない。

しかし少なくとも高校野球に関わる当事者、メディア、そしてファンが「優先順位」「目的」の意識を持ってほしい。甲子園大会やU18の国際大会の結果に一喜一憂するのでなく、広く長い目線で選手を見守るカルチャーが生まれれば、現実も徐々にいい方向へと変わっていくはずだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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