指先から「電気」が──寝ている間に「人体を電池」にするウェアラブル技術とは
人間の皮膚には微量な電気が流れているが、こうした生体の電気エネルギーをウェアラブルなデバイスの動力源にする技術が開発され始めている。最近、米国の研究グループが、睡眠中の人間の汗から継続的に電気エネルギーを得る技術を開発したと発表した。
衣服に埋め込んだり腕に巻きつけたりするウェアラブルな電子デバイスは広く使われ始めている。生体に埋め込んだデバイスも現れているが、こうした電子デバイスは、小型バッテリーなどから電力を供給されているため、長時間の電力供給が難しかった。
このため太陽光、人体の動作、温度差などから継続的に電力を供給できるシステムが研究されてきた。ただ、こうした電力供給システムは非効率的で取り回しが悪かったりして実用的とはいえない。
脳に埋め込んだマイクロチップにワイヤレスで充電し、薬の投与やLEDによる脳神経への光刺激を行うという技術はすでにある(※1)。これは従来のワイヤレス充電器より格段に小さくしたデバイスで、マウスの脳に実装して薬の投与の実験を行っているようだが、自立的に継続して発電するシステムではない。
最近、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループが発表した論文(※2)によると、人間がかく汗の酵素還元反応を利用した発電システムがあり、同研究グループは全く新しい効率的な生体電池を開発した。これまでの同様の発電システムでは、より多く発電するため、激しい運動を長時間、行わなければならなかったが、同研究グループが開発した技術では過激な運動をして大量の汗をかかずに座ったり眠っている状態の発汗で十分な電力を得ることができた。
この生体電池は、多孔質の吸水性に富んだ柔らかいカーボンナノチューブで作られ、身体のほかの部位より発汗量の多い指先につける。発電デバイスの大きさはタテヨコ約1センチだ。
汗に含まれる乳酸から酵素還元反応によって生成された電子が電極に流れ、電流を作り出す。実際に発電したところ、10時間の睡眠の間に最大389ミリジュールの電気を得ることができ、これは小さな電子デバイスを24時間駆動させるのに十分な電気エネルギーだという。また、同じシステムを使ってパソコンのキータッチやマウスのクリックのように指先をなにかに押し付ける場合、1時間あたり28.4ミリジュール以上の電気エネルギーを得ることができた。
同研究グループの開発した技術は、従来の同じような生体電池に比べて高効率なので、タイピングなどの通常の作業や睡眠中に十分な電気エネルギーを得ることができるという。生体への適合性と親和性に富んでいることで、今後、ペースメーカーや生体情報の計測デバイス、電気刺激により筋肉や臓器の機能をコントロールする生体埋め込みデバイスなどでの利用が期待できそうだ。
※1:Choong Yeon Kim, et al., "Soft subdermal implant capable of wireless battery charging and programmable controls for applications in optogenetics" nature communications, Vol.12, 535, 2021
※2:Lu Yin, et al., "A passive perspiration biofuel cell: High energy return on investment" Joule, doi.org/10.1016/j.joule.2021.06.004, 2021