国産の新型コロナ治療薬が目指した新制度「緊急承認」とは 現在の治療薬まとめ
塩野義製薬が開発した新型コロナ治療薬エンシトレルビル(商品名ゾコーバ)について、新設された「緊急承認」制度を適用した承認が審議されましたが、残念ながら承認にはいたりませんでした。この新制度について、解説します。
日本の薬事承認は時間がかかる
アメリカ食品医薬品局(FDA)には、緊急時に未承認薬などの使用を許可したり、既承認薬の適応を拡大したりする「緊急使用許可」という制度があります。
日本の「特例承認」は、国民の健康をおびやかす場合に、新型コロナワクチンや治療薬で適用されてきました。しかし、国外の承認薬については、「日本人にも安全かつ有効に使えるよ」という確認が改めて必要でした。
そのため、世界中で接種された新型コロナワクチンの臨床試験があるにもかかわらず、実用化まで時間がかかりました。実際、新型コロナワクチンの特例承認は海外から2~5か月遅れてしまいました。
今年5月、有効性があくまで推定段階であっても承認が申請できる「緊急承認」が創設されました (1)(表1)。この制度を利用すれば、日本発の医薬品であっても迅速に承認がすすめられます。
今回、塩野義製薬の新型コロナ治療薬エンシトレルビルが国内初の「緊急承認」の審議にかけられました。
この薬、ウイルス量が減ることは示されていますが、症状改善に対する効果が乏しいという指摘もあり、6月22日の会合では残念ながら承認見送りとなりました。
新型コロナの軽症者向け抗ウイルス薬には、高い有効性が示された薬剤が他にも複数あります(表2)。少なくとも、これらに匹敵するほどの有効性が示されなければ、承認は難しいということでしょう。別の分科会と合同で再度話し合いが設けられるようで、今後承認される可能性もあります。
この「緊急承認」制度、放射能汚染やバイオテロに関しても適用できるため、緊急時に必要な薬が迅速に承認される仕組みができたというのはありがたいことです。
現在の新型コロナ治療薬まとめ
現在の新型コロナ治療薬は図のように多岐にわたります。経口薬から点滴製剤まで、たくさんの治療薬があります。
新型コロナワクチン接種率が高くなり、オミクロン株以降になってからは、以前のような肺炎を起こす頻度は減りました。そのため、デキサメタゾンやバリシチニブのような抗炎症薬まで投与しなければならない患者さんはもう少数派です。
BA.2以降、効果が乏しい抗体薬は淘汰され、アメリカでは現在ベブテロビマブという抗体薬が使用されています。これは、BA.2からBA.4、BA.5までオミクロン株に幅広く効果を持っています。日本では未承認です。
今後どのようにウイルスが変異していくのかまだ予想はできませんが、弱毒化を保ったままであれば、ウィズコロナの生活が続けられそうな気もします。
(参考)
(1) 緊急承認制度における承認審査の考え方について(URL:https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T220523I0010.pdf)