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薄雲は大空のキャンバス 空に現れる光の芸術作品を探そう!

片平敦気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士
環水平アーク。大阪で2005年6月8日に撮影。私が見た中で1、2を争う鮮やかさ。

ゴールデンウィーク後半の5月4日、東日本から西日本の広い範囲で、空に浮かぶ七色の帯が観察されました。これは「環水平アーク(水平環)」と呼ばれる現象。時として非常に鮮やかな色になり、見つけた人々を驚かせたりもします。

空に現れるカラフルな現象と言えば、雨上がりに現れる「虹」が代表的ですが、実は虹以外にもさまざまな現象があります。比較的頻繁に現れるものから、出会えたら幸運とも言えるようなレアな現象まで……。雲と太陽が作り出す光の芸術作品(専門的には「大気光象」と呼びます)をご紹介します。

■ 「晴れているのに虹?!」 ネットを賑わせた「環水平アーク」

環水平アーク、2014.5.4大阪市内。大勢の人の目に留まる、鮮やかさでした。
環水平アーク、2014.5.4大阪市内。大勢の人の目に留まる、鮮やかさでした。

5月4日(日)、空を見上げてこの姿を目撃した人も多いことでしょう。TwitterやFacebookなど、インターネット上に次々と写真がアップされ、私も急いで外に飛び出して確認・撮影しました。

太陽のずっと下、地平線に比較的近い所に現れるのがこの「環水平アーク(水平環)」です。「あれ、虹?」と間違う方もいらっしゃるかもしれませんが、虹は太陽と反対側の空に現れますので、これは別の現象と分かります。

太陽からどの程度下に位置するかというと、視角46度ほど下と決まっています。

視角とは、目で見た時に、視線の真正面と、その対象物がどのくらいの角度で離れているかを示す数字。目の前に手をぐっと伸ばし、手のひらを広げてみてください。この時に、親指の先と小指の先との離れ具合が、視角22度くらいと言われています。

つまり環水平アークは、広げた手が2つぶん以上も太陽の下になり、想像以上に低い高度です。

気象条件が整ったとしても、太陽が空高く昇る季節で、それも太陽が空高く昇る時間帯にしか見られない、レアな現象と言えます。晩春・初夏~晩夏・初秋の頃の正午前後の数時間しか見つけることのできない、なかなか出会うことのできない現象です(それ以外の時間帯は太陽高度が低くなり、出現位置が地平線付近~地平線より下になってしまう)。

■ 太陽の周りの光の輪「日暈」と、両横に現れる「幻日」

日暈、2013.5.20大阪市内。太陽の強い光を遮るため、街灯で隠している。
日暈、2013.5.20大阪市内。太陽の強い光を遮るため、街灯で隠している。

これは、空をこまめに眺めていると、比較的頻繁に現れる現象です。見たことがあるという方も多いでしょう。太陽を中心にぐるっと一周、光の輪っかが現れることがあり、「日暈(ひがさ、にちうん)」と呼ばれる現象です。輪っかの色は白い場合だけでなく、七色の輪っかになることもあります。

日暈は「22度ハロ」とも呼ばれ、太陽の周りの視角22度の位置に出現します。大空に手を伸ばした時の、手のひら1つぶんと同じくらいで(円の直径は2つぶん)、思いのほか大きいものです。

幻日、2007.3.17大阪市内。画面左端に太陽があり、右側に明るい場所がある。
幻日、2007.3.17大阪市内。画面左端に太陽があり、右側に明るい場所がある。

また、日暈の出ている場所の中でも、太陽のちょうど左と右だけ、スポット状に明るく光ることがあります。これは「幻日(げんじつ)」という現象。夕暮れ時に、夕日の横に別に太陽があるかのように、光が目立つこともあります。この写真のように、両側には現れず片側だけ幻日が現れることも多いですが、条件が整った時には、まるで3つも太陽が並ぶような不思議な光景になります。偶然見つけると、しばらく眺め続けていたくなるような、幻想的な雰囲気に包まれたりもするのです。

■ 朝夕が狙い目! 太陽の上に「環天頂アーク」

環天頂アーク、2007.3.17大阪市内。頭上高くに鮮やかな七色の弧が出現した。
環天頂アーク、2007.3.17大阪市内。頭上高くに鮮やかな七色の弧が出現した。

太陽の上、視角46度くらいの所に現れるのが「環天頂アーク(天頂環)」です。朝方や夕暮れ時に、虹のアーチを上下逆さまにひっくり返したような、七色の弧を見つけられることがあります。

私の経験からすると、秋~冬~春にかけてを中心に、時々見られるような印象です。環水平アークよりは頻度が多く現れると感じますが、七色の鮮やかさは負けていません。太陽よりも高い位置にあるので気づかれにくいのかもしれないですが、ビルなどで空が狭い都会でも頭上を見上げれば、建物などに邪魔されることなく見つけられることもある現象。ぜひ、探してみてください。

■ 薄雲の広がる日は要チェック!

こうした美しい「空の芸術作品」は、気象状況としては、陽射しが遮られることはない程度で、「薄雲」が広がる時がチャンスです。実は、「環水平アーク」や「環天頂アーク」など太陽の周りに大気光象が現れる際には、空に広がる薄雲が不可欠なのです。

薄雲は、無数の氷の粒によって作られています。この氷の粒を太陽の光が通過する際に反射・屈折をして七色に分かれるために、こうした美しい現象が出現します。薄雲が広がればいつでもというわけではないのですが、条件が整った場合には、色鮮やかな現象が姿を現します。いわば、太陽の光は「絵筆」、薄雲は「キャンバス」として、大空に美しい芸術作品が作られることがあるのです。

上記の現象の発生位置を示した模式図。薄雲の広がる日は、この位置を探して。
上記の現象の発生位置を示した模式図。薄雲の広がる日は、この位置を探して。

また、光学的に出現する位置が決まっていますので、薄雲が広がる日にこうした現象を探す際には、この場所を狙って「何かないかな?」と目を凝らしてみると良いと思います。ただ、太陽がすぐ近くにありますので、目を傷めることがないよう、太陽を直視しないように気を付けましょう。道路標識や街灯などの影に入って、太陽を隠すようにして観察するのもひとつの手です。

また、写真を撮る際にもファインダーを直接は覗かずに、できれば液晶モニタを活用するようにしましょう。なお、高性能な一眼レフカメラなどでは一層鮮明に写りますが、経験的に、スマートフォンなど携帯電話のカメラでも十分に綺麗に撮影できると思います。光や薄雲の加減で現象がすぐに消えてしまうこともありますから、写真に収めたいという方はできるだけ早くカメラを向けたほうが良いかもしれません。

■ (番外編) 雲を見下ろす時も…!

飛行機で移動する時には、私は必ずと言っていいほど窓際の席を指定します。仕事柄、空を見るのが楽しいのも理由のひとつですすが、機内では、意外と眼下の様子をチラチラと見ています。

光輪、2013.7.20関空~仙台の飛行機内にて。鮮明な機影と光輪が現れました。
光輪、2013.7.20関空~仙台の飛行機内にて。鮮明な機影と光輪が現れました。

飛行機の下に雲が広がっている際には、自分が乗る機体の影が雲に映ることがあり、その周りに七色の輪が現れることもあるのです。これは「光輪」と呼ばれる現象です。飛行機が着陸態勢に入り、雲が機体に近づいてきた時に見られることが多いように感じます。

なお、飛行中の機内ではデジタルカメラなど電子機器の使用が制限されている場合もありますから、写真撮影の際には十分に気をつけましょう(昔ながらの「使い捨てカメラ」をひとつ持って搭乗するのが、撮影のチャンスを逃さない、私なりのコツです)。

【参考文献】

空の色と光の図鑑:斎藤文一(文)、武田康男(写真),草思社,1995

空の虹色ハンドブック:池田圭一・服部貴昭(著)、岩槻秀明(監修),文一総合出版,2013

(特に「空の虹色ハンドブック」は携帯しやすいブックレットで、鞄に入れていても邪魔にならず、すぐに現象を確認できます。今回紹介した以外にも様々な「芸術作品」があって、これらの書籍で詳しく紹介されていますのでオススメです。)

【関連記事】

2014年5月4日 「晴れてるのに虹?と大阪で多数ツイート。」 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140504-00000012-wordleaf-l27

気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士

1981年埼玉県生まれ。幼少時の夢は「天気予報のおじさん」で、19歳で気象予報士を取得。日本気象協会に入社後は営業・予測・解説など幅広く従事し、2008年にウェザーマップへ移籍した。関西テレビで2005年から気象解説を担当し約20年。newsランナー/旬感LIVEとれたてっ!/よ~いドン!/ドっとコネクトに出演中。平時は楽しく、災害時は命を守る解説を心がけ、いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。趣味はアメダス巡り、飛行機、日本酒、プログラミング、阪神戦観戦、囲碁、マラソンなど。(一社)ADI災害研究所理事、大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」、航空通信士、航空無線通信士。

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