元祖の口溶けは上質なシルクの如し「羽二重餅」の神髄を福井県は松岡軒の変わらぬ技法で噛みしめる
福井県のグルメといえば…越前ガニ、せいこガニ!と、真っ先に大人はひらめくかもしれませんね。晩秋から春先にかけて、観光ツアーや旅番組でも取り上げられることが高いグルメではございますが、和菓子ソムリエの私としては通年を通しておすすめしたい銘菓があります。それは、「羽二重餅」。
もともと羽二重餅の羽二重とは、平織りの高級な織物のこと。農家の方々の作業が落ち着く冬場に副業として行っていたとも。主に海外へ向けて製造・輸出されたその高級な絹はなかなか庶民の目に触れることはなかったのですが、とある織物屋出身の方が和菓子屋を創業したことから歴史は大きく動きます。
創業明治30年、福井県の老舗和菓子屋「松岡軒」さんが明治38年に発売した名物の羽二重餅は、その独特かつ繊細な手触りと食感、そして味わいから人気を博し名物に。
今回は、羽二重餅の発祥、そして元祖と呼ばれる松岡軒さんの「羽二重餅」をご紹介。
真珠のようなやや温もりを感じられるような白色のフォルム。ひとつのトレーにお餅ひとつではなく、3ミリ程の羽二重餅が2枚はいっています。材料は非常にシンプルで、お砂糖・餅粉・水飴のみ。表記を見てみると添加物等は一切なく、それでこの羽二重という何相応しい上質な絹のような食感と口溶けになるのかと驚くばかり。その秘密はいくつかあるのですが、餅粉に使用される糯米をブレンドしているということろではないでしょうか。
京都丹波は亀岡産の糯米と、松岡軒さんがお店を構える福井県の餅粉を独自に掛け合わせているというところ。
ふわふわとした、まさに夢心地のような羽二重餅の食感は、創業者をはじめ先代の方々が受け継ぎながら試行錯誤を繰り返してきた秘伝の配合があってこそ。いずれかの素材が多すぎても少なすぎても成り立たず、また、季節によって微妙な調整を施しているからこそ。まろやかで優しいお米の甘味と、とろりとした伸びの良さは羽衣のように儚く、それでいて安らぎを口の中と心に残していきます。細部まで拘りぬかれたということがストレートに伝わってくる、シンプルゆえに必要とされる技術力を舌で実感。
当初は織物屋さんや商社の方が手土産として購入していったという松岡軒さんの羽二重餅。上質な絹を知り尽くした方々からも愛されるほど、まさに羽二重の如き、元祖といわれている銘菓でした。
華美ではないのに華と品を兼ね備えた、儚げな羽二重餅。それゆえに、お土産としていただいた方の印象にも色濃く残るのではないでしょうか。