【インタビュー後編】アンクル・アシッド&ザ・デッドビーツの奇矯なる世界
2020年3月、初来日公演を行うアンクル・アシッド&ザ・デッドビーツのヴォーカリスト兼ギタリスト、ケヴィン・スターズへのインタビュー後編。前編記事からさらに一歩踏み込んで、その原点にある音楽性、そしてヴィジュアルの志向にまで語ってもらった。
<ポーランド、チェコスロバキアの映画ポスターから影響を受けた>
●アンクル・アシッドの作品はジャケット・アートも個性的で、時にヴィンテージな雰囲気がありますが、どんなヴィジュアル・アートから影響を受けましたか?
昔のポーランドの映画ポスターが好きなんだ。アーティストの名前をどう発音すればいいか判らないけどね(苦笑)。インターネットで幾つも見ることが出来るけど、アメリカやヨーロッパとは異なったデザインが美しいんだ。ソ連のプロパガンダ・ポスターの流れを受け継いでいるのかも知れないけど、チェコスロバキアの映画ポスターもサイケデリックで大好きだよ。アンクル・アシッドのジャケット・アートもシンプルで大胆で、それでいてたくさんの情報を詰めたものにしている。
●アンクル・アシッドの音楽は映画から影響を受けたりしていますか?
うん、俺たちのアルバムは1枚ごとに1編の映画のようなものなんだ。ジャケット・アートはアルバムの中身を伝える、映画のポスターと同じなんだよ。
●『ウェイストランド』はSF的なテーマを持ったアルバムですが、映画から何らかのインスピレーションを得ましたか?
意外と思うかも知れないけど、特にSF映画からの影響はないんだ。もしかしたら『ブレードランナー』『ニューヨーク1997』からは少しだけインスパイアされたかも知れないし、他の映画からも間接的にヒントを得ている可能性もあるけどね。
●『ザ・ナイト・クリーパー』(2015)というアルバム・タイトルはTVシリーズ『事件記者コルチャック/Kolchak: The Night Stalker』(1974 - 1975)を思い出しました。
うーん、タイトルは聞いたことがあるけど、その番組は見たことがないんだ。『ザ・ナイト・クリーパー』というタイトルはタブロイド新聞の見出しみたいな、センセーショナルなものにしたかった。“連続殺人鬼が夜の街をさまよう”...みたいなね。アルバムのストーリーは19世紀の切り裂きジャックみたいな殺人鬼をテーマとしているし、ジャケットも白黒に赤インクを乗せた、タブロイド新聞をイメージしたものなんだ。
●TV番組で影響を受けたものはありますか?
『フォルティ・タワーズ』(1975- 1979)は十代の頃に見て、今でも大好きだよ。史上最高のコメディ番組だと確信している。それがアンクル・アシッドの音楽や歌詞にどの程度影響を与えたかは判らないけど、俺自身のユーモアに対する感性を確立させたことは確かだ。人生何事もシリアスになり過ぎず、笑えることが大事だよ。
●言われてみれば、アルバム『Vol.1』(2010)のジャケット・アートのコラージュがちょっとテリー・ギリアムっぽいと思いました。
うん、確かに『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969- 1974)っぽいかもね(笑)。『Vol.1』のジャケット・アートは、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画のポーランド版ポスターなんだ(注:『めまい』<1958>のもの)。色彩を変えたりして、アレンジしているけどね。現在流通しているCD/LPはきちんと権利関係をクリアしているよ。
●現在アンクル・アシッドは“ライズ・アバヴ・レコーズ”のエース格のバンドですが、レーベルとの関係はどんなものでしょうか?
きわめて良好だよ。リー・ドリアンがやっていたカテドラルや、その前に彼がいたナパーム・デスは大好きだったし、“ライズ・アバヴ”から出たブラッド・セレモニーが素晴らしいバンドだと思った。音楽ビジネスは決して楽ではないけど、頑張って欲しいね。
<W.A.S.P.は素晴らしいメロディ・ライターだ>
●アンクル・アシッドの音楽はヘヴィネスを犠牲にすることなくメロディを前面に出していますが、メロディへのこだわりについて教えて下さい。
アンクル・アシッドの音楽で一番大事なのがメロディだ。常に記憶に残るメロディを書くことを心がけているよ。それを2声のハーモニーで歌うことで、新たな次元に至るんだ。ヘヴィなサウンドとダークな歌詞にソフトなメロディが加わることで、ユニークなアンクル・アシッドの音楽性が生まれると思う。
●あなたが理想とするメロディを書く音楽家は誰でしょうか?
...やはりザ・ビートルズだろうね。彼らの曲を聴くたびに、一体どこからこんなメロディが生まれるんだろう?...と不思議になる。「エリナー・リグビー」のメロディは信じられないほど素晴らしいよ。それとW.A.S.P.は素晴らしいメロディ・ライターだよ。
●...W.A.S.P.ですか!
彼らの名前を挙げると驚かれるけど、ブラッキー・ローレスの曲に深く耳を傾けると、ロイ・オービソンに通じるメロディがあるんだ。1990年代のバラードには2声のハーモニーやコーラスがあって、アンクル・アシッドでやっていることへの影響があると思う。『スティル・ノット・ブラック・イナフ』(1995)の「キープ・ホールディング・オン」はロック史に残る“知られざる名曲”だよ。あの曲をロイ・オービソンが歌っていたら、けっこうなヒットになっていたんじゃないかな(笑)。
●ブラッキー・ローレスと面識はありますか?
2回ぐらい挨拶をした程度だよ。親しい友人というわけではないけど、いつか一緒にやることが出来たら最高だね。
●アンクル・アシッドが結成されたケンブリッジの音楽シーンについて教えて下さい。ケンブリッジ出身のミュージシャンというと、日本ではシド・バレットやニック・ドレイクが有名ですが...。
まあ、他にはあまりいないよね(笑)。ケンブリッジは小さな町だし、そもそも人口が少ないから、仕方ないんだ。それにケンブリッジ大学の学生はあまり外に出てパーティーしないのか、音楽シーンはあまり盛り上がっていない。1960年代のピンク・フロイドにしても、かなりの最初期にケンブリッジを出てロンドンに向かって成功を収めたんだ。
●アンクル・アシッドがアンダーグラウンドのロック・シーンで騒がれるようになったのは、2作目『Blood Lust』(2011)が発表されたときだと記憶しています。当時のバズりぶりをどのように記憶していますか?
不思議だったよ。意味をなさない、シュールな出来事だと感じた。その前に出した『Vol.1』も良いアルバムだと思ったけど、誰も気に留めなかったし、レビューもされなかった。『Blood Lust』も最初は数十枚CD-Rを焼いただけだったんだ。そうしたら突然オンラインでレビューされたりインタビューされて、“ライズ・アバヴ”から契約のオファーがあって...嬉しかったのは、アナログ盤を出してもらったことだね。自分でそんな費用を出すことは不可能だよ。そして気がついたら10年経って、日本でプレイ出来ることになったわけだ。
●あなたはアナログ・レコード派ですか?CD派ですか?
音楽を聴き始めた8歳か9歳の頃は、カセットテープで音楽を聴いていたよ。それからCDを買うようになった。最近ではアナログ盤を買うことが多いね。音も良いしジャケットも大きいし、同じ値段だったらアナログ盤がベストだ。
●それでは日本でのライヴを楽しみにしています!
アンクル・アシッドの旅路は、夢の連続だよ。ブラック・サバスのオープニング・アクトを務めたときもそうだったし、日本に行くのもそうだ。最高のショーを見せるから、みんなパーティーに来て欲しいね。
【UNCLE ACID & THE DEADBEATS Japan Tour 2020】
3月11日(水)東京・渋谷クラブクアトロ
開場18:00/開演19:00
3月12日(木)梅田クラブクアトロ
開場18:00/開演19:00
公演ウェブサイト