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ビル・ネルソン・インタビュー【後編】/SFと宇宙への憧憬、プログレッシヴとの関係、自選ベストまで

山崎智之音楽ライター
Bill Nelson / photo by Martin Bostock

ビー・バップ・デラックスからイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)との交流、多彩かつ多作なソロ・キャリアまでをビル・ネルソンが語る全2回のインタビュー。前編記事に引き続き、今回はその作品からしばしば窺えるSFと宇宙への傾倒、キング・クリムゾンやア・フロック・オブ・シーガルズとの交流、膨大な作品群からビル自身が選ぶオールタイム・ベストなどを訊いてみよう。

Bill Nelson『Powertron』ジャケット(Sonoluxe / 現在発売中)
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<ずっとSFのファンだった>

●“ビル・ネルソン”とGoogleで検索すると、元NASA長官の同名の人物もヒットします。偶然にもあなたの作品にもしばしば宇宙やサイエンス・フィクション的なモチーフが登場しますね。

ああ、同姓同名のビル・ネルソンがいることは知っているよ(笑)。親戚でも何でもないけどね。

●私が初めてビー・バップ・デラックスの存在を認識したのは『ライヴの美学 Live! In The Air Age』(1977)で、ジャケットには映画『メトロポリス』(1927)の人造人間マリアの写真が載っていたのが強く印象に残っています。

『メトロポリス』のスチル写真を5歳ぐらいのときに見て以来、ずっとファンだったんだ。“こども年鑑”とか、そういうのだった。ずっとSFのファンだったね。1950年代、友達が西部劇に夢中になっているときも、私は『フラッシュ・ゴードン』『バック・ロジャース』が大好きだった。いつも親にシリアル映画に連れていってもらって、アメリカの『バットマン』のコミックやパルプ雑誌を買ってもらったよ。親と過ごした避暑地に古本屋があって、昔のアメリカの雑誌がたくさん置いてあったんだ。

Be-Bop Deluxe『Live! In The Air Age』ジャケット(Cherry Red / 現在発売中)
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●アルバム『アトム・ショップ』(1998)ジャケットもアメリカのパルプ雑誌の表紙をモチーフにしたものですが(『Science Fiction Quarterly』誌1952年11月号)、どのようにして選んだのですか?

その雑誌は私がずっと持っていたものだよ。表紙の“ヘルメット・ガール”にインパクトがあって、ずっと記憶に刻まれていたんだ。レトロ・フューチャーな感じでね。SFではレイ・ブラッドベリの小説も好きだったよ。

Bill Nelson『Atom Shop』ジャケット(Discipline Global Mobile / 現在発売中)
Bill Nelson『Atom Shop』ジャケット(Discipline Global Mobile / 現在発売中)

●ビー・バップ・デラックスは1974年から1978年という短い活動期間で、5枚のスタジオ・アルバムと1枚のライヴ・アルバムと決して多くない数の作品を発表しましたが、その音楽は半世紀を経ても愛されています。その理由は何だと思いますか?

何故だろうね(笑)。正しい時期に、正しい場所にいたんだと思う。ビー・バップ・デラックスでやった音楽は誇りにしているけど、あまり過去を振り返ることがないんだ。最近のアルバムにしても、完成させたら聴き返すことはほぼないしね。私はノスタルジックな人間だけど、自分の音楽に対してはそうではないんだよ。

●そんなあなたが過去を振り返った珍しい例として、ソロ・デビュー作『Northern Dream』(1971)の続編『New Northern Dream』(2017)があります。どんな意図があったのですか?

当時の曲を再解釈して、モダンなアレンジをしてみたらどうだろう?と考えたんだ(「Photograph」「Northern Dreamer」など)。もう50年ぐらい前の、自分が初めて書いた曲だし、そんな無垢なところに魅力を感じる。それを今の自分がやったらどうなるかの試みだった。面白そうだったら、過去を振り返ることに抵抗はないんだ。そうすることが自分の未来を築くんだからね。

Bill Nelson / photo by Martin Bostock
Bill Nelson / photo by Martin Bostock

<自分の音楽は“思想のフュージョン”>

●あなたは自主レーベル“コクトー・レコーズ”を運営してきましたが、ア・フロック・オブ・シーガルズのデビュー・シングル『Talking』(1981)をリリースしたのはどんな経緯があったのですか?あなたとは音楽性が異なるようにも思えますが...。

彼らのマネージャーだった2人の人物が、その前にビー・バップ・デラックスのローディーだったんだ。「リヴァプール出身の良いバンドがいるんだけど、聴いてみてくれない?出来たら“コクトー”から出して欲しい」と言われて、良い曲だと思ったんで、リーズのスタジオでシングルをレコーディングした。それをDJのジョン・ピールが気に入って、彼のラジオ・ショーで流して、メジャーのレコード会社と契約したんだよ。

●彼らは後に「アイ・ラン」「ウィッシング」などがMTVでヘヴィ・エアプレイされ、アメリカ市場で爆発的なヒットを記録しますが、それは予想出来ましたか?

彼らはコマーシャル性のある曲を書いて、付き合いやすい人々で、仕事もやりやすかった。だから成功を収めたことに驚きはなかったよ。でも、あれほどのヒットになるとは、誰にも予想不能だろう。私も驚いた。ただ、彼らが“コクトー”に留まらなかったことにガッカリはしなかった。“コクトー”は主に私の作品を出すためと若手のショーケースとして作ったインディペンデント・レーベルで、世界規模でプロモーションする機能はなかったしね。彼らが成功して純粋に嬉しかったよ。

●あなたはソロ作品の多くを自らの“コクトー・レコーズ”からリリースしてきましたが、『アトム・ショップ』はロバート・フリップが主催する“ディシプリン・グローバル・モバイル”レーベルから発売となりました。ロバートとは交流があったのですか?

ロバートと初めて会ったのはキング・クリムゾンのロンドン“ザ・ヴェニュー”でのライヴだった(1981年)。当時のマネージャーが彼を知っていて、バックステージに連れていってくれたんだ。そのとき挨拶はしたけど特に進展はなかった。彼も私もデヴィッド・シルヴィアンの『ゴーン・トゥ・アース』に参加して、間接的な接点はあったんだけどね。その後、私のマネージャーになった人がデヴィッドのマネージャーもやっていて、私もシルヴィアン/フリップのライヴを見に行ったりした。それでロバートとも話すようになったんだ。インターネットを積極的に活用するように勧めてくれたのは彼だったよ。

●...あなたもいずれ奥様とYouTubeのウェブ番組をやることになるでしょうか?

いや、それはないだろうな(笑)。ロバートがトーヤとやっているのはすごく面白いと思うけど、私はやらないし、出来ないと思う。

●ロバートと会う前、キング・クリムゾンの音楽は聴いていましたか?

『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)は出た当時、買って聴いたよ。凄いアルバムだと思った。でも、その後のアルバムは聴いていなかった。雑誌などで記事は読んでいたけど...プログレッシヴ・ロックというものが音楽よりスポーツ競技みたいな気がして、距離を置いていたんだ。時に私自身の音楽も“プログレッシヴ”と呼ばれることもあるけど、超高速でスケールを弾くことには興味がなかった。どのジャンルにも自分が属しているとは考えていなかったんだ。

●あなたはキャリアを通じてプログレッシヴ、パンク、グラム、ニュー・ロマンティクスなど、さまざまな表現をされてきましたね。

それらの要素はすべてあったと思うけど、どれも自分の一部だった。今やっている音楽はそれらすべての集合体であって、同時にどれでもない音楽だ。言ってみれば“思想のフュージョン”という感じかな。

●あなたは膨大な数の作品を発表してきましたが、正確には何枚のアルバムを発表していますか?

...判らない。100枚は超えていると思うけど、もう何十年も前に数えるのを止めてしまったよ。私にとって大事なのは売れる作品を出すことではなく、自分のアート・フォームを表現することなんだ。

●答えるのが不可能な質問であることは承知しているのですが、ビル・ネルソンの音楽の世界に入門しようという初心者リスナーがまず聴くべき5枚のアルバムを挙げていただけますか?

うーん、初心者向きかは判らないけど、

- 『The Alchemical Adventures of Sailor Bill』(2005)

- 『Return To Jazz Of Lights』(2006)

- 『Rosewood』二部作(2005)

- 『Golden Melodies Of Tomorrow』(2008)

あたりは良い作品だと思う。それらを聴いてみて、気に入ったものがあったら他にも訊いてみると良いんじゃないかな。

●ビー・バップ・デラックスの作品でオススメは?

私自身は当時のレコードはずっと聴いていないけど、一番ポピュラーなのは『炎の世界 Sunburst Finish』(1976)みたいだし、入門編に良いかも知れないね。あとレッド・ノイズの『触れないで! 僕はエレクトリック Sound On Sound』(1979)も人気があるみたいだ。リリース当時はラディカルだと言われたものだけど、現代のリスナーには楽しめるのかも知れない。

●予定されているニュー・アルバム『Guitars Of Tomorrow』と『Fables Of The Future』は完成しましたか?

あと少しで完成するよ。『Guitars Of Tomorrow』は3枚の独立したアルバムになる予定なんだ。膨大な数の曲のストックがあるけど、まだいくつもアイディアが湧いてくるし、どの曲をどのアルバムに入れるか、曲順をどうするか、あとアートワークやブックレットなどで頭を悩ませているところだ。『Fables Of The Future』はヴォーカル入りの曲中心のアルバムなんだ。私のアルバムでは比較的聴きやすい部類に入ると思う。私は常に新しいプロジェクトにエキサイトしているんだ。それに2016年から2020年にかけて書き溜めた曲をアルバムにするつもりだし、けっこう忙しいんだよ。CDやLPをプレスしたり時間がかかることはあるけど、いろんな作品を発表していくつもりだ。


【公式ウェブサイト】
https://www.billnelson.com/

【公式Bandcamp】
https://billnelson.bandcamp.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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