AI人形に恋する人の目を覚まさせてくれるIBMの特許
AIテクノロジーの進化により、あたかも生きているような会話や動作を行なえる人形が増えていくでしょう。それ自体は楽しいことですが、あまりにものめり込みすぎることで精神的な問題を発生するケースも増えそうです。そのような問題を解決するための特許をIBMが取得しました(先に書いておきますがそれほどすごい話ではないので、小ネタとしてお楽しみください)。
特許番号は、US10441892号、発明の名称は"Pseudo-sentient doll override system, method, and recording medium for pseudo-sentient doll override"(疑似意識を持つ人形のオーバライドのためのシステム、方法、プログラム記憶媒体)、登録日は2019年10月15日、出願日は2016年7月28日です。
背景技術にはおおよそ以下のような内容が書かれています。
企業がAIを活用して構築した新世代の人形がより人間に近づき、スマートで、対話型になっている。これにより、子供は人形が生きているかのような感触を得る。人形が生きていると感じることによる健康上のリスクがあるとの研究結果がある。そして、無生物が生きていると感じてしまうのは子供に限った現象ではない。
この問題を解決するための発明はシンプルで、人形とユーザー間の対話レベルを表情の画像認識、音声認識等で常時監視し、「一線を超えた」(ユーザーが人形に意識があると感じている)と判断された場合には、電気粘性(エレクトロレオロジー)流体の制御により人形の体を硬直させるというものです。
クレーム1の内容は以下のとおりです。
(大雑把訳)
ユーザーと人形の対話レベルを監視し、人形に意識があるレベルに達しているかを判断する回路と、
一連のルールに対応した対話レベルに基づきユーザーにリマインダーを出す回路と、
電気粘性流体の制御回路を含み、
当該リマインダーは、電気粘性流体により人形を硬直させることを含む、
疑似意識を持つ人形のオーバーライドシステム。
明細書の詳細な説明の方に具体的な実装例があまり書かれていないので、日本ですと記載不備を問われそうな感じですが、米国だとこれで通ってしまうのですね。
AIに対して人間的感情を持ってしまうことで、精神的な問題に発展するケースは今後増えそうです(現在でも起きているでしょう)が、別に人形の体を硬直させるまでもなく、対話の方法や音声メッセージで知らせればよい話なので、あまり価値がある特許とは言えないのではないかと思います(出願時はもっと範囲が広かったのですが拒絶理由に対応してものすごく狭い範囲の特許になってしまいました)。
如何にも個人発明家が思いついて自分で出願してそうな発明ですが、IBMが出願人である点が興味深いと言えましょう。
追記:AI美空ひばりについて書いた別記事において、故人のAIによる再現に関する倫理的な議論が必要ではと書いたのですが、よく考えてみれば、この点はこの記事にも当てはまるわけであって、無生物を生物であるかのように振る舞わせるAIへの一定の規制も将来的には必要なのかもしれないと思ったりしました。