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朝ドラ“ヒットの法則”を踏襲する「べっぴんさん」

碓井広義メディア文化評論家

NHK朝ドラ「べっぴんさん」について、週刊誌の取材を受けました。

第1週が終わったばかりではありますが、リクエストが「ファーストインプレッション(第一印象)は?」ということでしたので、ざっと以下のようなお話をさせていただきました。

記事の中に織り込まれるのは、たぶん超ダイジェストの数行かと思いますので、アウトラインを記録として記しておきます。

(1)朝ドラ「ヒットの法則」の踏襲

最近の朝ドラで支持を受けた作品には、「ヒットの法則」ともいうべき、いくつかの共通点がある。それは、「女性の一代記」、「職業ドラマ」、「成長物語」、そして「実在の人物」だ。

「あまちゃん」のように、ある時期に限定した物語ではなく、幼少時から成人、さらに中高年へと至る半生を描いたもので、ヒロインは職業を持ち、自立へと向かって成長していく。しかも、それが実在の人物というのがヒットパターンになっている。

思い出すままに並べれば、「カーネーション」(デザイナーのコシノ3姉妹の母)、「花子とアン」(翻訳家・村岡花子)、「マッサン」(ニッカウヰスキーの竹鶴政孝夫妻)、「あさが来た」(実業家・広岡浅子)、「とと姉ちゃん」(「暮しの手帖」の大橋鎭子)、今回の「べっぴんさん」(子ども服「ファミリア」の坂野惇子)だ。

さらに言えば、坂野惇子(ばんの あつこ)さんは、単なる「実在の人物」ではなく、「女性実業家」であり、「女性創業者」である。その点は、「あさが来た」や「とと姉ちゃん」と共通している。いや、踏襲している。視聴者は、困難な時代に、誰もやっていない事業にチャレンジする女性の姿に、拍手を送りたくなるのだ。

(2)時代背景~「戦争」と「戦後」

上記の作品の多くが、「昭和」前期を主な背景としている。朝ドラの視聴者層の大票田は女性であり、ご高齢の方々もたくさんいる。戦中から戦後という激動の時代は、自分史と重ねながら、感情移入しながら見てもらえるという意味で貴重なのだ。

特に「戦争」は、物語の中の大きな要素であり、ヒロインが昭和20年以降の「戦後」を生きる姿も、多くの視聴者の共感を呼んできた。

「べっぴんさん」では、主人公の坂東すみれを、1925(大正14)年生まれとしている。モデルの坂野惇子さんは1918(大正7)年の生まれだから、7歳若くしているわけだ。

それは、この年の生まれとすることで、年齢が昭和の年号と重なってくる(三島由紀夫と同じですね)からだろう。ドラマの第1回は昭和20年の敗戦から始まっていたが、この時、赤ちゃんを背負ったすみれは20歳だ。

同じ1回目で、子供服メーカーである会社の創業20周年パーティーが行われており、それは昭和44年で、すみれは44歳になっていた。また先週末、昭和17年には、すみれは17歳の女学生だった。つまり、時代背景やその推移と本人の関係がわかりやすく、成長や変化がイメージしやすいのだ。

(3)人物造形~「坂東すみれ」と「芳根京子」

スタート直後、まずは主人公を知ってもらい、馴染んでもらい、できれば応援してもらえるよう努めることが重要だ。

子役の渡邉このみさんは、少し引っ込み思案だけれど、じっくりものを考える少女を、生き生きと演じていた。また、「想いをこめる」という、このドラマのキーワードを視聴者に浸透させる役割も果たしていた。

実際の坂野惇子さんの母親は長寿だったようだが、ドラマのすみれは、母(菅野美穂)を9歳で失うことになる。これは、早くに父を亡くした「とと姉ちゃん」に準じた設定であり、視聴者にヒロインを応援してもらうための一策となっている。

また、「とと姉ちゃん」では、第1週は子役の内田未来さんが受け持ち、高畑充希さんの登板は第2週からだった。

しかし、「べっぴんさん」は、第1週の終わりに、早くも17歳の女学生になった芳根京子さんが現われた。主演女優、前倒しの登場である。

芳根さんは、昨年の『表参道高校合唱部!』(TBS系)などで主演を務めてきた。以前この欄でも書いたが、連ドラ初主演の『表参道』を見て、そのポテンシャルの高さに驚いた。ヒロイン生来の明るさや意志の強さだけでなく、感情の細やかさまで表現していたからだ。何より、表面的な美少女ではなく、地に足のついた骨太な少女像を体現している点に注目した。

とはいえ、ここ数年の朝ドラ女優である尾野真千子さん、吉高由里子さん、高畑充希さんなどと比べたら、まだまだ“新人”に近い。早めに顔と名前を覚えてもらうという意味でも、第1週からの“顔見せ”は有効な措置だった。

同時に、女学校の廊下で、後に子供服メーカーを一緒に起業する「仲間」たち(「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子さんなど)の姿も見せている。全体の進行が、かなりスピーディーなのだ。

これらは、最近の視聴者の、ドラマに対する“取捨選択”の判断が、以前よりも短期間に行われることへの対策だろう。主要な登場人物たちを早めに披露することで、視る側の関心度を高めていこうというわけだ。

・・・全体として、前2作の「いいとこ取り」を狙ったことも功を奏し、半年付き合うに値する期待感がある、というのが取材を受けての結論でした。

さて、今週(第2週)からは、戦争の影が一層濃くなっていくはずで、ヒロインたちが、それとどう向き合っていくのか。引き続き、視聴させていただきます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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