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ホンダ新型NSXプロトタイプを体感する。【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

新型NSXコンセプトが最高にクールなのは、電気自動車よろしく無音でスルスルと走り出すところだ。

映像をご覧になってお分かりの通り、どこからみてもスーパーカー。なのに爆音とは無縁どころか無音で走り出すそのギャップの大きさが、たまらなくカッコ良いと思えたし、このクルマの最も未来的なところだと感じる。しかも、アクセルを強く踏み込まなければ、それこそ日常で使う速度域までEV走行し続ける。

ホンダの新型NSXのプロトタイプに、ついに触れることができた。僕は先代NSXを2台乗り継いだ元オーナーだけに、余計に感慨深かった。それまで1991年から15年に渡って作り続けられてきた“日本のスーパーカー”は、2005年に苦渋の決断でいちどその歴史に幕を閉じた経緯がある。それから10年を経て、ついに新型が佇んでいるのを目の前にすると、最近何かとイマイチなホンダを忘れても良いようにすら思えてくるほどだ。

しかし新型NSXに、ノスタルジックな部分は皆無だ。いや正確にいえば、その中身にはまだ僕の知らない先代を想わせる何かがあるのかもしれない。けれど目に見えるものは完全に、新世代のスーパースポーツカーのそれだ。もっとも嫌味を書いておけば、もう世界中のモーターショーで何度も展示されてきただけに見慣れて(見飽きて?)おり、新車とは思えない感覚もどこかにあるのだが。

だが見慣れたとはいえ迫力があることに間違いはない。新型NSXのデザインは現在のアキュラ(ホンダがアメリカ展開する高級車ブランド)で展開される流れの中にある。フロント・マスクから始まる顔つき、ところどころにエッジを持ちながらも有機的な感覚も含むキャラクターラインの構成。またインテリアでは、センターコンソールにおかれるシフトボタンが、RLX(日本でいうレジェンド)等と同じものとされている。このためデザインのテイストは、アメリカ的未来感の漂うものとなっている。いかにもハリウッド映画に登場しそうな未来のスーパースポーツだ。

今回が初試乗となるが、残念ながら試乗は高速周回路のみ。そして周回数はわずかに2周。カーブでのハンドリング等を試すようなコースはない。つまり今回はその動力性能を始めとしたパワートレーンの実力を確かめよ、というような意味合いなのだろう。

スルスルと走り出したNSXだが、高速周回路に合流するためにアクセルを踏み込むと、V6直噴ツインターボ・エンジンが目を覚ます。さらに強く踏み込むと、フロントの2つのモーター(左右で計72ps)とエンジンに直結した3つめのモーター(47ps)とエンジン(500ps)の力によって、スーパースポーツらしい痛快な加速が始まる。システム合計出力は573psで、0−100km/h加速は3秒台を実現する。最高速は307km/hという(数値はアキュラのもの)。

ただ、体感としては思ったほど衝撃的な感じはない。むしろ、そうした性能を考えると、体感は意外とアッサリとしているな、とすら思う。というのも運転席で味わうその加速を含めたドライビング感覚は、外から見た迫力あるスーパースポーツから想像するのとは少し異なる。もっと小さくて軽いクルマを運転しているような感覚さえ漂っている。エンジンサウンドも、最近のスーパースポーツのようにやたらやかましい下品な感じはなくて好ましい。聞けばエンジンが発する音を、なるべくリアルに響かせているという。だから取り立てて驚くような音でもないが、もちろんそれなりにボリュームは大きめだ。

そして加速の感じも、うまく表現できないが、巨大な力がガツン! と来て圧倒的な加速を生み出す従来のスーパースポーツとは少し異なる。フロントの左右それぞれに与えた2つのモーターと、ドライバー後方に搭載される3.5LのV6直噴ツインターボとそこに直結されるモーター、そして9速DCTという、まさに未来のスーパースポーツに相応しいメカニズムの組み合わせで実現したスポーツハイブリッドだからだろう、いかにも効率的に速い、という感じなのだ。

だからアッという間にスピードメーターは200km/h…には届かず、190km/hの数字を見たあたりでスピードリミッターが効いてしまった。今回の試乗はテストコースとはいえ、最高速等も試すことはできない。お楽しみはまだ先に、ということなのだろう。

こんな具合で本当に今回の試乗は限定的だが、とにかく良い意味で軽い感覚が印象的だった。いや、車両重量は1700kg台だから決して軽くはないし、カーブを曲がったら重量を感じるかもしれない。が、そうした重さの話ではなく、加速の感覚が良い意味で軽やかなのだ。

高速周回路は文字通り高い速度を許容する場所であるため、180km/h程度の走行は環境的にもなんら問題はないし、ハンドルをそれほど切らず走っているだけなので、今回は新型NSXの実力の片鱗を見せたに過ぎない、という感じだろう。

試しに直線区間で確かめる程度にスラロームを行ってみたが、クルマの動き自体は実に素直な感じ、というくらいしかお伝えすることがない。ハンドルそのものから伝わる感触に、やや渋い重みがわずかに感じられたものの、この辺りはまだ改善されていくポイントらしい。とはいえ、相当意のままに動きそうだな、という予感はあった。

また試乗前に説明を聞いた限りでは、新型NSXは加速や最高速といった速さよりもむしろ、曲がること=ハンドリングに相当のこだわりがあるようだった。特にフロントには左右2つのモーターが備わっており、これらを電子制御で自在に動かすことによって異次元のコーナリングを実現しているようだ。そしてこの辺りに、新世代のホンダNSX「らしさ」が隠れているような予感がする。

正直今回、新型NSXの印象はかなりアッサリとした印象だった。それはもちろん。ハンドルをたくさん操作してクルマが連続的に運動していくような様は体験できず限定的な試乗でしかなかったことが大きいのだろう。やはりクルマは走る曲がる止まるの全てを体感できなければ「味わう」ことができないわけだ。

ただ、限定的な状況の中でも、僕はその立ち居振る舞いをして、クールでカッコいいスーパースポーツだとは思った。そう、最初に述べた、無音で走り出すスーパースポーツカーとしての姿だ。

それを思うと次回、走らせてそのハンドリングを感じとれる機会には、また何か新たな時代を感じさせるようなフィーリングがあるのかもしれない、と期待できる。かつてのNSXは、走りのフィーリングに関しては世界の名車と比べても遜色ないどころか、一部は群を抜いている部分がある上に、走りの感触にきめ細やかな味わいがあり確かに”本物”だった。

では、果たして新型を本格的に走らせた時、何を感じさせてくれるのか? 僕としては是非とも、ホンダならではの新しい味わいをもたらして欲しいと願うのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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