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北京ダックは皮だけを食べて残りは捨てる? まるごと楽しめるのはあの名店

東龍グルメジャーナリスト
北京ダック(ウェスティンホテル東京)/著者撮影

高級な中国料理

高級な中国料理といえば、何を思い浮かべますか。

フカヒレの姿煮や干し鮑のステーキ、ツバメの巣のスープや上海蟹の姿蒸しなど、たくさんありますが、日本では北京ダックを挙げる人が多いのではないかと思います。

なぜならば、北京ダックは切り分けるパフォーマンスが派手で印象的であり、日本で最も人気のある料理のひとつだからです。

ただ実をいうと、この北京ダックは中国ではそれほど高級な料理ではありません。南京から渡ってきた料理を原型としており、「北京●鴨(ベイジンカオヤー、●は「火」に「考」)」と呼ばれ、気軽に楽しめる料理なのです。

北京ダックとは

北京ダックについて改めて説明しましょう。

北京ダックに使われるのは、普通のアヒルではありません。あまり運動させず、栄養価の高い飼料で育てたアヒルです。

このアヒルをまるごと窯で炙ってパリパリに焼き、客の目の前でカットします。そして「薄餅(パオビン)」と呼ばれる小麦粉で作られた皮に、ネギやキュウリや甜麺醤と共に包んで完成。

日本では、皮だけを切って食べるイメージが強いですが、これも中国とは少し違います。広東では皮だけをカットして食べますが、北京では皮と一緒に肉もカットして食べるのです。

残った北京ダックの活用

皮と一緒に肉を食べることがあるといっても、北京ダックの身がかなり残ってしまうことは想像に難くありません。

残った北京ダックはどうするのかという疑問はよく寄せられます。

しかし、追加料金を出せば残りの肉を調理してもらえたり、他の料理に流用されたりするので、残りを捨てるという無駄なことは行われていません。

「まるごと北京ダックフェア」の開催

ただ、無駄にしていないといっても、日本で北京ダックをまるごと楽しめるようなレストランは少ないです。

そういった状況にあって、特筆するべきなのが、中国料理の名門であるウェスティンホテル東京「龍天門」。広東料理を30年以上も追求してきた和栗邦彦氏が総料理長を務めています。

この「龍天門」で2020年9月1日から29日にかけて「まるごと北京ダックフェア」が行われているのです。

北京ダックは「龍天門」の看板メニューのひとつですが、香ばしい皮だけではなく、肉をスパイス揚げにしたり、骨から丁寧に出汁をとってスープに作り上げたりして、北京ダックをまるごと体験できるようになっています。

「まるごと北京ダックフェア」のコース内容

「まるごと北京ダックフェア」のコース内容は次の通り。

まるごと北京ダックフェア

  • アミューズ
  • 北京ダック
  • 鮑と帆立貝の天然塩炒め
  • 鴨で出汁を取ったクレソンと干し椎茸のスープ
  • 鴨肉のスパイス揚げ
  • 海老のチリソース煮とオーロラソース和え
  • あんかけ炒飯 福建スタイル
  • 本日のデザート

「北京ダック」はメニュー名そのままなので、わかりやすいですが、他のメニューでも北京ダックがふんだんに使われています。

「アミューズ」にはアヒルが使われており、「鴨で出汁を取ったクレソンと干し椎茸のスープ」には北京ダックの骨、「鴨肉のスパイス揚げ」には北京ダックの肉が用いられているのです。

北京ダックが使われていない料理は「鮑と帆立貝の天然塩炒め」「海老のチリソース煮とオーロラソース和え」という2つの海鮮料理だけ。

デザートにも北京ダックは使われていませんが、ちょっとしたサプライズが演出されています。

では、それぞれのメニューを詳しく紹介していきましょう。

アミューズ

アミューズ/著者撮影
アミューズ/著者撮影

中国料理の最初のメニューは、冷菜や焼き物の盛り合わせが一般的ですが、「まるごと北京ダックフェア」コースでは3種類のアヒル料理の盛り合わせから。

右は生春巻。水菜、赤ピーマン、青ピーマン、ローストしたアヒルを巻き、スイートチリでいただきます。手前の2層になったものは、上がソラマメ、下がカボチャとシェンタン(アヒルの塩漬け卵)。左がアヒルの舌の醤油とスパイス煮で、下の太い部分だけを食べます。手で持って食べるのでフィンガーボールも。

アヒルの様々な部位を味わえるので、この後に続く北京ダックへの期待感を高めることでしょう。

北京ダック

北京ダックの切り分け/著者撮影
北京ダックの切り分け/著者撮影

皮と一緒に肉も切り分けるスタイル。全てオリジナルで、北京ダックを包む薄餅も自家製です。やや薄いので皮のパリパリがしっかりと感じられますが、モチモチしているので心地よい弾力も感じられます。

北京ダック/著者撮影
北京ダック/著者撮影

北京ダックはお酢と麦芽糖をかけて一晩干し、2時間かけて専用の窯で焼いているので、旨味も増加。4人までは半身、5人以上はまるごと1羽を提供しています。

鮑と帆立貝の天然塩炒め

鮑と帆立貝の天然塩炒め/著者撮影
鮑と帆立貝の天然塩炒め/著者撮影

脂がおいしい北京ダックの後には、中国料理の定番である海鮮の塩炒めでさっぱりとさせます。アワビとホタテを、黄色ニンジンや中国野菜のカイランと共にさっと炒めました。

鴨で出汁を取ったクレソンと干し椎茸のスープ

鴨で出汁を取ったクレソンと干し椎茸のスープ/著者撮影
鴨で出汁を取ったクレソンと干し椎茸のスープ/著者撮影

鴨の骨から臭みをとるためにローストしてから6時間かけて蒸し、そこから出汁をとっています。国産の干しシイタケとクレソンを合わせて作った澄んだ清湯スープ。

和栗氏は「中国料理はとろみのあるスープがイメージされがちだが、澄んだスープもおいしいのでご提供したかった」と述べます。

鴨肉のスパイス揚げ

鴨肉のスパイス揚げ/著者撮影
鴨肉のスパイス揚げ/著者撮影

蟹のスパイス揚げをイメージして生み出された料理。鴨の胸肉と腿肉をフライドガーリックと生のガーリック、トウチ、唐辛子と一緒にからめました。塩と五香粉で味のメリハリをつけ、アスパラガスを添えています。

鴨肉は鉄分に溢れていますが、揚げてあるので食べやすくなっており、胸肉と腿肉の食べ比べも興味深いです。

海老のチリソース煮とオーロラソース和え

海老のチリソース煮とオーロラソース和え/著者撮影
海老のチリソース煮とオーロラソース和え/著者撮影

海老はチリソースとマヨネーズソースの2種類があり、真ん中にはバラの形をした揚げパン。チリソースはシンガポールのチリクラブをイメージし、酸味を強くして軽やかな後口にしました。

和栗氏は「海鮮料理を2皿くらい続けたかったが、それだと重たくなってしまう。1皿にするかわりに2種類の海老料理にした」と説明します。

あんかけ炒飯 福建スタイル

あんかけ炒飯 福建スタイル/著者撮影
あんかけ炒飯 福建スタイル/著者撮影

北京ダックの余った肉をふんだんに用いた炒飯。タイ米を用いているのでパラパラしていますが、たっぷりのあんがかけられているので、しっとりさとのハーモニーも味わえます。あんには北京ダックのジュも加えられているので、肉との相性もよいです。

本日のデザート

本日のデザート/著者撮影
本日のデザート/著者撮影

最後のデザートは3種類。上から順番に反時計回りで説明します。

上は、台湾で人気の桃の樹液のゼリーが載せられたマンゴープリン。次は干し龍眼を加えた紹興酒のアイスクリームです。そして、右下は鴨の形をした可愛らしいパイで、中はメリハリのある塩卵と蓮のあん。

開催された背景

「龍天門」で「まるごと北京ダックフェア」が行われるのは、和栗氏が料理長に就任した2018年に続いて、今回で2回目。

開催されるに至った理由は何でしょうか。

和栗氏は「日本では北京ダックは皮だけを食べるというイメージがあるが、本場ではそれ以外の部位もしっかりと食べられる。そのことを知っていただくと同時に、本場の北京ダックの魅力をお伝えしたかった。中国では北京ダックを使った料理は多いが、日本では非常に少ないので、おいしさを知っていただけたら嬉しい」と回答。

前回との違いについては「より本場の料理に近付けており、全体的に新しくなっている。2019年12月から試作を始め、3月に完成させた自信作」と力を込めます。

本来であれば4月16日から開催されるはずでしたが、新型コロナウイルスの影響もあり、開始が遅れました。

特にこだわっているのは、やはり「北京ダック」です。「通常の北京ダックよりも手間暇掛けて臭みを抜いたりして、工程に時間を要している」と説明。

「北京ダックの肉に関しては、形のよいところはスパイス揚げにし、それ以外は炒飯に使うなど、無駄なく利用している。食品ロス削減やサステナブルな観点も意識していきたい」と語ります。

「まるごと北京ダックフェア」は来年も開催

北京ダックはどのように食べるのが最もおいしいかと尋ねると、和栗氏は「できたてを食べるのが最もおいしい。色々な調理方法で楽しむのもお勧め。広東料理は調味料も調理方法も多彩なので、たとえば、北京ダックを味噌ではなく、他の調味料を合わせるのもいいのではないか」と提案。

北京ダックの思い出に関しては「香港に訪れた際に、北京ダックやアヒルの様々な部位が使われているので非常に驚いた。北京ダックのサービスが非常に美しくてスピーディーなことにも感銘を受けた」と述懐します。

和栗氏は来年もまた「まるごと北京ダックフェア」を行うと述べるだけに、どのようにして北京ダックをまるごと味わわせてくれるのか、引き続き楽しみです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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