グリーズマンの表情から笑顔が消えた。決定力を失うエースに、CL敗退危機のアトレティコ。
アトレティコ・マドリーは、死んだも同然だ。そんな声が聞こえてくる。
チャンピオンズリーグ(CL)では、グループステージ残り2試合の時点で、敗退の危機に追い込まれている。リーガエスパニョーラにおいては、首位バルセロナに勝ち点10差の4位に位置。優勝争いにタオルを投げ入れた、とさえ称された。
■シメオネ監督就任前の混沌
アトレティコがディエゴ・シメオネ監督を迎えたのは、2011年12月のことだった。思えば、あの頃クラブは混沌の只中にいた。
コパ・デル・レイでアルバセテ(当時2部B)に敗れて敗退が決定していたチームは、リーガでも降格圏内に4ポイント差と苦戦していた。11年ぶりの2部降格...。その亡霊がアトレティコを襲っていた。
だがシメオネ監督の到着で状況は激変する。指揮官交代後、アトレティコはリーガで9勝7分け5敗と立て直して5位に食い込んだ。そしてヨーロッパリーグ(EL)を制し、戴冠まで成し遂げたのである。
パウロ・フットレ氏はスペイン紙『マルカ』に寄せたコラムでシメオネ監督がアトレティコで3つの偉業を達成したと記している。第一に、負け犬根性なるものに支配されていた選手たちに、勝者の精神性を植え付けたこと。次に、選手たちを団結させたこと。そして、クラブを「売り手」から「買い手」に変えたことだ。
現役時代にアトレティコでCFとして活躍したフットレ氏は今もなおアトレティコスに愛される存在だ。フットレ氏はまた、アトレティコが現在苦境に陥っていたとしても、シメオネ監督に疑念を抱くのは間違いだと主張している。
■グリーズマンに欠ける愛
アトレティコ不振の原因のひとつに、決定力不足が挙げられる。今季のCLで放ったシュート数は74本で、記録したのはわずか2得点だ。ローマ戦(0-0)、チェルシー戦(1-2)、カラバフ戦(0-0・1-1)と4試合中2試合をスコアレスで終えている。
なかでもシメオネ監督の頭痛の種となっているのが、アントワーヌ・グリーズマンの不調だ。昨季アトレティコが接戦をものにできていたのは、グリーズマンの力が大きかった。彼は間違いなくアトレティコでエースの座を確立しつつあった。
だが今季は現時点で8試合連続ノーゴールが続いている。先のレアル・マドリー戦では、シュート数ゼロに終わり、交代の際に本拠地ワンダ・メトロポリターノの観衆からブーイングを浴びた。アトレティコスが自チームの選手にブーイングを浴びせるのは非常に珍しい。
■批判を跳ね返したフォルラン
その前例を探すには、2009-10シーズンまで遡らなければいけない。前年に32得点を記録してピチチとゴールデンブーツの個人賞2冠を達成していたディエゴ・フォルランが開幕から思うように得点を重ねられず、アトレティコスの批判の対象となった。
フォルランはリーガ第28節、ホームのアスレティック・ビルバオ戦で得点を挙げると、「どうした?」と挑発するように観衆に問いかけた。フォルランはそこから調子を上げ、10得点をマーク。EL決勝でも得点を挙げてタイトル獲得に大きく貢献した。
フォルランはそのシーズン開幕前、レアル・マドリー移籍が盛んに取りざたされた。今夏、マンチェスター・ユナイテッド移籍の可能性が報じられ続けたグリーズマンと似た状況だ。
FIFAの選手登録禁止処分を顧みて残留を決意したフランス代表FWはしかし、その新契約締結のために、より大きな期待をかけられ、重圧に苛まれている。だがグリーズマンは批判に結果で応じるしかない。フォルランがそうしたように、である。
■奇跡を超えて
「奇跡以上の何かが必要だ」
スペイン紙『マルカ』はCLグループC第4節カラバフ戦が引き分けに終わった後、アトレティコの敗退危機を一面で報じた。だが、窮地に追い込まれてもシメオネ監督が匙を投げることは決してない。
それがシメオネ監督の信念であり、アトレティコのアイデンティティだからである。奇跡を超えた先。その景色を見るべく、シメオネとアトレティコは最後の1秒まで死力を尽くすだろう。