Yahoo!ニュース

なぜ今季のクラシコは"熱い"のか?エムバペ、ヤマル、ベリンガム…躍動するスター選手と両指揮官の思惑。

森田泰史スポーツライター
マドリーとバルセロナが激突するクラシコ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ピッチに並ぶのは、とんでもない選手たちだ。

リーガエスパニョーラ第11節で、レアル・マドリーとバルセロナが激突する。首位バルセロナと2位マドリーの勝ち点差は3ポイント。両者にとって、負けられない戦いになる。

■バルセロナと好調の要因

今季、序盤戦で好調なのがバルセロナだ。

その好調ぶりは「サプライズ」だと言って差し支えない。大きかったのは監督交代の影響だ。

バルセロナは2024−25シーズンに向け、シャビ・エルナンデス前監督との契約を解除し、ハンジ・フリック監督の招聘を決断した。

バルセロナのハンジ・フリック監督
バルセロナのハンジ・フリック監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

ハンジ・フリック監督は2019−20シーズン、バイエルン・ミュンヘンでセクステテ(6冠)を達成した。一方、ドイツ代表では結果を出せず、史上初めてDFB(ドイツサッカー協会)から解任された監督になった。

そのため、ハンジ・フリック監督の手腕に懐疑的な目を向ける者もいた。だが「我々と一緒に働いていた頃は、一日に三度、私のオフィスに来ていた。そこでカフェを飲みながら、いろいろなテーマについて話し合った。敬意を込めて言うが、ドイツ代表ではそのように働けなかったようだ」とカール・ハインツ・ルンメニゲ当時バイエルンCEOが語るように、日々の仕事が重要なクラブでの監督には向いていた。

ハンジ・フリック監督にとって大事だったのは毎日のコンタクトだ。現在、バルセロナでは、デコSD(スポーツディレクター)やスポーツ部門のコーディネーターであるボージャン・クルキッチ氏とコミュニケーションをとっている姿がよく目撃される。

■厳しい基準とフェアな姿勢

ただ、ハンジ・フリック監督がバルセロナで結果を出せている理由は、それだけではない。

ハンジ・フリック監督は、選手に対してフラットに接している。「フリックは親しみやすい監督だ。プレータイムが多い選手、少ない選手、全員に必要な時に存在している。自身のプレーのアイデアや情報を、みんなにきちんと伝えている」とはダニ・オルモの弁だ。

ラミン・ヤマル、パウ・クバルシ、アレッハンドロ・バルデ、フェルミン・ロペス、エクトル・フォルト、マルク・カサード、セルジ・ドミンゲス…。今季のバルセロナは多くのカンテラーノが躍動している。これは指揮官が公平に選手たちを扱っていることと無関係ではない。

また、ハンジ・フリック監督は「線引き」を厳密に行なっている。リーガエスパニョーラ第9節のアラベス戦では、ジュール・クンデがスタメンから外れたが、戦術ミーティングに遅刻したのが原因だった。

ドリブルするヤマル
ドリブルするヤマル写真:なかしまだいすけ/アフロ

シャビ・エルナンデス前監督は、元バルセロナの選手で、良くも悪くも選手たちとの距離が近かった。

ハンジ・フリック監督の場合、厚意を持って接しながらも規律を重視して選手起用を行うので、選手たちから不満が出てこない。バルセロナの好調の要因のひとつだ。

■ギアを上げてきたマドリー

バルセロナと比べ、序盤、苦しみながら徐々に調子を上げてきたのがマドリーだ。

マドリーは今夏、キリアン・エムバペを獲得した。エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス、ジュード・ベリンガムの 「BMVR」が攻撃を牽引するーー。マドリディスタの描いた青写真は、そうだった。

しかし、問題はそこではなかった。

攻撃を牽引するベリンガムとエムバペ
攻撃を牽引するベリンガムとエムバペ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「我々は昨シーズンのようなソリッドさを備えていない。チームにソリッドな部分を加えられるように、我々は働き続けている。もっとコンパクトに戦わなければいけない。時に、前からプレスに行こうとする選手がいても、チーム全体にオートマティズムが欠けている」と語るのはカルロ・アンチェロッティ監督だ。

そう、マドリーの課題は守備にある。『Hudl Statsbomb』のデータによれば、マドリーと対戦するチームの選手が、ボールを保持して2秒以内にプレスを受けるパーセンテージは19%。リーガの平均値が21%なので、その数字を下回っている。

この9シーズンで、マドリーがリーガの平均値を下回ったことはなかった。

エムバペ、ヴィニシウス、ベリンガム、ロドリゴといった選手を擁していたら、攻撃の重心は前傾になる。その分、守備が脆弱化するのは自明の理だが、アンチェロッティ監督はその現実に苦しんでいる。

リーガ第10節セルタ戦では、【3−4−3】で戦った。今季使用してきた【4−2−3−1】【4−4−2】をやめて、システムチェンジを行なった。チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節のボルシア・ドルトムント戦ではシステムを戻したが、イタリア人指揮官は試行錯誤を続けている。

ゴールを狙うヴィニシウス
ゴールを狙うヴィニシウス写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「道のりは長い。まだ始まったばかりだ。我々は1試合ずつ戦っていくことを目指している。誇りを感じているが、まだまだ続いていく。次の土曜日には、誰もが知っているチームと対峙することになる。良いパフォーマンスができるように期待している」

「(バイエルン戦の)勝利は大きかった。勝利はいつも自信になる。レアル・マドリーより回復に使える日が1日少ないが、うまくリカバリーできるはずだ。クラシコだ。我々にプレーする準備はできている」

これはハンジ・フリック監督のコメントだ。

対峙するペドリとモドリッチ
対峙するペドリとモドリッチ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

エムバペ、ヴィニシウス、ヤマル…。スター選手たちがサンティアゴ・ベルナベウに集う。

役者は揃った。実力、勝ち点差、両者のギャップはかつてないほど肉薄している。今季、最も熱い試合が、マドリードで繰り広げられる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事