降水確率を意思決定に役立てる
天気予報の将来は「確率予報」
未来を知りたい。
有史以来、人はこの夢を追い続けてきました。数多くの失敗が繰り返されてきましたが、唯一の成功例といわれるのが天気予報です。今では4日先の天気が約70%の確率で当たるようになりました。
そして今、天気予報は単に明日、明後日の天気を知るだけでなく、大雨や猛暑、暴風などのさまざまな天候から受ける影響を最小限にするために活用する情報へと変わっています。これを気候リスク管理といいます。日本では金融・保険や電力、製造業の分野で利用が進んでいますが、まだ一般的ではありません。欧米ではいち早く活用が進んでいます。
将来、コンピューターがどれほど発達しても、天気予報は100%当たるようにはなりません。一週間先、1か月先、半年先、と未来になればなるほど不確定な状況が増し、何%という確率を持って予報することになります。ひとことで言えば、天気予報の将来は「確率予報」なのです。
では、どうしたら確率予報を意思決定に役立てることができるのか。おなじみの降水確率を例に紹介しましょう。
降水確率を重視する人の割合は92.9%
気象庁が行った「気象情報等の利活用に関する調査」によると、降水確率を重視する・やや重視すると答えた人の割合は92.9%に達し、関心の高さを裏付けました。降水確率予報の歴史は古く、1980年(昭和55年)に東京地方からスタートし、1986年(昭和61年)には全国に広がりました。今では「降水確率=傘を持っていく判断」と言えるでしょう。
余談ですが、天気予報を問い合わせてくる人の3人に1人は、降水確率を聞いてきます。30%ですと答えると声のトーンが明るくなりますが、50%、80%と高くなると、途端に困った様子に変わります。専門家のアドバイスよりも降水確率の方が信頼されているのかと複雑な心境です。
降水確率が何%以上のとき、傘をもっていくようにしたら良いでしょうか?
雨が降りそうなら、傘を持っていくことにします。
A:傘を持っていったのに、雨が降らなかった → 500円の対策費用(コスト)
(傘が邪魔だったり、傘を置き忘れないように注意したことの代償として)
B:傘を持っていかず、雨が降ってしまった → 1000円の損失(ロス)
(傘を買った、駅から自宅までタクシーに乗ったなど・・・)
コストとは対策に要する費用のこと。ここでは雨に降られても困らないための対策費用です。一方、ロスとは対策により軽減できる損失のこと。ここでは傘を持っていれば、傘を買う必要はないですし、タクシーに乗らなくてもすみます。
対策費用(コスト)が損失(ロス)を下回る場合は、万が一の損失を避ける費用は惜しまない方がいいでしょう。逆に、対策費用(コスト)が損失(ロス)を上回ってしまっては損失を避けるつもりがかえって無駄になってしまいます。
それでは降水確率が何%以上のときに傘を持ったらいいのでしょうか。この場合、コストが500円、ロスが1000円なので、降水確率が50%以上のときは傘を持っていった方がいいことになります。
単に「晴れです」「雨です」という予報では、コストとロスの比と比べるものがないので、天気予報を意思決定に生かすことはできません。確率予報の一番の利点は意思決定の基準が数字としてはっきりとわかることです。これは簡単な例ですが、みなさんが気象情報を利用し、活用するきっかけになればうれしいです。
【確率について理解を深める本】
確率と科学史「パスカルの賭け」から気象予報まで:マイケル・カプラン,カレン・カプラン,朝日新聞社,2007.
シグナル&ノイズ(天才データアナリストの予測学):ネイト・シルバー,日経BP社,2013.
【参考資料】
気象情報を活用して気候の影響を軽減してみませんか?:気象庁ホームページ
確率予報の利用方法(コストロスモデル):気象庁ホームページ
気象情報等の利活用状況調査結果:平成27年3月気象庁
表紙の写真は、琉球放送のお天気キャスター崎濱綾子さんからいただきました。