2人のチャンピオン ~2階級制覇に挑む先輩王者 田口良一~

WBAライトフライ級タイトルを7度防衛した田口良一は5月20日、IBFと共に同ベルトを手放した。自身を下したヘッキー・ブドラーに借りを返したい気持ちはもちろんあるが、ジムの後輩である京口紘人に、その機会を譲った。
「ブドラー戦はコンディションがうまく作れませんでした。減量がきつくて、試合前の数週間は、2~3時間しか眠れていなかったんです。腹が減って起きてしまうんですよね。リングに上がってブドラーを目にしても、『自分はこれから本当に試合をするのかな?』なんて、身体がふわふわしているような感じでした…」
果敢に前進し、打ち合いを制するのが田口良一のボクシングである。“モンスター”井上尚弥を相手にしても、怯まず、下がらず、toe to toeの勝負を挑んだ。勝った試合はもちろん、負けっぷりの良さも見せるのが田口である。だが、ブドラー戦の彼は、なかなかエンジンが掛からなかった。
「調子がいい時は、時間の経つのが早いんです。井上君との試合なんて『え? もう8ラウンドか』って思いました。でも、ブドラー戦は、1ラウンドが5分くらいに感じられたんですよ。いいパフォーマンスができない時って、時が長いんですよね」

ブドラーにリベンジを果たしてから、フライ級に上げるのが理想であったが、ワタナベジム会長の渡辺均と相談し、後輩にチャンスを与えた。
「あまりゴチャゴチャ言うのも嫌ですし、ライトフライの体を作るのも厳しいですからね…。僕、NBAの大ファンなんですが、超スーパースターだったアレン・アイバーソンの姿を思い出したのです。彼は、スタメンで出られないのならこのチームを出ていくとか、自分の扱いに不満を持って、晩年は移籍を繰り返して選手生活を縮めましたよね。チームという組織に所属するのなら、その一員であることを自覚しないといけない。僕はワタナベジムの選手ですから、決まった試合を全力でやることが仕事です。ブドラーとやりたい気持ちはありましたが、吹っ切りました」
カムバックにあたり、田口はジムの先輩である梅津宏治を新たなトレーナーとした。
「今、もう一度、基礎に立ち返っています。毎日、梅津さんにバランスや細かい動作などを指摘されると、『あぁ、俺はこんなこともできなかったのか』って思い知らされるんですよ。その分、自分の成長を感じることが出来ています」
梅津宏治トレーナーは話す。
「田口の最大の武器は闘志です。スパーよりも実戦に強い。僕も田口も、洪東植さんの教えを受けましたから、土台の部分に共通点があります。世界タイトルマッチを重ねるうちに、田口は基礎を疎かにした部分があるんですね。具体的にはパンチを打った後の戻しが無い。体の軸がブレているから、無駄な動きも多い。そこを運動量とガッツでカバーしていたのですが、もう一度基本に戻るメニューを課しています」

渡辺会長も言う。
「気持ちを切り替えて、いい練習をやっています。フライ級の方が動きが鋭い。田口は相手が強ければ強いほど、本領を発揮できる選手です。期待して見ていて下さい」
田口のカムバック戦は、WBOフライ級王者、田中恒成への挑戦が濃厚だ。フライ級での熱いファイトを期待したい。