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シリアでイスラーム国支配地消滅2周年の祝典が行われるなか、米軍基地を狙って砲撃か?

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2021年3月23日

バーグーズ村解放2周年

シリアでは3月23日、イスラーム国最後の支配地だったダイル・ザウル県ユーフラテス川東岸のバーグーズ村を、シリア民主軍が米主導の有志連合の支援を受けて完全制圧してから2年が経った。

これに合わせて、シリア最大の油田で、米軍が違法に基地を設置し、駐留しているウマル油田で、シリア民主軍の主催による記念祝典が行われた。

シリア民主軍は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が結成した人民防衛隊(YPG)を主体とする武装連合体。有志連合は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」における「協力」(partner forces)と位置づけ、全面支援を続けている。

また、シリア民主軍によって制圧されたダイル・ザウル県ユーフラテス川東岸地域は、ダイル・ザウル民政評議会を名乗る組織が自治を担っている。同組織は、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の傘下にある。

「時限爆弾」フール・キャンプ

祝典に出席したダイル・ザウル軍事評議会のアフマド・アブー・ハウラ司令官は祝辞のなかで「ダーイシュの終わりでさらなる行動が求められる」としたうえで、次のように述べた。

キャンプ、とりわけフール・キャンプにある時限爆弾の問題を解決するため行動しなければならない…。有志連合と世界には、ダーイシュの逮捕者とこの地域の復興の問題を解決するために責任を負わねばならない。

「時限爆弾」という表現は、イラクの国家安全保障担当顧問のカースィム・アアラジー氏が3月18日にマシュー・テュエラー在イラク米大使との会談で用いたもの。

アアジャミー氏の広報事務所が出した声明によると、同氏はこの会談でテュエラー大使に次のように伝えていた。

イラクは、国際社会が参加するかたちで、さまざまな国籍のテロリストを収容しているフール・キャンプをめぐる問題の実質的・最終的な解決を必要としている。

フール・キャンプを現状のまま維持することは、時限爆弾のようなものだ。なぜなら、そこにはイラク人児童20,000人が収容されているが、彼らは、イラクとこの地域に脅威を及ぼすダーイシュ(イスラーム国)になってしまうからだ。この問題を解決するためにみなが肩を寄せ合わねば、イラク、この地域、そして世界の安全を脅かすことになる。

トルコで活動する独立系シンクタンクのジュスール研究所が2020年9月1日に発表したレポートによると、フール・キャンプは6つの区画、8つのブロックから構成されておいる。

6つの区画のうち、第1区には、イスラーム国とつながりがない国内避難民(IDPs)、第2区と第3区にはイラク難民、第4区にはイスラーム国とつながりがあるとされるIDPs、第5区には欧州出身のイスラーム国メンバーの家族、そして第6区にはそれ以外の外国人戦闘員の家族が収容されている。

一方、8つのブロックのうち、第1、2、3、7ブロックにはイラク人難民が、第5、6、8ブロックにはシリア人IDPsが、第4ブロックにはイラク人難民とシリア人IDPsの両方が収容されている。

また、この8ブロックとは別に、シリア、イラク以外の国の出身者が収容されている。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が1月8日に発表したところによると、キャンプには今も、62,498人が収容されている。このうちの30,694人(8,286世帯)がイラク人、22,626人(6,270人)がシリア人、残る9,178人がアジア、欧州、アフリカなどの国の国籍保有者だという。

北・東シリア自治局やシリア民主軍はキャンプに収容されている外国人戦闘員の家族の日柄引き受けを出身国に求めているが、とりわけ西欧諸国がこれに消極的な姿勢を続けていることは周知の通りである。また、キャンプは、イスラーム国メンバーによると思われる難民、IDPsの殺害事件が跡を絶たない。

復興支援の呼びかけ

アブー・ハウラ司令官は、フール・キャンプの問題解決に加えて、復興への支援を呼びかけた。ダイル・ザウル民政評議会のガッサーン・ユースフ共同議長も祝辞において、次のように述べ、この点を強調した。

今も、テロ組織に対する取り組みは終わっておらず、根絶に向けてさらに努力しなければならない。

我々民政評議会は我が住民に復興支援の手を差し伸べたい。だが、我々にはさらなる努力が必要だ。

シリア北部と東部を構成する社会成員はシリアの問題解決の一部で…、我々は皆の権利が保障される政治的解決を望んでいる。北・東シリア自治局なしにシリアの危機の解決はないと明言したい。

シリアでは、レバノンの財政破綻とコロナ禍で深刻な経済危機が続いている。だが、欧米諸国は、シリアにおいて政治移行(つまりはバッシャール・アサド政権退陣)が実現しない限りは、支援を行わないとの立場を継続している。とりわけ、米国は、アサド政権退陣に向けた積極的な取り組みを断念して久しいものの、2019年12月にカイザー・シリア市民保護法を施行するなどして、シリア経済への締め付けを強化している。このことが、(アサド政権を存続させたまま)、部隊を違法駐留させているダイル・ザウル県をはじめとする地域の経済の再生を阻害している。

有志連合代表の祝辞

シリアにおける自らの同盟者を、制裁を通じて経済的に困窮させ続けている米国からは、有志連合ダイル・ザウル県特殊部隊のアフマド・ナースィル大佐が記念祝典に出席、英語で以下のように祝辞を述べた。

我々の協力関係は、治安と安定を実現するためにともに血を流すことで深められた。我々がここまで到達したことは、こうした犠牲のおかげである。

クルド人やアラブ人らが連帯したおかげで達成されたものは、我々がともに行動すれば、奇跡を作り出すことができることを示している。我々はこうした関係を続けねばならない。

ダーイシュに対する行動は終わっておらず、最後まで続けられる。彼らを根絶するまで我々が安らぐことはない。我々はダーイシュを倒すために前進し、我々が戦争で勝ち取ったものを失わないようにすると明言したい。

シリア民主軍、民政評議会、地元評議会、部族とともに、我々はこの地域の住民のために明るい未来を築く。

米国による石油盗奪は続く

こうした建前とは裏腹に、米国はシリア国内で産出される石油の盗奪を続けている。

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、北東部のハサカ県では3月23日、有志連合の大型タンクローリーなど車輌約300輌からなる車列が、ユーフラテス川以東地域の油田で盗掘した石油を積んで、ワリード国境通行所から約1キロの地点に設置されているマフムーディーヤ国境通行所からイラク領内に出国した。

ワリード国境通行所、マフムーディーヤ国境通行所ともに、米国が違法に設置したもの。

米軍が基地を設置するウマル油田近くに迫撃砲弾着弾

一方、SANAが複数の地元筋の話として伝えたところによると、米軍が基地を設置しているCONOCOガス田(ダイル・ザウル県)近くに対して何者かが攻撃を行った。

攻撃を受け、同地に展開する米軍部隊は厳戒態勢に入り、上空にはヘリコプターが頻繁に旋回し警戒活動にあたったという。

これに関して、英国を拠点とするシリア人権監視団は、CONOCOガス田近くに迫撃砲弾1発が着弾したと発表した。

イスラーム国による砲撃か、人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍と有志連合の演習の流れ弾かは不明で、着弾地点は米軍基地から離れた場所だったという。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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