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森保監督解任かで揺れる日本代表。4年周期の後半になると、サッカー協会はドタバタ劇をなぜくり返すのか

杉山茂樹スポーツライター
(写真;岸本勉/PICSPORT)

 1勝2敗。3戦を終えて勝ち点3に低迷するサッカー日本代表。森保一監督解任論は、オーストラリアとのホーム戦(12日・埼玉)を前に高まるばかりだ。

 もっとも、代表監督にまつわる解任か否か、続投か否かの議論は、今回が初めてではない。4年周期の後半になるとほぼ毎度、かなり高い頻度で発生するお約束のような出来事だ。サッカー競技が抱える宿命のような問題とも言えるが、日本の場合は、それに対するサッカー協会の備えが甘い。危機意識に欠けるというか、過去の教訓が活かされていないというか、楽観的な姿勢が目立つ。

 想起すべきは前回の解任劇だ。協会がヴァヒド・ハリルホジッチを解任したのは、2018年ロシアW杯本番まで2ヶ月に迫った時だった。まさに土壇場でドタバタ劇を発生させていた。

 後任の座に就いたのは西野朗技術委員長で、あまり大きな期待感を抱かせない交代だった。コロンビア、セネガル、ポーランドと同じ組を戦うことになった、まさに「死の組」を、日本が勝ち抜くと楽観的になれた人は何人もいなかったはずである。

 ところがW杯本大会では、そんな日本にラッキーが待ち受けていた。初戦のコロンビア戦で、開始早々、相手のハンドに対し主審が下したPK&レッドカードという厳しい判定がまず一つ。二つ目はセネガルと勝ち点4で並んだ日本に、フェアプレーポイントなる新ルールが適用されたことだ。西野ジャパンが、ハリルジャパンを大きく凌ぐよいサッカーを展開したことは事実ながら、ベスト16入りがツキにも恵まれた結果であったことは紛れもない事実になる。

 ハリルホジッチ→西野の交代劇は大成功に終わった。しかし本来的には褒められた話ではない。結果オーライの産物以外の何ものでもなかった。少なくとも協会は、ロシアW杯の結果を誰よりも謙虚に受け止める必要があった。

写真:ロイター/アフロ

 ところがW杯後、協会は反省、検証もそこそこに次期代表監督=森保一を、あっという間に選んでしまった。「日本人でナンバーワンの実績を残した監督」とは、その時、田嶋幸三会長が会見で述べた最大の選考理由だが、それが説得力溢れる言葉には、とても聞こえなかったのだ。田嶋会長の評価する日本人ナンバーワンに、世界的な価値がどれほどあるのか。懐疑的にならざるを得なかった。

 2010年南アフリカW杯が終了すると、協会の時の技術委員長、原博実は攻撃的サッカーをコンセプトに、監督探しを開始した。その結果、招聘されたのがアルベルト・ザッケローニだった。

 パウロ・ロベルト・ファルカン→加茂周→岡田武史→フィリップ・トルシエ→ジーコ→イビチャ・オシム→岡田武史と続いた、それまでの代表監督探しには、コンセプトがなかった。今回は日本人でとか、外国人でとか、論じられたのは、コミュニケーションが上手く交わせるか否かぐらいに限られていた。

 トルシエが代表監督に就任した時、彼が「フラット3」を志向する監督だと知る人は皆無だったのだ。5バックになりやすい3バックを好む、攻撃的とは言えない監督であることが明らかになったのは、実際に合宿が始まってから。いまではあり得ない話だが、当時の日本サッカー界のレベルをうかがい知るには、格好のエピソードになる。

 アルベルト・ザッケローニは、攻撃的サッカーという、ひとつのコンセプトに基づいて招聘された最初の監督だった。そのコンセプトに最も適していた監督が、続くハビエル・アギーレになる。ところがまったく残念なことに、アギーレは、サラゴサ監督時代に巻き込まれた八百長疑惑のため、数ヶ月で辞任に追い込まれる。すると技術委員長から専務理事に昇格していた原博実は、この事態に慌てたのだろう、ヴァヒド・ハリルホジッチを新監督に迎えてしまった。攻撃的とは言えない監督であることは、試合を重ねるたびに明らかになっていった。

写真:ロイター/アフロ

 ハリルホジッチ解任を受けて新監督の座に就いた西野朗も、特に攻撃的サッカーを標榜する監督ではなかった。5バックになりやすい3バックも、こだわりなく採用する、よく言えば、曖昧さを売りにする監督だった。攻撃的サッカーというコンセプトに基づく代表監督探しは、西野監督の誕生をもって終焉を迎えることになった。

 専務理事に昇格した原は、2016年1月、FIFAの指導に基づき、日本サッカー協会として初めて実施された会長選挙に立候補した。田嶋とその座を争うことになった。勝ったのは田嶋で、僅差で敗れた原はその結果、代表チームに影響力を持たない理事職に降格する身となった。

 2018年の7月時点で、会長が田嶋ではなく、原だったなら、森保ジャパンはおそらく誕生していなかったに違いない。

 広島時代、3-4-2-1という攻撃的ではない布陣を採用した森保監督は、就任会見で、代表チームでも3バックを続けるのかと問われると「臨機応変に」と曖昧に答えている。実際、代表チームではあるときまで3-4-2-1と4-2-3-1を交互に採用した。最近は4-2-3-1メインで戦っているが、コンセプトの異なる布陣を使い分ける理由を、明確に語ったことはない。目指すサッカーを雄弁に語ったためしはないのである。「臨機応変」あるいは「柔軟に」で、かわそうとする姿勢に、森保監督の弱さを強く感じたものだ。

 10月7日、サウジアラビアとのアウェー戦に0-1で敗れた後、森保監督は「方向性は間違っていない」と強気なコメントを吐いた。しかし、その方向性とは具体的になんなのか。

 他方、兼任する五輪監督としては、わりと最近まで3-4-2-1に固執していた。五輪チームは監督が同じでも、コンセプトの異なるサッカーをしていた。こちらも何の説明もなく、だ。

写真;岸本勉/PICSPORT))
写真;岸本勉/PICSPORT))

 そもそも、五輪チームとの兼任監督であることに間違いがあった。スケジュール的に無理があることは、日程表に目をやれば一目瞭然だった。実際、五輪チームは準備試合の大半において、横内昭展コーチが監督代行として采配を振っている。責任の所在はこの時点で、すでに曖昧になっていた。

 兼任監督を言い出した人は誰なのか。五輪チームは金メダルを目標に掲げながら、メダル逃しの4位に終わった——という物足りない成績もさることながら、それ以上に露呈したのは、森保監督の貧しい采配ぶりだった。

 中2日の強行軍で、しかも選手交代5人制で行われた東京五輪は、2020年カタールW杯でベスト8を狙う森保ジャパンの行方を占う、またとない機会でもあった。ところが森保監督は、予行演習とも言うべき五輪の場で、選手を上手に使い回すことができなかった。日本サッカーの最大値を、対戦相手に伝え切れなかったのだ。曖昧な方向性だけに止まらないのである。

 ところが協会は、森保監督が東京五輪でみせた采配について、検証もそこそこにW杯アジア最終予選に向かおうとした。

 初戦のオマーン戦。0-1で負けた事実より驚かされたのは、大苦戦しているにもかかわらず、交代枠を3人しか使うことができなかった森保采配だ。1-0で辛勝した2戦目の中国戦しかり。満足な戦いができていないにもかかわらず、選手交代を3人しかしなかった。森保監督の選手起用は著しく硬直化していた。スタメンはほぼソラで言える状態にあった。

 そして極めつきが、0-1で敗れた直近のサウジアラビア戦だ。開いた口が塞がらなかったのは、後半のアディショナルタイムに入った段で行った長友佑都と中山雄太の交代である。なぜこの土壇場で、左サイドバック同士を交代するのか。リードしている側が行う時間稼ぎ然とした交代を見るかのような、日本代表史に特記したくなる迷采配と言えた。

 もちろん、これはいまに始まったことではない。2020年1月にタイで行われたU-23アジア選手権の第1戦、対サウジアラビア戦でも、森保監督はレベルに達していない選手交代を見せている。グループリーグ敗退というまさかの結果と、その貧しい交代センスとは密接に関係していた。解任論はその時1度、高まりを見せていた。コロナ禍で試合が途切れたことで、その機運は萎んだが、森保監督を語る時、このU-23アジア選手権の采配も、残念な事例として挙げたくなる。

写真:つのだよしお/アフロ

 このコロナ禍で中断している間、協会には人事異動があった。技術委員長だった関塚隆氏が、いつの間にか退任。その座には反町康治が就いていた。代表監督、技術委員長、協会会長。日本代表を語る時、欠かせないこの3人のうちの1人が、正式な退任会見さえ開くこともなくフェードアウトしていった。見逃せない事件が起きていたのだ。

 不可解な出来事は最近も起きている。10月9日に開かれた協会の臨時評議会(オンライン)で、田嶋会長の再選が決まったことだ。来年(2022年)4月から2024年4月までの2年間の話を、なぜこのタイミングで行うのか。この話が議論されるのは通常、翌年1月末だ。ちょうどアジア最終予選の7戦目が行われるタイミングである。今回、3ヶ月以上前倒しされた理由は何となく見えてくる。

 2024年まで会長職を務めれば、その在位は通算8年に及ぶ。4年間という通例の倍の長さになる。6年間その座に就き、異例とされたあの川淵(三郎)さんさえも、2年上回ることになる。

 田嶋会長には森保監督に対する厳然とした任命責任がある。森保監督がもし解任に追い込まれたら、会長はどう責任を取るつもりなのか。即辞任せよと言うつもりはないが、代表チームがW杯本大会出場を逃せば大事件だ。1994年アメリカW杯以来7大会ぶりの出来事となれば、それは当然、辞任に値する。アジア最終予選が終了するのは来年3月で、アジアプレーオフを経て大陸間プレーオフが行われるのは来年6月だ。ドタバタ劇は続くのか。

 優秀な新監督を招くしか起死回生の道はないとは筆者の意見だが、世界のサッカーにあまり詳しくなさそうな田嶋会長の元で、それは可能なのか。最後までとくと目を凝らしたい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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