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【宝塚市】2人のアトムに会える!浦沢直樹さんの「PLUTO展」

ぶらっと地域情報発信ライター(宝塚市)

手塚治虫さんの「鉄腕アトム」のリメイク版として、発表当時大きな話題となった浦沢直樹さんの漫画「PLUTO(プルートゥ)」。2023年秋にアニメ化されたのを記念して、宝塚市立手塚治虫記念館で展覧会が開催されています(2月18日まで)。

Netflixでアニメが全世界配信

2003年から2009年に連載された漫画「プルートゥ」は、鉄腕アトムのなかの一編「地上最大のロボット」がベースになっています。

人間とロボットが共生する未来に、世界最高峰のロボットたちが次々と破壊されていく。事件を担当したロボット刑事ゲジヒトは、ターゲットの一人とされる優れた人工知能を持つアトムと出会い、二人はやがて史上最悪の憎しみと対峙するというストーリー。

手塚さんの骨太なストーリーはそのままに、浦沢さんならではの緻密な組立てと深い心理描写が盛り込まれ、スリリングな展開と壮大なスケールに夢中になった読者も多いのではないでしょうか。

本展はアニメ版プロモーション映像や制作資料のほか、浦沢さんと手塚さんの直筆原稿など約150点が展示され、2人のアトムに会える貴重な機会となっています。

2023年10月26日から全世界配信が開始
2023年10月26日から全世界配信が開始

手塚アトムの連載開始は約60年前

原作の「地上最大のロボット」は1964年6月号から1965年1月まで雑誌『少年』に連載されました。当時5歳の浦沢さんはこれを読んで「なんて切ない話なんだろう」と強く印象に残ったのだそう。

連載当時の雑誌も展示
連載当時の雑誌も展示

原作は、展示されている数ページの直筆原稿をみるだけでも、圧倒的なエネルギーを感じて物語に引き込まれていきます。クライマックスのシーンでは構図を大きく修正した跡もあり、手塚さんの並々ならぬ情熱が伝わります。

エネルギーに満ち溢れた美しい直筆原稿
エネルギーに満ち溢れた美しい直筆原稿

はじめはツンツン頭ではなかった浦沢アトム

本展の見どころの一つは、キャラクターの対比展示。はじめはオリジナルキャラクターどおりの顔を描いたという浦沢さん。でも、手塚さんの長男で記念館名誉館長である手塚眞さんから「みなさんが知ってるアトムにはしないでください」というリクエストを受け、浦沢さんオリジナルのキャラクターになったのだそう。ロボットがさらに身近な存在になった現代を反映して、オリジナルの特徴を残しつつも、その造形がグッと人間に近寄っているのが興味深いです。

各キャラクターを比べて観ることができる
各キャラクターを比べて観ることができる

画面の左手前、ガラス張りで展示されているのは、浦沢さんのキャラクター・スケッチです。なかには、最初に構想されたオリジナルに忠実なゲジヒトや、二つの飛び出た三角髪でお馴染みの姿をしたアトムのスケッチも。実は、浦沢アトムの髪型も最初は違っていました。どんな髪型を経てあのツンツン頭になったのかは、ぜひ足を運んでご覧になってみてください。

はじめはツンツン頭ではなかったアトム
はじめはツンツン頭ではなかったアトム

手塚作品へのリスペクトとオマージュ

「プルートゥ」を描くことが決まり、名作のリメイクという重圧からじんましんが出るほど追い込まれたという浦沢さん。最大の手塚ファンでもある浦沢さんの作品は、手塚さんへのリスペクトとオマージュに溢れています。

同じシチュエーションが使われているシーン
同じシチュエーションが使われているシーン

原作と同じセリフやシチュエーションが使われたシーンを並べてみられるこのコーナーは、手塚さんと浦沢さんの思いが重なって見えてテンション・アップ。同時に、60年近くを経てもまったく古びない手塚作品のすごさに驚かされます。

ほかにも手塚さんの思い出の場所「トキワ荘」の名前をつけられた喫茶店が出てくるなど、手塚さんへのラブレターのようなトリビアに思わず顔がほころびました。

切実な問いを投げかける現代の物語

今回印象に残ったのは、浦沢アトムが涙を浮かべるシーン。直筆原稿では描き手の思いが、よりダイレクトに伝わってきます。ロボットであるアトムが泣く。繊細なペンの軌跡にどうしようもない悲しみが満ちて、作者の切実な思いを感じずにはいられませんでした。

戦争を経験した手塚さんが投げかけたのは、現代にも通じる大きな問い。原作から時を経た今も、憎しみや争いはなくならず、喪失の悲しみは現在進行形で起こっています。
展覧会の最後に掲げられた新旧2つのラストシーンは、悲しみのなかでも前を向こうとする祈りで締めくくられています。手塚さんの星空が微かな希望を強調しているのに比べて、浦沢さんの描く景色は、凍えるような寒さのなか、悲しみが深化し、祈りの純度が高まっているように思いました。それは、ますます複雑化し緊張が高まる現代世界を反映しているのかもしれません。

気になる原作をすぐにチェック!

展覧会を観て原作を読みたくなったら、ライブラリーコーナーへどうぞ。手塚作品はもちろん、「プルートゥ」も全巻そろっています(館内閲覧のみ)。

一人の少年の心をとらえ、受け継がれた祈りのバトン。「物語ること」の強さに明日への希望を感じる、そんな展覧会でした。

展覧会情報

PLUTO展 アトムとプルートゥからのバトン
■会期:2023年11月3日(金)~2024年2月18日(日)
■会場:宝塚市立手塚治虫記念館
(〒665-0844 兵庫県宝塚市武庫川町7-65)
■Tel:0797(81)2970
■開館時間:9時30分~17時00分(入場は16時30分まで)
■休館日:毎週月曜日(祝日と重なる日は開館)
■入館料:大人700円 中高生300円 小学生100円
宝塚市立手塚治記念館ホームページ

地域情報発信ライター(宝塚市)

カフェ、庭園、美術館、ときどき神社。新しい出会いを求めて、カメラ片手に足の向くまま、気の向くまま。歴史のあるまち、宝塚の「いま」をお届けします。

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