帝京大学連覇の背景&運営の課題は? 大学選手権総括&極私的ベストフィフティーン+α【ラグビー雑記帳】
チャンピオンチームの一員は、揃ってこんな趣旨で語る。
「これだけきついことをやっているんだから、負けない」
ラグビー大学選手権は1月8日、帝京大学の2季連続11度目の優勝で幕を閉じた。強さの理由を当事者が語れば、日々の積み重ねを強調するのだ。
国内トップ選手がグラウンド脇、大学構内のジムを使って身体を鍛え、毎朝の猛練習で持久力と競技偏差値を高めてきた。
選手権では、初戦にあたる準々決勝で同志社大学を50—0で破った。
伏線があった。加盟する関東大学対抗戦Aのシーズンを終えた際、リーダー陣が相馬朋和新監督、岩出雅之前監督に日々の練習の質について指摘された。それは複数の証言で明らかとなった。
前年度の準決勝で京都産業大学に前半リードを許していたとあり、普段の練習から緩みを排除するよう再認識が求められた。その延長線上で練習時の激しさが増し、快勝劇を重ねる土台ができたと言える。
準決勝では同じ関東大学対抗戦Aの筑波大学を71-5で破り、決勝では早稲田大学を73―20で下す。特筆すべきは、点差をつけてからも気を緩めなかったことだ。
決勝の試合終盤だ。相手にペナルティーキックを与えた瞬間、3年生フランカーの奥井章仁が「仲間、観てるぞ!」と味方を叱咤した。引き締めに成功した。
「1年間やってきた帝京大学のラグビーをしないと、仲間は喜ばない。今年1年、僕ら(試合の)メンバーだけでは戦えなかった。(試合に)出たくても出られず、僕らとは違う感情があるなかでも、僕らを心の底から応援してくれているのは嬉しいことです。ちゃんとしたプレーで(恩を)返すのを意識してやっていた」
インサイドセンターの松山千大主将は、戦前から「自信は、あります」と話していた。いわば有言実行。フィジカリティをはじめとした他校との差を、存分に示した格好だ。
それでも奥井はこうだ。
「今年は今年のタレントでできた形がこれ。来年は来年で、色んなことがある。今年も春には(明治大学との春季大会の試合を落として)勝つ難しさを学んでいる」
隙は作らないつもりだ。
対抗戦勢の凄みとは
帝京大学の強さが目立った今季の選手権だが、より広い視点で見れば、帝京大学を含む対抗戦勢が光る大会でもあった。その傾向は、関西大学Aリーグの天理大学が優勝した2020年度も含めて長年、続いている。
関西大学Aリーグが活況を帯び、東海大学が5連覇を達成した関東大学リーグ戦1部にあっても、東洋大学が29季ぶりに1部に参戦して選手権に初出場した。
それでも決勝のカードは、2季連続で対抗戦勢同士となったわけだ。4強の顔ぶれも、関西王者の京都産業大学が2季連続で入ったほかは対抗戦1位の帝京大学、同3位の早稲田大学、さらには同5位の筑波大学が並んだ。
慶應義塾大学の栗原徹監督は、「スキル、パワーでは関西リーグ戦や関東リーグ戦に劣っているところ(チーム)もあるとは思いますが、上から下まで本当にひたむきに、諦めずにラグビーをするのが対抗戦の強み」。帝京大学の相馬朋和監督もこう言葉を選んだ。
「監督を始めて1年やそこらの人間が語るところではないのですが…。注目度が高いことは、ラグビーのレベルを上げるうえで重要。いつも皆さんに見ていただきながら、注目を頂戴しながらラグビーをしていくというのは、プレーする学生たちにとって成長するいい糧になると思います。その部分は、(対抗戦勢が持つ)大きな要素だなと思っています。明治大学さん、早稲田大学さん、慶應義塾大学さんという伝統校の皆さんのラグビーへの情熱、価値の大きさは、他の大学とは違うというのが、肌で感じる部分だと思っています。そうした皆さんに(同一リーグで)鍛えていただいて、いまの我々があるというのが実感として——私自身もまだたった1年ですけど——すでに持っております」
準々決勝では、同2位の明治大学が早稲田大学と早々とぶつかった。
事実上の準決勝とも呼ばれる組み合わせがそのタイミングで起こったのは、同3位のチームが3回戦を通過した際の相手が同2位と決まっていたからだ。
昨年度も同様の事態が起きており、見直しが図られなかったことには議論がわいた。
問題は他にも
刺激と変化が求められる項目は、他にもある。
さらに今度の選手権の準々決勝計4試合、決勝の試合は、全てが国内トップとなるリーグワンの試合と日程が重なっている。各カテゴリーの客層に違いがあるとしても、同じ競技で観客を取り合う構造に疑問符を浮かべる関係者は少なくない。
ちなみに全国高校大会の決勝もリーグワンの第3節・計3試合と同日開催となり、1月7~9日の3連休のうち9日には主要な大会のゲームは組まれていない。
昨季、本欄が指摘した、リーグワンの各クラブのリクルーターが関東の大学の有料試合のチケットを一般の販売サイトで購入している事態もいまだ改善されていない。
ある上位チームのリクルーターによれば、関西ラグビー協会主催の関西大学Aリーグでは事前申請を経て入場可。スカウトや内々定後のコミュニケーションを円滑におこなえるという。
ところが関東ラグビー協会の関東大学対抗戦、同リーグ戦についてはそのような措置はない。別なクラブのリクルーターは嘆いていた。
「チケット代は経費で落とせるから買えなくはないが、1枚ずつチケットサイトで購入して会社に申請するのも手間。せめて運営側で我々の分を確保するくらいはしてくれないものか」
大学ラグビーを経てリーグワン参戦を目指す学生がこの事実を知ったら、どう思うか。プレイヤーファーストの意味を改めて問い直されたい。
極私的大学選手権MVP&新人王&ベストフィフティーン
MVP、新人賞、ベストフィフティーンは勝利への貢献度やプレーの一貫性を基準に独自で選定。
★MVP 江良颯(帝京大学、フッカー)…大会を通じてスクラムを優勢に保った。スクラムハーフ、スタンドオフから球を受け取っては力強く突進。時に繰り出すパスでは器用さをアピールした。
★新人賞 シオネ・ポルテレ(京都産業大学、ウイング)…問答無用のパワーとスピードでトライを奪取。防御の位置取りは検討課題もインパクトは示した。目黒学院高校時代はプロップ、フランカーにも挑戦とポテンシャルは大きい。
★MIP 繁松秀太(東洋大学、センター)…早稲田大学との3回戦で魅した。ロータックルとその後の起き上がりの素早さが際立った。
1、髙井翔太(帝京大学)…スイープ、タックル、スクラム。
2、江良楓(帝京大学)…スクラムをリードしながら、強烈な突進とタックルでも魅する。
3、上杉太郎(帝京大学)…膝を深く沈めた姿勢で対面に組み勝つ。
4、本橋拓馬(帝京大学)…スクラムでは後方から強烈なプッシュ。ランニングも見事。
5、アサエリ・ラウシー(京都産業大学)…何度もボールキャリー。早稲田大学との準決勝で獅子奮迅の活躍。
6、青木恵斗(帝京大学)…ぶちかませるうえ、しなやかな身のこなしでオフロードパスを放る。
7、奥井章仁(帝京大学)…杭を打つようなコンタクト、タックル。チームが弛緩しかける瞬間に発破をかけるリーダーシップ。
8、谷山隼大(筑波大学)…わずかなスペースへ駆け込むスピード、驚異的なジャンプ力。帝京大学に大差で敗れた際も、しなやかさと強さの合わせ技で局面打開を図った。
9、宮尾昌典(早稲田大学)…準々決勝ではインターセプトからの決定的なトライ。接点周辺へ仕掛けながらのパス、インサイドサポート。
10、高本幹也(帝京大学)…強力フォワードの陣形を操りながら、ラン、パス、キックを発動させる。相手防御をコントロールするような仕掛け。
11、高本とむ(帝京大学)…力強い走り。決定力。
12、家村健太(京都産業大学)…防御を引き付けてパス。献身ぶりも際立つ。
13、二村莞司(帝京大学)…攻守にハードワーク。勝負を決定づけるトライ。
14、槇瑛人(早稲田大学)…速さ、決定力。
15、小村真也(帝京大学)…ウイングとしてトライ量産。ハイボールキャッチにしなやかな走り。