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中国恒大集団の経営危機で露呈 そもそも中国人はなぜ、のどから手が出るほど不動産を欲しがるのか?

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

経営危機に陥っている中国不動産大手・中国恒大集団の今後を巡って、中国国内はもとより、日本など海外でも大きな注目が集まっている。

恒大が経営危機に陥ったのは、政府による不動産会社に対する引き締め策などが大きな要因だが、もともと不動産を持っていなかった中国人にとって、近年、高騰しすぎる不動産は「一生働いても絶対に買えない」存在になっており、不満が燻っていた。

その一方、2017年ごろから、習近平国家主席は「住宅は住むものであり、投機の対象ではない」と語っており、右肩上がりで高騰し続ける不動産価格を目論んで、投機目的で、何軒も購入して高く売りさばく「炒房」(チャオファン)に走る富裕層もおり、それに対して政府は警戒感を示していた。

そもそも、中国の不動産市場は、その成り立ちが日本とは大きく異なっており、日本人と同じ目線で見ていたら理解しにくい。

中国人がここまで不動産の購入に目の色を変え、必死になるのも、その成り立ちに中国ならではの特有の事情があるからだ。

住宅は国から平等に「分配」されていた

では、中国の不動産市場はどのようにして成り立ってきたのか。

中国の不動産市場の歴史は長くない。1978年の改革開放政策よりも前、住宅を建設、または管轄していたのは地方政府や国有企業などで、不動産は民間に開放されていないものだった。

中国では住宅分配制度が施行されており、都市部に住む人々のほとんどは「単位」(ダンウェイ)と呼ばれる組織(職場や学校、団体など)から非常に低い家賃で、誰もが平等に「分配」されるものだった。

その当時、個人が不動産を売ったり買ったりすることは不可能であり、中国人にとっての住居は、今でいう社宅や寮のようなイメージに近いものだった。

1960~1970年代、住宅は職場の敷地内や近隣などにあり、1960年代の資料を読むと、家計に占める家賃の割合は2%ほどしかなかったとある。

1978年の資料では、都市部の1人当たりの居住面積はたった3.6平方メートルしかなく、トイレや台所などは、同じ建物内の他の居住者と共用であることも多かった、と記されている。

しかし、改革開放を経て1980年代に入ると、住宅制度改革が始まり、徐々に「分譲住宅」というものができ始め、販売が解禁されるようになった。中国初の分譲住宅は、奇しくも現在問題となっている恒大集団が本社を置く広東省深圳市内にある「東湖麗苑」というマンションだといわれている。

同マンションは現存しており、当時の販売価格は1平方メートル当たり1000元(当時の為替レートで計算すると約12万9000円)だったが、中国の不動産サイトによると、2020年には同、約5万8000元(約87万円)となっている。今は外観も古くなったマンションだが、中国元ベースで見れば、約40年間で50倍以上も値上がりしたことがわかる。

日本でも多く報道されているが、中国では土地は国家のものであり、企業や個人が土地を売買することは禁止されている。だが、土地の使用権は地方政府(または国家)の許可を得れば、取得することが可能だ。住宅の場合、その使用権は最長で「70年」までという決まりがある。

不動産の転売で裕福になった

中国の不動産が大きく変わる転機となったのは1990年代後半だ。その頃になって、分譲住宅の開発や販売が進むようになり、それまで「単位」に住んでいた人々は、その住宅をかなり低い価格で払い下げられるようになり、入手することができた(ここで入手できた人々と、入手できなかった人々との間に、その後、膨大な格差が生じ始める)。

都市部に住んでいる人々が格安で入手した不動産は、一定期間、転売が禁止されていたが、上海市などを皮切りに、次第に転売が許可されるようになった。

2000年代になると、高値で転売した資金で新しい不動産を購入し、そこが値上がりすれば、また転売して莫大なお金を手にするという、前述したような「炒房」をする人が増えた。ちなみに「炒」は「転がす」、「房」は「不動産、住宅」という意味だ。

日本ではとても信じられないことだが、中国では一般の労働者であっても、当時、狭い「単位」を購入し、それを転売すれば価格は10倍以上になることも珍しくなく、その資金によって、その後、汗水たらして毎日働かずとも裕福になっていった人々が増えた。

不動産は値上がりするものだった

中国国家統計局のデータによると、住宅の販売価格は2000年から2020年までの20年間で約5倍に膨れ上がっている。

このことからもわかる通り、不動産は「値上がりするもの」という認識を多くの人々が持っており、その結果、不動産は「自分が住むためのもの」ではなく、「お金を生む道具」となり、自分の人生をバラ色に変えてくれる「踏み台」へと変化したのだ。

むろん、中国人が不動産を欲しがる理由はこれだけではない。日本と比較して、賃貸マンションでは居住者の立場が弱く、ある日突然追い出されるなど理不尽な目に遭う確率が高いこと、近年の習慣で、結婚の際は男性が不動産を買わなければならないこと、中国人は現金以外の財産(不動産、宝石、ゴールドなど)に価値を置くこと……などの理由もある。

しかし、不動産を持てるようになってから日が浅い彼らにとって、不動産という「モノ」を所有することには、強いこだわりと憧れがある。だからこそ、彼らの多くは、不動産の購入に目の色を変えて夢中になり、のどから手が出るほど欲しがるのだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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