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9月18日だから起きたのか?中国深圳で登校中の日本人男子児童が中国人に刺される

中島恵ジャーナリスト
(写真:アフロ)

9月18日、午前8時ごろ、中国南部の深圳市で、日本人学校に登校中の男子児童が中国人から刺される事件が起きた。搬送先の病院で治療を受けている。当局は容疑者の身柄を確保、44歳の男性だという。

事件が起きた背景や男子児童の容態など詳細は不明だが、9月18日は中国では「国恥日」と呼ばれる特別な日。中国在住の日本人はとくに気をつけなければならない注意日と言われている。犯人はこの日を狙って、事件を起こしたのだろうか。

918は注意しなければならない日

9月18日は満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日だ。1931年の発生から今年で93年となる。

中国ではその日付にちなみ「918」(ジウイーバー)と呼ばれており、中国各地で関連行事を実施するのが恒例で、東北部の遼寧省瀋陽市にある「九・一八歴史博物館」では朝から記念式典が開催された。午前9時18分には、瀋陽市内のあらゆる道路や施設で警笛やサイレンが鳴らされ、人々が黙祷をささげた。

新聞・テレビなどのメディアも「918」についての報道を大々的に行っており、ウェイボーの検索では「いまの中国は93年前の中国とは違うのだ」「あの戦争でやられた日のことを決して忘れない。我々は強くなった」「抗日戦争は918から始まった」などのワードやセンテンスが飛び交った。

SNSでも、「あの日を忘れない」などのほか、日本を侮蔑するコメントが多数投稿されている。旧日本軍731部隊による生体実験が描かれた映画『731』の予告編も、この日に合わせて公開された。

瀋陽で行われた「918」の式典の様子(CCTVの画面。筆者によるスクリーンショット)
瀋陽で行われた「918」の式典の様子(CCTVの画面。筆者によるスクリーンショット)

中国に住む日本人にとって、とくに安全や言動に注意が必要な日は1年で5日間とも7日間とも言われており、9月18日は7月7日(盧溝橋事件が起きた日)や9月3日(抗日戦争勝利記念日)などとともにその1つ。日系企業の開店イベント、行事などは行わないのが暗黙のルールとなっている。

また、当日に何も起きなくても、7~9月ごろは戦争関連の記念日が多く、「日本」が注目を集めやすいので、注意が必要だ。2021年8月末、大連で日本風の街並みを再現したプロジェクトが「日本の文化侵略だ」などとSNSで批判され、一時営業停止に追い込まれたことがあった。

その年は「918」から90年の節目で、中国メディアがとくに大きく報道。中国共産党100周年も重なり、政府が国威発揚、ナショナリズムを煽ったこともこの一件に影響を与えたのでは、と言われた。

10年以上前の2012年9月は、尖閣諸島を巡る領土問題に端を発して、中国全土100都市以上で大規模な反日デモが起きたが、それは9月17日だった。

今回の事件は日本人を狙ったものなのか、9月18日だったからなのか、まだ真相は不明だ。景気の悪化などから社会不安が広がっている中国には、現状に不満を抱く人が増えている。今年6月には蘇州市で日本人学校のスクールバスを待つ母子が襲われ、中国人女性が亡くなったという痛ましい事件も起きたばかりだった。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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