酒気帯び運転で逮捕→55分後にまさかの釈放のワケは? 飲酒検知の手続を解説
静岡県警が酒気帯び運転の容疑で逮捕した男性を55分後に釈放した。なぜか。改めて飲酒検知の手続を振り返ってみたい。
まず「風船」を膨らませる
酒気帯びなど飲酒運転の検挙は、警戒シーズンにおける飲酒検問や、車なしでは利用が困難な郊外の飲食店近くにおける張り込みのほか、夜間にフラフラと横揺れしながら走行している車の停止を求めるなどし、職務質問するところから始まる。
明らかに酒臭いとか、コロナ禍で警察でも使用されるようになった簡易型アルコール感知器に反応があるなど、飲酒運転の疑いがあると、警察官は正式な呼気検査を求める。もしこれを拒否すれば、道路交通法の「呼気検査拒否罪」で現行犯逮捕される。
それでも拒否したら、令状に基づいて病院で血液を採取されるだけなので、大半の運転手がこの段階で呼気検査に応じる。
この呼気検査は、まず「風船」と呼ばれるポリエチレン製の呼気採取袋の吹き込み口から思い切り呼気を吹き込み、大きく膨らませた上で、そのアルコール濃度を検査するというものだ。
機械式と手動式がある
そのやり方は、次のとおり、大きく分けて機械式と手動式がある。手動式のほうが安上がりで広く普及しているため、取り締まりの現場では簡易な手動式による場合の方が多い。
(機械式)
・呼気採取袋の筒部分を箱状の飲酒検知器に取り付け、測定ボタンを押す。
・自動的に呼気中のアルコール濃度が検査され、測定数値が表示画面に表示される。
・同時に、その数値や日時などを印字した用紙がプリントアウトされる。
(手動式)
・ガラス製で長さ15cmの細長い飲酒検知管の片一方に呼気採取袋を、もう片一方にポンプ式の真空法呼気採取器を取り付ける。
・採取器のハンドルを一杯まで引いて固定し、検知管に採取袋内の呼気を通す。
・一定時間待った後、採取袋を取り外し、ハンドルを戻す。
・再びハンドルを一杯まで引いて固定し、検知管内に通常の空気を通す。
・一定時間待った後、採取器から検知管を外す。
・検知管内の橙色の検知剤が薄青色に変わるので、指し示された数字の目盛り部分に赤いマークシールを貼り、検知管の両端に保護キャップを付け、保護管に収納。
「酒気帯び」か「酒酔い」かを判断
飲酒検知の指示値は、運転手の不利にならないように、真のアルコール濃度よりも2割~2割5分くらい低くなるように設定されている。
こうした呼気検査で呼気1リットルあたり0.15mg以上のアルコールが検出されると、酒気帯び運転として検挙される。
また、この数字を問わず、アルコールの影響で言語態度が異常で、10メートル程度の直線上を歩行できず、10秒間すら直立不動できないといった状態であれば、より刑罰が重い酒酔い運転と判断される場合もある。
一方、これらに当たらなければ、道路交通法違反ではあるものの、罰則が適用できないため、警察官が「少し休んでいくように」などと厳重注意する「警告」で終わる。
手続の適正さが重要
重要なのは、飲酒検知の際の手続の適正さだ。裁判でも、この点が最もよく争われる。飲酒検知の数値は酒気帯び運転などの事実を立証する最重要の証拠だからだ。
そこで、警察でも飲酒検知にあたって様々なルールが定められている。先ほど挙げた飲酒検知の手順を遵守するほか、定められた温度帯で行うとか、呼気採取袋や呼気検知管は1回ごとに使い捨てるとか、水でうがいをさせて呼気を採取するといったものだ。
また、測定や見分などによる調査判定は、運転手に説明し、確認させながら、できる限り2名以上の警察官によって行わなければならない。
どのような事案?
今回は、飲酒検知管の有効期限が問題となった。すなわち、警察は、6月3日午前5時50分ころ、浜松市内において、職務質問を経て行われた呼気検査で規定値以上のアルコールが検出されたとして、男性を酒気帯び運転の容疑で現行犯逮捕した。
しかし、警察官が捜査書類の点検をしていた午前6時半ころ、飲酒検知管の有効期限が約2週間すぎていることが分かった。製造から10カ月とされており、警察では月1回、点検作業を行い、期限切れの検知管があれば廃棄することになっている。
今回は、警察のミスにより期限切れの飲酒検知管がそのまま使われていた。そこで、男性は逮捕から約55分後の午前6時45分ころに釈放されたというわけだ。
今後、警察は期限切れの検知管とそうでないものとの間にどの程度の誤差が生じるのか捜査した上で、男性を書類送検する方針だという。
かなり珍しい展開となった事案だが、そもそも飲酒運転など絶対にすべきでないことは言うまでもない。(了)