鉄道運休で代行バスの運転続くJR美祢線 超混雑の代行バスで見えた高校生の通学格差
山口県の厚狭駅と長門市駅の46.0kmを結ぶJR美祢線が昨年2023年夏に豪雨被害を受けて以来、運休が続いている。現在は、厚狭―長門市間に平日9.5往復(土休日9往復)の代行バスと、代行バスのルートから外れる厚狭―湯ノ峠間に1日9往復の代行タクシーが運行されている。こうした状況に対して、朝の通学時間帯の厚狭―長門市間の列車代行バスが2台運行されており、超満員であることを読者の方から情報提供を寄せていただき、記事(通学時間帯は超満員のバス2台運行! 豪雨災害で運休続く「JR美祢線」 このまま廃線か、それとも復活か)でまとめている。
筆者は、先日、鳥取県の第三セクター鉄道である若桜鉄道を訪問してきたが、この若桜鉄道沿線の高校生は、かなり快適な車両空間で学校に通学しているという実態を目の当たりにした。若桜鉄道で使用されている車両4両のうち3両は工業デザイナーの水戸岡鋭治氏がデザインした観光車両としてリニューアルされ、車内はボックス席にテーブルが完備された車両となり、通学の高校生に快適な移動空間を提供している。筆者が若桜鉄道を訪問した時の様子は記事(高校生に快適な自習空間を提供 輸送密度の数字だけでは見えない「鳥取県の若桜鉄道」が運行を続ける意義)でも紹介した。
筆者は、高校生の帰宅時間帯に鳥取駅から若桜鉄道直通の若桜行普通列車に実際に乗車しているが、若桜駅までの約1時間、車内のテーブルに参考書とノートを広げて勉強に励んでいる高校生の姿も見受けられ、ローカル鉄道が地域社会にとって重要な役割を果たしていることを垣間見ることができ、鉄道の長期運休によりすし詰めの代行バスで通学している高校生の姿とは対照的な印象を受けた。
近年、ローカル線の存廃問題については、単純な路線の収支状況だけではなく、費用便益分析など鉄道が地域に与える外部効果を金銭的な価値で総合的に評価して存廃を判断するケースが増えている。費用便益分析については、社会的便益(B:Benefit)と社会的に費用(C:Cost)を比較し、その比率B/Cが1.0を上回るか否かが注目されがちである。しかし、費用便益分析は、あくまで相対的な費用対効果を図る手法であり、B/Cは一つの参照基準であって絶対的なものではないことから、国土交通省のマニュアルでは、鉄道プロジェクトについて以下のように明記されている。
こうしたことから、鉄道プロジェクトについては、道路プロジェクトと比較してB/Cが低く評価されがちという話もあるようで、鉄道については学術的に継続方法を確立できそうな切り口は他にもありそうだ。例えば、今回のような高校生への快適な通学手段の提供による自習時間の確保による地域住民のQOL向上なども、一つの評価の切り口となりうるのかもしれない。
(了)