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主な新興国経済ニュース(3月21日)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

【ロシア‐3月21日】VTBなど、キプロス危機回避で金融支援の可能性

キプロス議会は19日、債務・金融危機を回避するため、いわゆるトロイカ(EU(欧州連合)とECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)の3国際機関)による同国への100億ユーロ(約1.2兆円)の金融支援の前提条件となっている預金課税を実現するための法案を賛成多数で否決したことで、今後はキプロスと政治的にも経済的にも深い関係があるロシアの金融機関が危機打開に貢献するとの見方が現実味を帯びてきた。

モスクワ・タイムズ(電子版)が20日に伝えたところによると、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)のセルゲイ・ドゥビニン監査役会会長は同日、声明文を出し、キプロス国民から強い反対を受けている預金課税の代替案として、経営破たんの恐れがあるキプロスの国内銀行(ライキ銀行やキプロス銀行など)を国有化し、ロシアを含む欧州から経営者を送り込み経営再建を行うべきだとし、その上で、次の段階として、すべての預金を小分けしてすぐに引き出しを可能な状態にし、その後は最大15年間にわたって預金の引き出しをできるようにする必要があるとしている。

他方、ロシア国営天然ガス最大手ガスプロムの金融部門であるガスプロムバンクもキプロス沖の天然ガス資源の開発権を担保に金融支援を行うことを検討している。融資額は明らかにしていないが、ロシアの法律では最大30億ドル(約2900億円)の支援が可能と見られているようだ。キプロスの天然ガスの埋蔵量は34億立方メートル、石油は2億3500万トンで、欧州に近いため輸出が容易という市場性に優れているので、ガスプロム側のメリットは大きい。

また、ロシアの大手法律事務所エゴロフ・プジンスキー・アファナシエフ・アンド・パートナーズのドミトリー・アファナシエフ会長は、キプロスへの融資となれば、政府系のVTBが最も有望だと指摘する。VTBはこうしたキプロスの石油・天然ガス資源の開発権、さらにはキプロスの不動産や銀行株を担保に資本市場で社債を発行し、資金調達も可能だという。この法律事務所は2008年の世界的な金融危機の際、170億ドル(約1.6兆円)の負債を抱えたロシアのアルミ地金世界最大手UCルスアルの経営再建に寄与したことで知られるだけに、キプロス危機もビジネスチャンスと見ている。

キプロスは欧州の中では法人税が低いため、多くのロシア企業はいわゆるタックス・ヘイブン(租税回避地)としてキプロスの銀行に多額の預金をしており、その預金額は推定300億ドル(約2.9兆円)にも達しているといわれる。3月14‐15日のEUサミットで、キプロスは総額およそ170億ユーロ(約2.1兆円)の救済資金を必要としているが、そのうち、58億ユーロ(約7200億円)を自己負担し、100億ユーロ(約1.2兆円)をEUからの融資を受けることで合意した。しかし、この自己負担を銀行預金に課税することで、事実上、預金の一部が国によって没収されるため、キプロスでは課税前の取り付け騒ぎが起きている。

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【ロシア‐3月21日】情報技術・通信省、長距離電話ロステレコムのCEO更迭か

ロシアの情報技術・通信省は長距離電話最大手ロステレコムのアレクサンドル・プロボトロフCEO(最高経営責任者)を更迭し、新CEOに子会社のCATV大手ナショナル・ケーブル・ネットワークス(NKS)のセルゲイ・カルーギン元CEOを起用する準備に入ったもようだ。ロシアのプライム通信(電子版)が18日に政府筋の話として伝えた。

政府機関紙イズベスチャによると、経済発展省とロステレコムの株式6.86%を保有している連邦国家資産管理局はすでに、カルーギン氏の次期CEO就任を同意しているという。昨年10月、情報技術・通信省はロステレコムの経営陣に対する批判を強める中、親会社の国営通信持ち株会社スビャジインベストのバディム・セミョーノフCEOをロステレコムのトップに据えるよう大統領府に進言したが、その当時は見送られていた。

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【インドネシア‐3月21日】東レ、インドネシア事業拡大で2020年までに480億円投資へ

東レ<3402.T>のインドネシア現地子会社を統括する東レ・インダストリーズ・インドネシアは18日、織物や繊維品など既存の中核事業の拡大や新事業への取り組みを図るため、2020年までに5億ドル(約480億円)を投資する方針を明らかにした。地元経済紙ビジネス・インドネシア(電子版)が伝えた。

同社の大河原秀康社長によると、新事業はプラスチック樹脂や包装材料用フィルム、ろ過膜など水処理装置、医薬品・診断装置などの医療の4分野で、これらの新事業の展開で約2500人を新規採用し、2020年までに全体の従業員数を7500人規模に拡大する計画。

また、100億円を投じてバンテン州タンゲランに建設中だった高機能ポリプロピレン長繊維不織布(PPスパンボンド)工場(運営主体は東レ・ポリテック・ジャカルタッ)がこのほど完成し、当初予定していた6月の操業開始から2カ月早めて4月から稼働する。生産品目は乳幼児用オムツに使われる綿織物で、生産能力は年間2万トン。このほか、プラスチック樹脂成型加工の新工場も11月から稼働する予定。

東レグループのインドネシアでの販売額は昨年で5億-5億5000万ドル(約480億‐520億円)だったが、2020年までに2倍の11億ドル(約1050億円)超を目指すとしている。

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【インドネシア‐3月21日】世銀、今年の成長率見通しを6.2%増に下方修正

世界銀行は18日に発表したインドネシアの四半期経済調査で、同国の今年のGDP(国内総生産)伸び率を前回予想時の6.3%増から6.2%増へ下方修正した。来年の成長率見通しは前回予想と同じ6.5%増に据え置いた。昨年のGDP伸び率は6.2%増と、2011年の6.5%増を下回っており、今年も昨年並みにとどまる見通しだ。

世銀によると、今年の同国の成長率見通しを下方修正したのは、国内投資の伸びが鈍化する可能性があるためとしている。実際、昨年10‐12月期の固定資本形成の伸びは4‐6月期の12.5%増から7.3%増へと、大幅に鈍化しており、今年1月の資本財の輸入額も前年比12.1%減となっている。

また、高インフレが消費者の購買力を低下させるリスクも指摘している。中央銀行がインフレ抑制のため、金融政策を引き締めた場合、消費が抑制される一方で、企業の借り入れコストが上昇し国内投資にブレーキがかかる恐れがある、と指摘している。

このため、今後必要となる景気対策は、公共インフラ投資の増大や貿易での国際競争力の強化、燃料補助金の改革を挙げている。

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【ベトナム‐3月21日】中銀、経営難の弱体銀行を強制合併へ

ベトナム中央銀行はこのほど、国内の金融システムの安定化を図るため、経営が悪化している弱体銀行を監督下に置き、強制的に公的資本の注入による自己資本の強化やリストラ計画の策定、他行との合併や資本提携を実行する旨の通達を出した。地元紙サイゴン・タイムズ(電子版)が17日に伝えた。

通達では、中銀の監督下に置かれた弱体銀行の累積債務が内部留保や授権資本金を超え、また、破たんによって国内の金融システムに重大な悪影響を及ぼすと判断した場合には、国内の金融機関に弱体銀行の株式を取得させるか、または、買収させるとしている。

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【ブラジル‐3月21日】石油大手ペトロブラス、2013-2017年事業計画は昨年並みの22.6兆円規模

ブラジル国営石油大手ペトロブラスはこのほど、2013-2017年の5カ年中期事業計画を発表した。それによると、総投資額は2367億ドル(約22.6兆円)で、これは昨年の5カ年事業計画(2012-2016年)の2365億ドルとほぼ同じで横ばいを維持している。

今年の総投資額の主な内訳は探鉱活動が全体の62%を占めて最も多く、次いで下流部門(石油精製)が27%となっている。また、総投資額の大半の2071億ドル(約19.8兆円)は既存のプロジェクト向けで、残りの296億ドル(約2.8兆円)が計画中のプロジェクト向けとなっている。

また、原油と天然ガスの生産目標は2012年の石油換算の日量200万バレルから2016年に同250万バレル、2017年には275万バレルと、現在に比べ75万バレルの増産を目指す。さらに、2020年には同420万バレルと、現在の2.1倍に引き上げるとしている。

このうち、海底油・ガス田鉱区のプレソルト(岩塩)層での生産は2016‐2017年に大半がスタートし、2017年には全生産量の35%に相当する日量100万バレルに達する見通し。これは今年2月20日にサントス湾とカンポス湾の鉱区で記録された日量30万バレルの3.3倍となる。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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