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デジタルラジオは実際どうなの?とある人々の話/ノルウェーでFM放送を廃止

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ノルウェーのタクシーで聞くデジタルDABラジオ Photo:A Abumi

ノルウェーの首都オスロから離れ、西部を移動していた時のことだ。この地域ではすでに国営や大手民間ラジオ局でのFM放送が終了し、デジタルラジオDAB+(以下DAB)が導入されている。

オスロではまだFM放送が続いているため、この地域ではどうなっているのか興味があった。

山の中を走る中、タクシーの運転手に「DABラジオはどうですか?不便なことはありますか?」と聞いてみた。

助手席側、窓の外側に付けられたDABアンテナ Photo:Asaki Abumi
助手席側、窓の外側に付けられたDABアンテナ Photo:Asaki Abumi

「氷や雪が出る寒い時期に、フロントガラスを電熱線であたためようとすると、窓の外側に付けているDABアンテナが濡れて、ラジオの音が途切れ始めるよ。ほら、助手席側の窓の外側についているのが最初のDABアンテナ。でも電熱線を使うときは調子が悪いから、運転手席側の窓の内側にも2個目のアンテナをつけた。これならラジオを以前のようにきくことができる。そのくらいかな」。

運転手席側、窓の内側に付けられたアンテナ2本目Photo:Asaki Abumi
運転手席側、窓の内側に付けられたアンテナ2本目Photo:Asaki Abumi
窓の内側に付けられたアンテナ、外から撮影 Photo: Asaki Abumi
窓の内側に付けられたアンテナ、外から撮影 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの電化製品店エルショップの公式HPをみてみると、車用のDABアンテナは現在1個349~399ノルウェークローネ(およそ4894~5595円)だ。DAB放送をきくための、車、別荘、自宅、船などでのラジオ取り換え費用は国民の自己負担となる。

7月14日のAマガジン紙には作家のラルセン氏によるこのような寄稿記事が掲載されていた。タイトルは『DABと過ごす夏』。

私は今コーヒーを飲みながら、買ったばかりの6万4500円のDABラジオComo Audioを目の前にしている。

しかし、どのチャンネルも聞くことができない。私と文明社会とのつながりが途絶えてしまった。

私のリモコンの電池の調子が悪いのだろうか。電気系統がおかしくなったのか。この地域で技術的問題が発生しているのだろうか。いや、どうやらそうではない。

これほどばかばかしいことはない。バカの行列だ。しかし、私はそれを大きな声にしては言わない。夏休みは始まったばかりだ。

1週間前まではFM放送ですべては完璧だったのに。

窓側に置いてみる。何も起きない。イライラしてコーヒーカップの元に戻ると、何か音が聞こえてきた。その音はまた消えた。私がまた動くと、ラジオから司会者の声がきこえてきた。また、消えた。

この野郎。ノルウェーの決断者たち(※国会に座っている政治家を指す)。キャリアばかりにこだわり、デジタル化を美化するあの人たち。

戦争が起きたら、私はどうすればいいのだ。天気予報はどうやって知るのだ。楽しみにしていた夜中のラジオの時間はどうすればいいのだ。

あなた方はどのようなへまをしてもいい。でもお願いだ。私のラジオにだけは介入しないでほしい

出典:A MAGASINET

それでもノルウェーは、速度を落とすことなく、FM放送全廃へと向かう。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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