TM NETWORK、無観客配信ライブによるシアトリカルなサイバーパンク物語が放つ意図とは?
2021年、6年ぶりに再起動したTM NETWORK(小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登)。10月に突如開催した無観客配信ライブ『TM NETWORK How Do You Crash It?one』に続いて、2021年サイバーパンクなTM NETWORK最新章『TM NETWORK How Do You Crash It?two』を、12月11日にアップロードした。
いわゆるニューノーマルなオンラインライブの新形態だ。
振り返ればTM NETWORKは、常に未来を予言してきた。1988年にアルバム『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』でのアルバム作品やメンバーである木根尚登執筆による小説作品を通じて、現在でいうメタバースのような仮想空間を“ラ・パス・ル・パス”としてクリエイトしていたのだ。物語の主人公キャロル・ミュー・ダグラスは、自身が通う学校の複合芸術教室にあったメタバースへと直結するグラフィック・コンピューター・システムを使って電脳空間へダイブする。
ポイントはここだ。
その世界には、ガボールスクリーンという名の、アバター化したようなTM NETWORKの3人が存在した(宇都宮隆=フラッシュ、木根尚登=ティコ、小室哲哉=マクスウェル)。現在へと通じるエンタテインメントの未来を予見した物語を30数年前に描き、かつミュージカルのエッセンスを取り入れた全国ツアーとして具現化していたいわゆる最盛期のTM NETWORK。
そもそも、本ツアー『TM NETWORK CAROL TOUR FINAL CAMP FANKS!! '89』では、全国10カ所で衛星を使って同時中継という、現在では当たり前となったライブ・ビューイングを、よりグローバルな規模で先取りして実践していた驚きの事例もある。しかも1989年に、だ。
メタバースのルーツは一般的には、1992年に発表されたサイバーパンク小説『スノウ・クラッシュ』における架空の仮想空間サービスの名称であると言われており、単純にTMが描いた構想は4年間早かったのだ。
あれから幾度となくパイオニアとしてのチャレンジは行われ、時には活動休止を経て、2021年秋、再び再起動した小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による個の連帯であるプロジェクトTM NETWORK。
2021年、最新シリーズ『How Do You Crash It?』は、TM NETWORKらしく無観客ライブにおけるストーリーテリングされた画期的な配信ライブを、2021年10月(one)〜12月(two)〜2022年2月(three)と、シリーズ化することとなった。
これが、完成度高い映像美によるライブシーンの連続で、TM NETWORK最盛期を超える勢いでFANKS(※TMファンの意)の間で盛り上がっている。そもそも、ファンに固有のネーミングを与えるカルチャーは昨今BTSでいう“ARMY”によって盛り上がりつつあるが、TM NETWORKは“FANKS”として80年代に実現していたのだ。ファンコミュニティーとして熟成された熱量の高さは、半端ないものがある。
そして、12月11日にアップロードされたSF映画的なプロットがライブ表現として具現化したシリーズ第二章『How Do You Crash It?two』の公開。
季節的に、TMらしい冬の歌を中心に時代を超えて選曲され、それは人との出会いや別れ、すれ違いをテーマとした、まさに俯瞰視点での“humansystem”をキーワードとした楽曲で構成された57分となった。
パンデミック時代、いかにしてライブ・エンタテインメントをDXするかに挑戦してきたアーティストは多々いる。しかし、しっくりときた施策は多くはなかった。ふと思った。『How Do You Crash It?』こそが、オンラインライブの正解なのではないのだろうか?
映像作品でありながら、まるでアルバムのようにコンセプチュアルなクオリティーであり、映像を付加価値とした考察しがいのあるSF色の強いストーリーテリング。TM NETWORKとは何者か? バトンの存在とは? 登場する少女が象徴する意義とは?
TM NETWORKによるドラマティックなステージは、まさにラジオスターやビデオスターならぬ、ストリーミングスターの誕生のように感じた。まるでNetflixにおけるシリーズ作品のようなおもしろさを感じたのは僕だけではないはずだ。
事前にオフィシャルTwitterで予告された物語のテーマは、
『How Do You Crash It?two』
2021.12.11 21:00 start
戻ってきた三人。 そのきっかけを作った、ある少女。
そして、時は止まらない。。。
という一言。
そして、リーダーである小室哲哉から提示されたコメントは、
oneに日本語サブタイトルをつけるなら再会か再起動です。twoは分断ということになるのかもしれません。 ─ 小室哲哉
だった。
今回、上映されたライブ映像のテーマは“分断”だ。アメリカと中国、ロシアとの緊張感ある関係性。世界各地での終わらない戦争や紛争問題。国という壮大な規模ならず、思想や生き方、差別問題、生きた時代の違いによる世代間における考え方のすれ違い、多様性の受け取り方の差異もあり、人々は日々”分断”という問題と向き合う時代。TM NETWORKは、そんな社会的なテーマへ、彼らが生み出してきた名曲に新たな命を吹き込んだアレンジメント、表現スタイルの進化によってエンタテインメントで解決を試みていく。その、向かうべき次世代をイメージする存在が時折登場する少女なのかもしれない。
オープニング。映し出された異国を感じるロンドン、ニューヨーク、ジャカルタなどのワンシーン。それは地球に潜む潜伏者からの情報提供であり、状況をリサーチする地球外生命体のTM NETWORKの3人。
そして、情報データが詰まったバトンを手にするメンバー。
2015年に、一旦幕を閉じた30th TM NETWORKプロジェクトからの継続を感じるシーンの数々。
そしておそらく6年前にも観た、小室哲哉が4Kカメラで撮影したであろう、あの日の美しい夕暮れがタイトルバックに映し出される。
1曲目は、2015年『TM NETWORK 30th FINAL』のラストで演奏した「Fool On The Planet」が歌われる。FANKS人気の高い、メロディーの美しさの定評ある木根尚登作曲によるナンバーだ。刺さったのは小室みつ子による歌詞が映える“You might think just a dream 時が巡ってもきっと人は惑星に立って Make a wish, make it true 想いを描くよ Like a fool, they said 探し続けていくforever”のフレーズだ。
突如投げかけられた色褪せない永遠なる名曲に、うっとりとする画面越しのオーディエンスの顔が思わず浮かび上がってくる。
TM NETWORKの楽曲が、ピコピコしたデジタルの打ち込みサウンドというステレオタイプなイメージを持つリスナーがもしまだいるのだとすれば、驚きを隠せないナンバーかもしれない。
TM NETWORKは、実はUKポップミュージックからの影響が大きい。それこそ、過渡期であるニューウェーブな時代だ。10cc、ケイト・ブッシュ、ピーター・ガブリエル、エイジア、マイク・オールドフィールド、エレクトリック・ライト・オーケストラなどの影響をうかがわせるナンバーに注目したい。もちろん、そのままのインスパイアというよりは、ある種キーワードとしての隠し味といったニュアンスではあるのだが。楽曲から伝わってくる感動への想いは、無観客ライブであっても熱いリアルタイムなコメントを通じて伝わってくる。
そんな意味では、同じくUKカルチャーに魅せられロンドンへ移住した布袋寅泰とのコラボレーションをいつか観てみたい。そう思うのは音楽ファンのわがままなのだろうか。
再びシーンはライブ画面へ。モーツァルトのピアノソナタ第11番(トルコ行進曲)のメロディーを引用、そしてマッシュアップした「HUMAN SYSTEM」では、人と人が出会う運命と偶然性の確率。そんな奇跡を、心に染み入るメロディーの美しさと儚さによって憂いを奏でていく。
木根尚登によるピアノ、小室哲哉のシンセサイザー、宇都宮隆のヴォーカル。永遠なるトライアングルが機能した「WINTER COMES AROUND」も美しい。続く、冬の歌「Here, There & Everywhere」は、そもそも、1970年代前半、小室が10代の頃に作った曲であり、自身による歌詞ヴァージョンもデモ音源で存在する大名曲だ。
いま、最も聴きたかったナンバーを突如耳にすることができて放心状態な筆者だ。
そもそも、本来今回はライブレポートをするつもりはなかった。無観客配信ライブなのだから、アーカイヴもあり、誰もが繰り返して見ることができ考察をそれぞれの妄想ですることが可能だ。ライブレポートは、時にその情報開示からリスナーによる創造を邪魔することにもなりかねない。
しかし、筆は止まらなかった……。
オンラインライブの進行に合わせて、リアルタイムにキーボードは進み文字が止まることはなかった。今回のレポは前回に続いて、勢いでほぼリアルタイムに書ききった記録であることをオーディエンスの方には理解してほしい。
そんな自分語りをしようとしていたら、突如英語のナレーション(日本語字幕付き)が入り、“分断”をキーワードに物語が展開されていく。
並行(パラレル)とは、私の正義とあなたの正義のようなもの。
あるいは我々の時の流れと彼らの時の流れ。
だから分断が生まれる。
それを看過するのは最大の過ち。
我々はそれを打破しなければならない。
How do you crash it?
ここで小室哲哉によるソロパートへ。
しかしながら、プログレッシヴ・ロックなキース・エマーソンなどを彷彿させるようなプレイではなく、落ち着きを感じさせる演奏に新鮮さを感じたのは筆者だけだろうか。そこにも、考察すべき行間があるのではないだろうか。そして火柱とともに時折、あのフレーズが少しだけ聴こえてくる。そう、「TIME TO COUNTDOWN」だ。
画面は切り替わり、小室哲哉がモニターに向かってスプレーを発射する。何かを打ち消すかのような行動なのかもしれない。映像は続いていく。プログラミング・コード、座標、ソーシャルグラフ。あらゆる国が線と線によって紡がれている。それに意味はあるのだろうか。疑問を考えさせる間すらなく、インパクト強かったのが、地球がガラスのように壊れていく様だ。
さらに、英語のトークとテロップによる、
誰もが過ちを犯す。過ちは分断を生む。
SNSもメタバースも止める事はできない。
故に我々は過去と未来を見張らねばならない。
というワードが持つ潜伏者による宣誓のようなインパクト。そして、謎めいた音源プレイヤーによるプレイリストが表示されたと思いきやスプレーで消されるという自体……。
3人が再びステージへ。
宇都宮隆が、テレキネシスでモノリスのような自由自在に空間で稼働する照明プレートを操る。空中で文字が浮かんでは変化していく。
あなたはこの謎が解けただろうか?
1986年に生み出されたTM NETWORKによる初期代表曲である「Come On Let's Dance」が、リリック含め完全に2021年のナンバーとして響き渡る。さらに、聴きなれないポジティヴィティに富んだイントロダクションから奏でられる新鮮な「LOUD」ニューヴァージョンに心惹かれる。印象が様変わりした、まさに声無き声を代弁する“優しさを持った「LOUD」”。アレンジメントが異なることによって、歌詞から伝わってくるイメージが変わってくるから不思議だ。
今回のライブステージでの選曲意図はそこにあるはずだ。
誰もがいぶかしがりながら口にする“こんなご時世”という言い訳じみたせつなき呪いの言葉。そんな苦しく辛い思いを塗り替えていくナンバーへと「LOUD」が生まれ変わっていることに驚かされた。
そう、“僕らはもっともっと エモーショナルでいいのさ”。
さらに思いを突き進め2021年へと紡ぐ「LOVE TRAIN」。まるで様々な祈りを運んでいくかのような疾走感だ。
地球の情報をiPadでチェックする潜伏者なのであろう少女のワンシーンを挟み、TM NETWORKが誇る世界へ向けた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌「BEYOND THE TIME」へ。“メビウス”という繰り返していくことを意図するキーワードが、分断された社会、地球環境が世界の課題となっているいま、せつなくも心に突き刺さってくる。
幾度にもわたる戦争を経験しながら、旧態依然としてスペースノイドに弾圧を続ける地球人類の粛正を決意し、新生ネオ・ジオンの総帥シャア・アズナブルは地球を守るために、コロニーを地球に落として寒冷化しようとした……。非現実と想いが重なりながら、ふと思う。人類は同じ過ちを繰り返すのだろうか……。
港の映像が映し出される。不協和音なSEがおどろおどろしい。
またしても登場する少女の姿。その表情は暗い。
そして、突然に映し出された“to be continued”の文字……。
思わず思った。”スレッガーさんかい?早い!早いよ!」(by カイ・シデン)”。
ラストに流れるは、前回『How Do You Crash It?one』と同じく、小室哲哉によるシンセポップなシーケンス・メロディーだった。
こうして、物語はTM NETWORK無観客ライブ最終章である『How Do You Crash It? three』へと続いていく。まずは、本作を何度もチェックして究極のフィクション・ユニットであるTM NETWORKが描くべき真意、本質を探りとってみてほしい。答えを見つけるのは次世代音楽ファン、そしてコアなFANKSであるあなただ! そして必ずや映像本編をリフレインしてチェックしてほしいと願う。
【配信ライブ概要】
TM NETWORK「How Do You Crash It?two」
■配信日時
配信期間:12月11日(土) 21:00〜12月19日(日) 〜23:59アーカイヴ視聴
※「How Do You Crash It?three」は2022年2月に配信予定。
■配信チケット価格
¥4,800 (+各配信メディアの定める手数料)
■配信チケット発売日
12月3日(金)18:00〜
■配信メディア
ローチケLIVE STREAMING
https://l-tike.zaiko.io/e/tmnetwork2
ニコニコ生放送
https://live.nicovideo.jp/watch/lv334713904
Streaming+
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